岐阜県にて、米や葉物作りに励む60代の農業従事者です。近年、イノシシが山間部や農地だけでなく、住宅地周辺にまで出没するようになり、近隣でも猿やしかによる農産物被害が増えていると聞きます。
自治体が対応をしてくれていますが、狩猟免許保持者の高齢化や、人手不足の問題もあり、難しい状況です。また、防護柵も作っていますが、あまり効果があるようにも思えません。
野菜など農作物への食害が大きいので、農家仲間からは駆除したいという声が大半です。
ですが、野生の生き物が住宅地にまで出てきてしまうようになった一因は、農家の減少による耕作放棄地の増加や、里山の管理ができていないことにも原因があります。
なるべく殺生は控え、人道的な方法があると良いのですが……。
他の地域で有効な対策をしているところがあれば、参考に対策を立てたいです。
(岐阜県・稲森さん/仮名・59歳)
古谷益朗
野生生物研究所ネイチャーステーション
食べ物と居場所をなくし「行っても無駄」と学習させれば捕獲・駆除は不要になります
イノシシやシカ、サルなどの野生動物が人里へ出るようになった理由は2つあります。ひとつは、食べ物が簡単に得られること。そして2つ目は外敵に脅かされない安全な休息場であることです。これらの要素がそろうと、野生動物は定着してしまいます。
反対にそのどちらか一方が満たされなければ、ずっと暮らす場所に選ばないのです。実際、野生動物の被害が多発している地域は、ほぼ間違いなくこうした条件がそろっています。
野生動物の問題は、我々にとって実害が出てしまうことです。農家であれば農作物への被害、地域の住民ならば家屋への被害や人的被害などが挙げられます。解決への近道は、人里へ進出してくる「理由」をなくしていくことです。
それはつまり、彼らの食べ物と休息場を、人間の生活域内から徹底的に排除していくことが最優先。この根本的な課題を解消しない限り、対症療法的な捕獲を続けることは問題の解決にはなりません。
野生動物も利口なので学習します。食べ物がないとわかったら「行っても無駄」と知って、次第に行動エリアから除外するのです。また、近くに休息できる場所がないと知ればさらに足は遠のいていくでしょう。「危険を冒してまで行く場所ではない」と学習させることが重要なのです。
細かな対応の仕方は動物の種類によって違いますが、考え方の基本は変わりません。大切な田畑や地域を守るために、一人ひとりが正しい事実を知り、正しい技術で対策に取り組めば、捕獲や駆除は必要ではないのです。
とはいえ、集落への依存度が高くなり人里から離れず危害を及ぼす個体や、明らかに増加しすぎた個体群については最低限度の個体数調整はやむを得ません。