山梨のいわゆる中山間地域で農業をしつつ、狩猟仲間とシカやイノシシなどを狩猟し、ジビエ品の出荷を行っています。
昔は畑を荒らすシカを駆除したあと、そのまま土に埋葬していましたが、最近は都会でジビエブームが続いているようで、仲間たちとどうやったらもっとジビエが売れるのか調べています。
ジビエを仕入れに来る人に「なんでシカの肉なんかが都会で売れているんですか」と聞いたところ、高タンパクで低カロリーの健康的な食材というイメージや、美食家向けのイメージが人気の要因だと聞きました。
野生動物がお金になるというのは、我々のような農家にとってありがたいと思っています。しかし、生き物なので安定供給をすることが難しく、狩猟仲間も高齢化しているのが悩みになっています。
他の地域では、ジビエを安定供給するために、どういった取り組みをしているのでしょうか?
(山梨県・田中さん/仮名・60代)
農村環境対策室
農林水産省 農村振興局鳥獣対策・農村環境課
食品処理施設の新設や官民が連携した取り組みを行っています
野生鳥獣による農作物被害は、毎年150億円を超え、全体の7割がしか、イノシシ、猿によるものです。森林の被害面積は年間およそ5,000ヘクタール(2019年度報告)に及び、中でもしかの被害は7割を占めます。
高齢化や人材不足が進む農業にとって、野生鳥獣に農作物を食い荒らされることは、営農の意欲が削がれ、最悪の場合、離農する農家も出てきてしまいます。
結果として、耕作放棄地が増加し、森の草木が食い荒らされ土壌が流出、希少植物の食害や人里に降りてきた野生鳥獣との衝突事故などが起こるので、鳥獣駆除対策は差し迫った課題になっています。
ご相談の通り、猟銃免許を持ったハンターの数は、高齢化が原因で年々減少傾向にあります。一方で「くまもと農家ハンター」のように、罠猟の免許を取得して捕獲する農家も増えています。
農水省はこれまでにも、廃棄するだけだった捕獲鳥獣の食肉(ジビエ)について、農作物被害の減少に加え、地域を活性化するための資源として利用、農山村の所得につなげることで、野生鳥獣を「マイナス」の存在から「プラス」の存在に変える取り組みを支援しています。
ジビエを安定供給するする上で問題となるのは、家畜ではないため計画的な供給が難しい点です。当日に捕獲し、加工場に持ち込まれた分だけしか処理できません。実際のところ、捕獲されたイノシシやしかのうち、ジビエとして利用されているのはわずか1割です。
この1割のうち、73.7%はジビエとして食用にされましたが、残りはペットフードとして使われています。食品衛生法のガイドラインで、とどめを刺して1時間くらいで食肉に加工しなければならないという決まりがあるためです。
この「もったいない」を解消するためにも、現在、国や各地の自治体では、捕獲現場近辺に食品処理施設を新設する計画を進めています。
これまで埋葬、焼却していた個体を簡易処理施設に持ち込むことで、ジビエを食用に活用できるように交付金を出しています。
流通だけでなく、同時に消費者に対するジビエのアピールも必要です。農水省はジビエの消費拡大、需要創出のために、家庭でも作れるレシピの普及や学校給食への展開、地域ブランドの開発なども進めています。
ジビエのフル活用には、地元の市町村や猟友会、JA、集落、加工処理業者、卸売業者、レストランなど官民で連携する必要があります。
これを農水省では「コンソーシアム(共同事業体)と呼んでいます。
ご相談者様がお住みの市町村でも、こういった取り組みを行っているかどうか確認してみてください。