北海道の道東エリアで小麦やとうもろこし、てん菜などを作っております。農地面積は15ヘクタールほどで、すぐ横には山林がありますが道路も走っています。
うちは昔からエゾシカによる農作物被害に悩まされています。なんとかエゾシカの侵入を食い止めたいと思い、30センチメートル、60センチメートル、100センチメートル、140センチメートルの4段張りにした電気柵や、センサー感知で超音波や銃声音が鳴るシステムの導入など対策は試してきました。
しかし、どれも効果が薄くなってきている印象です。
さらにメンテナンスも大変です。広範囲だと目が届かない場所が出てきてしまい、メンテナンスを怠ったところから侵入されるというパターンを繰り返しています。
エゾシカは年々増えてきている印象ですが、対応し続けることに疲弊してきました。
費用の問題もあるので、お金をかけずに効果を上げる方法はないのでしょうか?アイデアがあれば教えて欲しいです。
(北海道・斎藤さん/仮名・40代)
前田一歩園財団
前田一歩園財団
エゾシカによる樹皮食害防止の試みは、試行錯誤を諦めずに続けることです
私たちはエゾシカ生息数増加に伴い、昭和59年頃から阿寒湖を取り囲む森林の生態系の保護一環としてエゾシカ被害対策を行なってきております。
具体的な被害状況は、ニレ類の樹皮食害です。
1996(平成8年)の調査では、当財団が管理する森林からニレ類が消失する恐れすらありました。
樹皮食害防止の試みは多岐に渡ります。
まず最初は「樹幹ネット巻き」といった基本的な樹木を守る対策と合わせ、緊急避難的に「ビートパルプ餌付け」を実施しました。
しかしこれでは根本的な対策にはなりません。
そこで猟銃による個体数調整を試みましたが、国立公園内の観光地であるためこの方法は馴染まないと判断し、より適した方法として「大型囲い罠」での捕獲に取り組みました。
専門家の意見を参考にしながら、さらにこれまでの知見や独自の工夫などを取り入れながら罠を完成させました。
これは一定の成果を出せたと考えております。
気になるのは駆除の頭数だと思います。私たちは平成11年~令和2年の間で5,268頭を駆除しました。
今後、全道各地にワナをはじめ、このような取り組みの普及を進めていくことが必要だと考えています。
現在は「樹幹ネット巻き」「ビートパルプ給餌」「囲い罠」を複合的に実施しております。
給餌では防ぎきれませんので、守りたい貴重な巨木などには、物理的にネットを巻いて保護するのは必須です。
実際に私たちがやってきたような大がかりな対策を個々の農家が全部取り入れて行うのは難しいと思います。コストもかかります。
「囲い罠による捕獲」と「ビートパルプブロック給餌」には年間1千万円程度かかっています。いままで22年間続けてきたので、2億円以上という出費です。
とにかくエゾシカによる食害防止は費用がかかることですから、まずは行政に相談されてみてください。
その他のアイディアとして、ニオイで防ぐ方法ですが、激辛のトウガラシエキスを噴霧する作戦を実施した地域(空知の雨竜町)があります。
雨竜沼湿原に群生している「ゼンテイカ(エゾカンゾウ)」をエゾシカの食害から守るために実施したそうですが、20%の花茎が食害から逃れて種子を作ることができたと聞いています。
また、北海道立総合研究機構・林業試験場では、広葉樹に対するエゾシカ忌避剤の効果的な適用時期の検証を行っています。
私どもは使用したことがありませんが、メッシュパネルを組み合わせる「移動式囲い罠」というものも販売されています。個人で捕獲するには使いやすいと思います。
エゾシカによる樹皮食害を根絶やしにすることはできませんが、これからも諦めずに行政機関や専門家の方々と連携しながら進めていきたいと考えております。ご相談者さまの悩みが少しでも解決の方向に向かうことをお祈り申し上げます。
山本麻希
株式会社うぃるこ/長岡技術科学大学准教授
電気柵は張り方や管理方法で効果が変わります。見直してみましょう
お金のかからない対策方法を知りたいということでしたが、残念ながらニオイや爆音は一時的な効果しか得られません。視覚的な効果も同様です。野生動物は「痛み」のある刺激以外はすぐに慣れてしまいますから。
ご相談者さまは電気柵をすでに試されているようですね。
広範囲のメンテナンスでご苦労されているようですので、簡易柵ではなくフェンシングタイプのワイヤー電気柵か、ポリワイヤー製の電気柵を使われているのではないかと思います。
じつは簡易柵ではないものを導入されている農家さんが「電気柵を張っても効果がない」とおっしゃる場合、電気柵の張り方や管理に問題がある場合が少なくありません。
そこで、もう一度、電気柵の張り方や管理を見直してみてはいかがでしょうか。大事なポイントをお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
まずは電気柵周りの状態です。電気柵は雑草が電線に触れると、漏電して電圧が下がります。非常に労力がかかりますが、電気柵周りの草刈りを徹底的にやってください。
私たちは電気柵の外側に20センチほどはみ出るように防草シートを敷き詰め、雑草が伸びないようにするように提言しています。
さらに電圧の気配りも大切です。エゾシカの場合の適正は4000ボルト以上、私たちは5000〜6000ボルトを推奨しています。
柵の高さは、下から45センチ、30センチ、30センチ、45センチと4段に分かれていて、最低でも1.5メートルの高さが必要です。
できましたら毎日見回りをして、電圧を確認していただくのが理想です。
北海道ですと高い電圧の電気柵を扱っている会社がたくさんあります。電気柵の規模が大きくて見回りが大変な場合は、スマホやパソコンで電圧の状態を24時間チェックできるアプリがあります。
いずれも決して安いものではありませんが、鳥獣被害対策として、電気柵を導入する際は、国や自治体からの補助金を受けることができます。
例えば農水省の総合対策事業の場合、集落から3戸以上の受益者がいて、合計で8年以上使用するなどの条件を満たせば、電気柵の資材費に対して100%補助が出ます。
もし条件を満たさない場合であっても、市町村の鳥獣対策に相談すれば、導入費用の一部を補助してもらえる場合もあります。まずは相談してみることが大事です。
最後になりましたが、電気柵は自己流で設置しても、張り方に問題があれば効果はありません。
農家さんは適切な設置方法や管理方法について学ぶ必要があります。
できましたら行政などの講習会などで教えを受けてみてください。
深刻な鳥獣害対策には日々の観察やメンテナンスを怠らない根気が必要ですが、諦めず続けてください。もちろん私たちにお声がけいただければ、お力になります。