沖縄本島から約100km離れた離島、久米島でムラサキイモ(ダイジョ)を中心に育てている農家です。
島にはさとうきびを栽培している農家が多いのですが、ムラサキイモの栽培に転作する人も多くなっています。
私の畑は海に近い場所にあり、台風が通った後は海から巻き上げられた大量の海水が畑全体にまかれてしまいます。
定期的に水を多めに撒いて塩を地中に落としているのですが、それでも塩害になってしまわないかと心配しています。
水をまく以外に、速効性のある塩害対策はないでしょうか。
(沖縄県・高山さん/仮名・40代)
吉川夏樹
新潟大学 教育研究院 自然科学系 農学系列、農学部農学科教授
灌漑水を大量に流して除塩する「リーチング」が最適です
水田地帯であれば用水路が併設されていますので、灌漑水を大量に流して除塩をします。2011年の東北地方の津波被災地では、このような方法で除塩していました。
この方法は「リーチング」といいます。我が国は降水量が多いので、そのままにしていても次第にリーチングされます。
かつてJICA(国際協力機構)などのプロジェクトで、乾燥地域に灌漑施設を作った結果、塩類集積が発生してしまい不毛の土地になったこともあります。
こうした乾燥地では雨が降らないので、もう除塩することができません。
要するに、塩害対策としては、灌漑水によるリーチング以外に方法はないと思います。
吉野石膏(株)セラミック営業部
吉野石膏株式会社セラミック営業部
土壌改質剤である石膏資材が、塩害の除去にも効果を発揮することがわかっています
石膏は硫酸カルシウムですが、農業分野では主にカルシウムを補給する肥料や土壌を団粒化する土壌改質材などとして利用されています。
この石膏資材が台風や高潮による海水流入が引き起こす塩害の除去にも効果をあげることがわかっています。
海水の塩分であるナトリウムと塩素は、土壌中に残留します。
塩素は水に流れやすいので、雨や灌水によって流すことができますが、ナトリウムは土粒子表面に付着して粘土化し、水での除去が難しくなるとともに、水はけも悪くなります。
その結果、作物の生育にも大きな影響を与えます。
そこに石膏を散布して土壌とよく混和(耕起)することで、石膏中のカルシウム(イオン)が海水の影響で吸着したナトリウム(イオン)に置き換わって、ナトリウムを土壌から引き離し、水に流れやすくします。
その上で潅水して塩分を流し出しますが、それによって除塩が進むとともに作物の育ちも良くなります。
私たちの会社でも、東日本大震災の際に津波被害にあった宮城県内の農地に溜まった塩分の除去に石膏を使う試みを宮城県や農林水産省とともに行い、大きな成果を挙げています。
その後、農林水産省(農村振興局)でも、東日本大震災での除塩対策の実践、実証を踏まえて、「農地の除塩マニュアル」と題する資料を作成し、「石灰質資材の散布」と「耕起」「湛水・排水(畑の場合は散水)」を組み合わせた方法を推奨しています。