山口でぶどうや桃などの果樹園を営んでいます。今、ぶどうの害虫「クビアカスカシバ」の被害に悩まされています。
毎年6月ごろになるとやってくることがわかっているので、時期が来ると暇を見つけては農園内にクビアカスカシバがいないかを探しています。
しかし、栽培と並行してぶどう狩りも営んでいるため、来園客の対応などが重なると時間をとれないことも多々あります。
そのためか、毎年被害に悩まされています。
圃場の広さは1ヘクタールほど。育てている種類は、ピオーネと巨峰、シャインマスカットです。
一度枝の中に入り込まれると取り返しがつかなくなるため、クビアカスカシバが枝に入る前に防除できる対策はありませんか?
(山口県・田之上謙二郎さん/仮名・60代)
中 秀司
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 生命環境農学講座
防除対策はメスをブドウ園に入れない&環状剥皮部位を守ることです
クビアカスカシバは毎年20億円以上の損害を与えると言われているほど、ブドウ農家にとっては天敵。
ブドウの幹に入り込んだ幼虫が樹皮の下にある形成層などを食べ進むことで木全体を弱らせ、時には枯れさせてしまう害虫です。
ちなみに、クビアカスカシバには「ブドウの好み」があるのをご存知でしょうか。
特にピオーネや巨峰など「玉が大きい黒ブドウ」に集中する傾向が強く、シャインマスカットや黒ブドウでもデラウェアなどにはほぼ被害が見られません。
まず今回は、薬剤を使用しない防除対策として2つのポイントをご紹介します。
1つ目は、メスをブドウ園に入れない、産卵させないことです。
これまでに行われた実証実験から、圃場の周囲と天井を4ミリ角以下のネットで囲めばブドウ園に侵入するメスの数を大きく減らせることが分かっています。
また、春のうちにブドウの根元から3m程度を光反射資材(ネオポリシャインクロスT87)で覆うことで、ブドウ園に侵入したメスの行動を狂わせて被害を激減させたという成功例もあります。
2つ目は、環状剥皮部位を守ること。ブドウの栽培体系に環状剥皮が入っているときには、環状剥皮した部位への被害を防ぐことが重要です。
具体的には、環状剥皮部位にMEP乳剤(ガットサイドS)を塗布しておくと被害を大幅に軽減できることが分かっています。
ポイントは成虫が見られる前(剥皮してすぐ)に塗布すること。また、これは主幹部にしか使えない方法なので注意してください。
最後に、有効な薬剤の活用についてもお伝えします。
クビアカスカシバの被害が顕著になってすぐ、2011年にカルタップ水溶剤(パダンSG水溶剤)が登録拡大されましたが、果粉溶脱や天敵への悪影響が懸念されるため、最近では敬遠される傾向にあります。
その代わり、柿やブドウなどにつくコナカイガラムシ類を防除するために普及している方法が、クビアカスカシバにも効果が高いとされています。
具体的には、冬季〜早春に主幹部の粗皮を削ってジノテフラン水溶剤を塗布する方法で、5月末までに処理することで長期間効果を発揮します。
しかし、ジノテフランとMEP乳剤を同じ部位に施用すると効果が薄れるという報告がありますので、両者は別々の場所に塗布するよう注意してください。
他にも、ジアミド剤の散布もクビアカスカシバの防除に有効とされています。
フェニックスやサムコルなどに加え、最近適用拡大されたばかりのテッパン液剤やエクシレルSEも使うことができます。
ただし、スピードスプレイヤーで散布すると被害部位(や食入が予想される部位)に薬剤が届かず、防除効果は低くなるので注意しましょう。