山梨県南アルプス市で養蜂をしています。まだ始めて5年ほどでキャリアも浅く、試行錯誤を続けています。
先日、大切な巣箱にダニが発生してしまいました。
蜂に影響が出ないように慎重に駆除剤を使って対応していますが、なかなか完全に駆除できず、非常に困っています。
蜂場立地の見直しからやり直すことも考えています。
そんなときに先輩から「巣箱がスギ材の場合、問題が起こりやすい」ことを聞きました。
スギ材は湿気を吸いやすいためダニが発生しやすくなるそうで、できればサワラ材の巣箱がいいとアドバイスをいただきました。
スギ材の巣箱は安かったので、それに飛びついたのが原因になっていたと反省しています。しかし、巣箱を一気にサワラ材のものに変えるだけの金銭的な余ははありません。
徐々に巣箱は変えていきたいと考えていますが、完全に変えるまでには少し時間がかかりそうです。
そこでスギ材の巣箱でダニ発生をできるだけ防ぐことができる効果的な方法を教えて欲しいです。
(山梨県・鈴木さん/仮名・30代)
齊藤雄紀
株式会社ビーコンシェルジュ
養蜂はダニとの戦いでもあります。気をゆるめずに勉強と試行錯誤を!
ミツバチがダニに寄生されることは、この数十年ミツバチを飼う上で一番の問題であることは常に叫ばれ続けてきました。
ご相談者様はキャリアが浅いようですが、インターネットでも図書館でもご自身で調べてみれば、ミツバチに寄生するダニの発生や対策のことはわかるはずです。
厳しい言い方になってしまいますが、巣箱の材質という問題に押し付けて現実から目をそらしていませんか?
まず最初に言っておきますが、ダニは養蜂を続けている限り戦わなくてはならない存在であると理解してください。
巣箱やダニの種類などについて、一般的に巣箱に使われる杉材は、赤白材と呼ばれるものです。
杉の中心部の赤い部分と外側の白い部分を両方含む板で、じつはこの白い部分(通称「白身」)が水を含みやすく腐りやすいのです。
水を含みやすいとは、巣箱内に湿気をため込みやすいことです。
雨などで濡れてしまうと、内部にまで水が染み渡ってしまう可能性があります。結果、多湿を好むダニが増えるのは当然のことです。
反対に多湿環境を嫌うミツバチは弱ってしまい、さらにダニは加速的に繁殖していきます。しかし、多湿環境の改善はさまざまな対策で対応できます。
例えば日当たりのいい場所に巣箱を設置する、木材に「クレオハッチャン」などの防腐剤を塗装した上で水の吸収を妨げるシリコン塗料などを塗る、巣箱に雨があたらないようにポリカーボネート板で屋根を作る、巣箱の下を湿気対策のためにコンクリートブロックなどで少し浮かしてやるといったものです。
たまに「椹(サワラ)材」にはヒノキオールに代表される香り成分が含まれており、ダニの繁殖を抑制するという話を耳にします。
しかし、私から言わせれば気休めにすぎません。ヒノキオールで駆除できるなら、こんなにダニで苦しんだりしません。
ちなみに私は木材屋から杉の赤身材の板を仕入れ、自分で加工して巣箱を作っています。
杉の赤身は耐久性、剛性、透湿性、釘の保持性など、ほぼすべての面で問題ありません。
では、肝心の巣箱の対策についてです。先程ご説明したように防腐剤とシリコンを塗ることである程度は解決できるでしょう。さらに日当たり、風通し、水はけなどの環境改善を行ってください。
続いてダニについてです。ミツバチに寄生して問題になるダニは、「ミツバチヘギイタダニ」と「アカリンダニ」の2種類です。
ミツバチヘギイタダニは春夏にかけてすさまじいスピードで繁殖し、対策が遅れればミツバチは全滅します。
ミツバチヘギイタダニの対策は使用できる薬剤は3種類に限られており、獣医か獣医の指導を受けた人間が行わないと法律違反になります。まずは養蜂協会に問い合わせてください。
アカリンダニは体長0.1ミリほどと小さく、さらにミツバチの気管の中に潜むため肉眼で確認することはほぼ不可能です。ダニに強いと言われてきたニホンミツバチも感染します。
しかし、市販のダニ剤の効きが良いのか、セイヨウミツバチに対してはそこまで問題になっていません。
現在は「俵養蜂」という獣医兼養蜂家の業者が、ミツバチ問診サービスを行っています。ダニの感染状況に合わせた薬剤を処方してくれると聞いたことがあります。
こういったサービスを利用するのもいいかもしれません。
ミツバチヘギイタダニは自然界に普通に存在するダニですので、仮に全滅させても再感染します。一回対策したら終わりとかそういう話ではありません。冒頭にも申し上げましたが、常に気をゆるめることができないと心得てください。
株式会社山田養蜂場
株式会社山田養蜂場
一年を通じて薬剤やトラップによってダニの密度を低く維持しましょう
ミツバチの巣内には複数種のダニが生息し、ミツバチの種類によっても被害の出るダニの種類が異なります。
問題になるのは、セイヨウミツバチなら「ミツバチヘギイタダニ」、ニホンミツバチなら「アカリンダニ」になると推測されます。
私たちはセイヨウミツバチを専門に飼育していますので、ミツバチヘギイタダニについてお答えいたします。アカリンダニに関しては、細かい回答を控えさせていただきます。
ミツバチヘギイタダニ防除で使用できる薬剤は、「日農アピスタン(フルバリネート)」「アピバール(アミトラズ)」「チモバール(チモール)」の3種類です。
これらをローテーションしながら使用するのが理想です。
ダニがネズミ算式に増える秋以降になってから使うのではなく、増える前に使用してください。
女王蜂の産卵を強制的に停止させたり、蛹が少ない時期に使用したりすることでより良い効果が得られます。
殺ダニ剤による駆除と平行して、雄蜂の蛹巣房(さなぎすぼう=六角形の小部屋)を好むダニの習性を利用して誘引する方法もあります。
これは雄蜂巣房しかない巣板をトラップとして定期的に巣の中に仕掛け、蛹になったら回収することを繰り返します。
一年のサイクルで説明しますと、冬季の育児のない時期に殺ダニ剤を使用し、できるだけダニを防除して、ダニの密度の低い状態で群を大きくします。
春から初秋までは、生物的防除である雄蜂でダニを誘引して雄蜂の蛹の除去を行います。
さらにタイミングを見計らいながら殺ダニ剤を使用することが、防除の方法の基本となります。
殺ダニ剤の投与の目安は、群内の一部の働き蜂成虫のダニ寄生率を定期的に調査することで判断するのがいいでしょう。
また、ニホンミツバチに害を与えるアカリンダニの防除の基本も、寄生率が高くなりすぎる前にダニを駆除することです。ニホンミツバチの群への投薬に関しては、獣医師が在籍している養蜂場にご相談のうえ、処方していただくのが良いと思います。
世界中の養蜂家がダニに悩まされていますが、なによりも被害の出ない程度のダニの密度に保った群を維持することが重要です。