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家畜(ヒツジとヤギ)がストレスを感じているかどうかは、どこに注目して判断したらいいですか?

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家畜(ヒツジとヤギ)がストレスを感じているかどうかは、どこに注目して判断したらいいですか?

仲間と共に、子供たちや障がい者、高齢者などを対象にした体験牧場を目指して、2年前から中小家畜を飼い始めました。

現在、ヒツジとヤギが計20頭あまり。今後、ニワトリやウサギなど、畜種も増やしていく予定です。

現在、体験プログラムの検討とともに、来場者の消毒や手洗い場所、飼育場所と隔離した体験場所など、衛生管理に配慮した施設の整備を行なっているところです。

最近はアニマルウェルフェア(動物福祉)の重要性が叫ばれているので、飼育現場においても家畜に不必要な苦痛やストレスを与えないことが求められます。

人とのふれあいも、餌やり体験は別にして、多くの体験プログラムは家畜にとってストレスに感じると思うので、十分配慮していきたいと思っています。

体験プログラムの1回あたりの時間を決め、1日にどれくらい実施するかも検討していきたいと思っていますが、その判断基準がわかりません。

家畜(ヒツジとヤギ)がストレスを感じているかどうかについて、行動や見た目のようすなどで、どこに注目して観察し、判断したらよいですか?
(長野県・宮坂優斗さん/仮名・30代)

加藤武市

加藤技術士事務所

ヤギもヒツジもストレスを感じると毛を噛み取ったり自傷行為を起こします

家畜にとってストレスになる要因を調べてみました。

1、環境的ストレス
気温、気象、 暑熱、 寒冷、騒音など
2、人為的ストレス
ワクチン接種、輸送、去勢、分娩、絶食、密飼いなどがあります。

▼家畜にとって最適な気温とは?
このなかでも、特に①の「暑熱」については、畜種ごとに快適な気温がありますので、夏場が近くなってくると、家畜も人間と同じように暑さのせいで熱中症になり、死に至る場合もあります。

畜種別にみると、ヒツジ、ヤギの適温は5~20℃の範囲です。

ニワトリは、汗腺がないことから暑熱環境には著しく弱く、採卵鶏では産卵率や卵重の低下、肉用鶏では発育の停滞を招きます。気温35℃以上では熱死がみられます。

またウサギの飼育に適した温度は18~24℃になっています。

ふれあい動物園における問題点として、気温の影響が挙げられます。この対策として、夏季においては涼しい室内における小型種との触れあいを重視することや、屋外飼育場に木陰を増やすことが重要です。

▼ふれあい動物園では何が飼われているか?
ご相談者さんはこれから動物の種類を増やしていくとのことですが、ここで全国のふれあい動物園でどんな動物が飼育されているか、調べてみましたところ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、小型ほ乳類では、ウサギとテンジクネズミが多くなっています。

このうち、ヒツジの種類では、「コリデール」が最も多く、それに次いで「サフォーク」「チェビオット」「セントクロイ」などが飼育されています。

ヤギでは、「シバヤギ」が最も多く、「トカラヤギ」「ヤクシマヤギ」「ミミナガヤギ」「ザーネン」などが飼育されています。
ウマになると小型種が多く、全国のふれあい動物園の約半数でポニーが飼われています。

開園中は、常にスタッフが1名以上、動物のそばで立ち会って安全管理等に配慮しています。

また、来園者のほとんどがリピーターなので、基本的なルールを遵守しています。お客さんの動物の扱い方にはこれまで特にトラブルは発生しておらず、無理に追い回すこともなければ、動物が嫌がるような持ち方をする人も報告されていません。

▼ヤギとヒツジを混合飼育することについて
ヤギとヒツジの行動はよく似ていて、活動時間の6割は、採食や移動などといった動きを伴う行動に費やされます。

一方で異なる点もあります。

ヤギの行動範囲は放飼場全体に広がっているのに対し、ヒツジはあまり動き回らずに、特定の場所にかたまる傾向があります。

そして、ヤギは人に対して友好的な動物なので、入場者数が増えることで友好的な行動も多くみられるようになりますので、ふれあい動物園での飼育には向いています。

ただ前述したように、ヤギにとって気温の変化は、社会行動に結びつく大きな要因となりますので、気温が高くなると行動に元気がなくなります。

先ほど、ヤギは人間に友好的だと申しましたが、仲間のヤギに対しては激しく攻撃的な行動を示す時もあります。でも、入場者に危害を及ぼすような行動はまったく見られません。

