有機無農薬栽培で米づくりに取り組み、収穫したお米は「生き物にやさしい」ことを売りに、産直で販売しています。
私自身は中干しに疑問を感じつつも、6月下旬から10日ほど行なっています。
中干しが土の中に酸素を補給して根腐れを防ぎ、根が強く張るように促し、有害ガス(硫化水素、メタンガスなど)を抜いて根を活性化させる効果があることは理解しています。
ただ、この時期はオタマジャクシがカエルに孵るなど、いろんな水生動物たちが活発に活動している時期です。
最近は地球温暖化防止のために、「環境保全型農業直接支払交付金」の制度や「みどりの食料システム戦略」の技術カタログなどでも、中干し期間の延長がすすめられています。
しかし、期間を延長すると、水生生物たちの生息環境を奪うことになるので、少し疑問を感じます。
それに、中干しして土を乾燥させると稲の根が畑作物の根に近づくために、次から水を入れる時に根腐れ状態を起こしやすくなってしまい、生育にはマイナスな気もします。
それでも推奨されるように長期的に中干しはやった方がよいのでしょうか?
(京都府・吉岡和也さん/仮名・40代)
佐々木茂安
日本のお米をおいしくしたい。佐々木農業研究会代表/農業経営技術コンサルタント
米作りの中干しの効果は、土づくりも含めた栽培上の前提条件によって変わってきます
中干しの役割は、イネの生育が進んでいない場合には、根の環境を整えて生育を促進させる役割がある一方で、逆に生育が旺盛な場合には根を切断して生育を止めるなど、全体としてイネの生育を調整する目的で行います。
そのため、多くのイネの栽培暦では「中干しをしよう」と推奨しています。
一方で、国では地球温暖化防止対策として、メタンや硫化水素の発生を抑えるために、水田環境が嫌気状態(酸素を含まない状態)になるのを避けるよう指導しています。
このように、中干しは、相反するそれぞれの思惑のなかで当たり前のように行うようすすめられていますが、どのような前提条件でも行うのがよいのでしょうか。
イネは光合成を行う際に、水の電気分解と二酸化炭素から有機化合物と酸素を作り出すので、水の供給を止めるのは避けた方がよいことがわかります。
土壌の条件、たとえば土壌が酸性か、アルカリ性化を示すpH(水素イオン濃度=H +)も関係してきします。
pHが高いほど、アルカリ性が強いことを示しますが、鉄の還元が起こりにくく、水に溶けなくなるため、根のまわりに酸化鉄がつきにくくなり、養分を吸収しやすくなるものの、硫化水素からの防御能力が落ちて、根腐りしやすくなります。その場合は酸素の要求が多くなるので、干した方がよいでしょう。
逆に土壌のpHが低いと、酸性が強いことを示すため、鉄は溶けやすくなり、その結果、根のまわりに鉄が付着して硫化水素から防御されるので、湛水状態に耐える力が増します。
とはいえ、米の収量や品質の観点からいうと、中干しをしないと、通常より生育が遅い「遅れ穂」が出やすく、収量は多くなるものの、登熟(光合成によってデンプンを貯める)がバラついて、品質が悪くなるケースが多くなります。
以上のように、中干しをするか、しないかの判断基準は、前提条件となる前年の土作りも含めた、稲作の作業過程によって変わってきます。どちらを選択するのが自分の圃場にとって適切なのか、事前にしっかりと考えておくことが大切です。
生産者の大多数は、こういった前提条件を考えなくても暦通りに作る人が一般的です。また、指導する側も、環境保全を踏まえたうえで、生産者が前提条件を考えなくても、収量がそこそこ確保できるように暦を作っています。
それでもごく少数ですが、こうした作業の前提条件をしっかり把握して栽培されている生産者もいます。こういう生産者の多くは、食味コンクールなどで入賞を目指すような強者です。
最後に結論として、中干しをした方が良いのか、しなくても良いのかの判断は、まずは土作りを含めた栽培上の前提条件を知るところから始めてください。その前提条件を踏まえたうえで判断してみてはいかがでしょうか?