鳥取県大山町で農園を営んでおります。現在、スイートコーンは無農薬で栽培していますが、アワノメイガを抑えるのが難しいです。
過去にはお湯で防除してみましたがうまくいきません。オシベと絹糸がでるタイミングにはとくに注意して管理しましたが、それでも難しいです。
何か農薬以外で良い方法はありますか?
(鳥取県・国田さん/仮名・30代)
鳥取県大山町で農園を営んでおります。現在、スイートコーンは無農薬で栽培していますが、アワノメイガを抑えるのが難しいです。
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中 秀司
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 生命環境農学講座
アワノメイガの被害を抑えるのはごく小規模な栽培面積でない限り困難です
ツトガ科ノメイガ亜科に属するアワノメイガは、東アジア〜オーストラリアまでの広範な地域に分布し、各地でトウモロコシの重要害虫とされています。
生息域の北部では年に1〜2回成虫の発生ピークが認められますが、亜熱帯・熱帯では世代が重複し、成虫が年中見られます。
この種によるトウモロコシへの被害は深刻で、フィリピンでは20〜80%(Sanchez 1971)、台湾では95%(Tseng 1981)、そしてマリアナ諸島では最も多い時で全滅したこと(Schreiner and Nafus 1987)が報告されていて、南方へ行くほど多くの経済的損失が報告されています。
また、欧米に生息するヨーロッパアワノメイガ(日本にいるアズキノメイガにごく近縁)は、欧州から1917年頃に米国へと侵入したと報告されており、現在では米国内の多くの地域でトウモロコシが被害を受けている大害虫です。
そこで、欧米ではヨーロッパアワノメイガを安全かつ効率的に防除する技術を開発しました。そのひとつが、土壌細菌の一種「バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis=Bt)が作り出す結晶タンパク(ICP=胞子形成の過程で作られる殺虫性の結晶タンパク質)を利用したBT剤です。
さらに、Btトウモロコシと呼ばれる遺伝子組み換えトウモロコシは、先述したBtの遺伝子を組み込むことで、植物体内で、殺虫機能を果たすICPを合成できるようにしたものとして知られます。
話を日本のアワノメイガに戻すと、この種はトウモロコシ以外にも多くのイネ科植物を餌にできるため、耕作放棄地や河川敷など、さまざまな環境で数を増やすことができます。
従って、トウモロコシ畑からアワノメイガを追い払っても、すぐに援軍がやってきてしまいます。
しかも、幼虫は茎や果実に開けた穴から侵入して内部を食うため、薬剤防除が困難であるとともに、加害痕を見つけた時にはすでに手遅れである場合が多いです。
それでは、このような難敵をどうすれば防除できるのでしょうか?
まず、都道府県の防除所が発表している病害虫の発生予察は基本です。
耕種的な防除法としては、農薬散布、作付時期をずらす、防虫ネットで覆うといった方法がよく知られています。
さらに新しい技術としては、前述のBtトウモロコシの開発をはじめ、アワノメイガの卵に寄生する蜂「タマゴバチ」の研究、人工的に合成した性フェロモン剤でかく乱させることで交尾を阻害する技術が検討されてきました。
そのなかでも、最も重要なのが「雄穂(ゆうすい=雄花)の処理」です。
アワノメイガのメスは、出穂前後の雄穂に誘引されて株に接近し、葉裏や雄穂に産卵することで知られています。
幼虫は卵からかえると、葉の表側を食害しながら雄穂に侵入して、茎や雌穂、果実へと食べ進めていきます。
したがって、雄穂が出穂する時期は、防除のタイミングを判断する目安になります。
生産者は雄穂を確認したら、受粉に必要な分だけを残して除去し、残った雄穂も役目が済んだら(花粉が出なくなったら)すぐに全て取り除くことが推奨されています。
薬剤を散布する場合も、多くの薬剤において「雄穂の出穂直後」と「雌穂の出穂後」もしくは「1回目散布の2-3週間後」が散布適期とされています。
とはいえ、雄穂の除去は、受粉効率を犠牲にする諸刃の剣なので、商業生産ベースの場合にはコントロールが極めて困難です。
また、アワノメイガのように外から飛来して産卵する害虫には、飛んできた雌が産卵できないように、植物体をネットで覆ってしてしまうのも有効な防除法になります。
ただし、ネットの目が粗いと雌が網の目をくぐり抜けてしまいますし、ネットが植物体に触れていると、網に産卵された卵から孵化した幼虫が植物へ移動できてしまいます。
そして、早生の品種をなるべく早く、晩生の品種をなるべく遅く播種することで、成虫の発生と出穂期をずらして被害を減らすことができます。
しかし、南へ行けば行くほど、アワノメイガの発生回数が増えるため、成虫の発生から逃げ切るのは難しくなります。
また、月並みではありますが、圃場をこまめに見回ることも重要です。生産者の皆さんは、出穂期を迎える少し前くらいから、葉裏や(出穂前の状態を含む)雄穂・雌穂をつぶさに観察し、卵や幼虫を見つけ次第、潰すようにしてください。
とはいえ、ここでご紹介した方法を組み合わせても、アワノメイガの被害を押さえ込めるのは、あくまで家庭菜園やごく小規模な栽培面積の畑に限られます。
商業生産を念頭において栽培面積を増やすほど、防除にかける労力と防除効率は釣り合わなくなっていきます。
誠に残念ですが、現在の防除技術では、無農薬でトウモロコシを商業生産することは極めて困難と言わざるをえません。
トウモロコシは世界的にとても重要な穀物で、アワノメイガ類はその最重要害虫の一つです。
無農薬でアワノメイガを制圧できるのであれば、とっくに世界中のトウモロコシが無農薬栽培されているはずですが、現実はそうなっていません。
「いや、そんなことはない」「うちはうまくやっている」という反論があるかもしれません。
しかし、それらのほとんどは生産者のたぐいまれな能力、足繁く圃場に通って作物を見る忍耐力、そして運のいずれか(もしくは全て)に支えられて皮一枚のところで実現しているものであり、再現性があるものではありません。
前述したさまざまな防除法のような、先達が失敗を重ねて確立したものと同じ土俵に立つものではないのです。
ゆえに、国内のトウモロコシ生産者の多くは薬剤散布をアワノメイガ防除の基軸に据えており、米国では無農薬防除に近づける最も確実な道として、Btトウモロコシが開発・栽培されているのです。