ヒツジの動きが少ないことは幼児が触りやすいという利点につながりますから、行動内容が異なる動物同士を混合飼育することは、展示上の長短所を補完できる点で有効といえるでしょう。

ふれあい動物園のような環境で飼育されているヤギは、日ごろからブラッシングや餌やりといったご褒美を受けているので、入場者に一層友好的になると言われています。

一方、ヒツジ(コリデール種)は、警戒心は強いのですが、性質は非常におとなしく、さまざまな気象条件にも適応するので飼いやすい畜種といえます。

ふれあい動物園におけるヒツジは動きも少なく、群れをつくって特定の場所に集まる傾向がありますから、動物のいろいろな行動を見せるという動物園の趣旨には、ヤギに比べたら劣るかもしれません。

ですが動きが少ないことは、小さなお子さんにとっては触りやすいという長所にもなります。詳しくは東京農業大学の研究グループが2013年に発表した「ふれあい動物園における大型動物の行動」に書かれていますので、参考にしてみてください。

▼強いストレスを感じた家畜の行動について
ここまで長くなりましたが、いよいよ本題のストレスについてお話ししましょう。

東北大学の研究グループが、青森県六ヶ所村の環境科学技術研究所の実験施設で行った実験で、シバヤギに100Hz(ヘルツ)付近の低周波数の音波を聴かせると、ストレスによって自身の体毛を嚙み取る自傷行為を行ったという報告(「ヤギおよびラットにおける短期的な音響曝ストレスの評価」)があります。

動物は異常を感じると、周囲の状況を確認する「探求行動」をとります。ヒツジの場合、何か動いたり、物音に気づいたら、首を上げて物音がする方を注視したり、逃げようとしますが、個体が群れから離れることはしません。

それほど仲間外れになることを恐れる動物なのです。しかし、ヒツジも強いストレスが続くと毛食いという異常行動を示します。この時、自身の毛だけでなく、仲間の毛をかじりとる場合もあります。

注意しなければならないのは、ヒツジは動物性繊維を消化することができないので、飲み込んだ羊毛は胃の中で大きな毛玉やロープ状の塊となって、胃閉塞や腸閉塞を起こす恐れがあります。

これがひんぱんに起こるようになると、消化障害を起こして、ひどい時は死亡する場合もあるので、ヒツジのストレスの見極めは重要なのです。

ちなみに、ご相談者さんがこれから導入を計画しているウサギは、ストレスを感じると、毛を抜いたり、毛づくろいしたり、水をよく飲むなど多飲行動を取るケースが多いようです。

また、ニワトリの場合、狭いスペースで密飼いすると、羽食い、尻つつき(カンニバリズム ※人間のカニバリズムと異なり、ニワトリはカンニバリズムという)が発生し、他のニワトリを次々と殺してしまいます。

▼ストレス低減にはどうしたらいいか?

ヤギは元々山岳動物で、高いところを好むので、運動場には登り台を設置してあげると良いでしょう。このような登り台は、ストレス発散だけでなく、登ったり降りたり運動することで、蹄(ひづめ)が伸びすぎるのを防ぐ効果もあります。

蹄が伸びすぎると、脚にさまざまな障害を及ぼすこともあるので、伸びた蹄は切ってあげる必要があります。

重要なことは、快適な環境で飼育することによって、家畜のストレスや疾病を減らすことです。ストレスや感染リスクを低減することが、結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながることから、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼育管理が重要です。
 
最後に「今後は畜種を増やしたい」とありましたが、ニワトリの導入は止めるべきだと思います。その理由としては、日本ではここ数年来、高病原性鳥インフルエンザが多発しているため、来園者とのふれあいや野鳥を通じて、高病原性鳥インフルエンザウイルスを持ち込み、農園の運営が中止なるリスクが高いためです。

また1回あたりの体験プログラムの時間についてもご相談がありましたが、2023年3月に閉園した千葉市動物公園の子ども動物園では、ヤギとヒツジとも、 朝9時から午後4時半までの間に広場に放飼されたのち、屋内に収容されていました。

この時間中、9時、11時半、午後1時50分、午後4時半には給餌エリアで餌が与えられていました。

このうち、2回目と3回目は来場者による餌やり体験に当てられていました。この場合も、来場者の消毒や、手洗い場所、飼育場所と隔離した体験場所の設置など、衛生管理に配慮した施設整備が必要です。

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