愛知県でミニトマトをハウスで育てています。ある日、気がつくと成長点部分がぐったりとしおれてしまい、ぐにゃりと曲がってしまったトマトが目につきました。
そのまましばらく様子を見ていると、だんだんとその数が増えてきたので、慌てて県の指導員さんに相談して、ビーカーテストをやってもらった結果、青枯病が発生していると言われました。
いまは圃場の全体の4分の1程度まで広がっており、指導員の方からは症状が出ているトマトはすぐに全部切り捨てるようにアドバイスされました。
しかし、あまりの規模の大きさです。全部を切り捨てると大損失になってしまいます。
このまま被害が拡大してしまう恐れもあるのですが、なにか少しでも回復する可能性のある方法があるならば試してみたいです。
往生際が悪いのは承知しておりますが、切り捨てずに青枯病を回復させる方はまったくないのでしょうか?
(愛知県・荒井さん/仮名・40代)
豊田剛己
東京農工大学 農学研究院 生物システム科学部門 教授
抵抗性台木の導入以外に決め手となる防除手段がないのが青枯病の特徴です
青枯病は日本に限らず世界的に見られる重要病害のひとつです。
日本植物病理学会では毎年何件もの青枯病に関するトピックスが発表され、青枯病のみに関する国際会議がすでに11回開催されています。
つまり、青枯病は重要病害であると同時に、いまだ解決に至っていないことの裏返しでもあります。
トマトがしおれた場合、多くの要因が考えられます。
複数の要因のなかから原因を特定するのは難しいのですが、青枯病に限っては疑いのある植物体の地際部を切って水につけると、細菌細胞の白っぽい濁りが切り口の道管部分から出てくるため判定しやすい(=ビーカーテスト)といえます。
青枯病に対して栽培途中で使用できる有効な農薬はありません。
ですので、一度発生してしまったら、増殖を防ぐために疑いのある株はすべて取り除くことが最善策だと考えられます。
とはいえ株を取り除いても青枯病菌は土壌中でも増殖してしまいます。
土壌中で増えてしまった病原菌は、消毒しない限り取り除けません。
青枯病菌の厄介なところは、土壌の深層部で生き残ることができることです。
しっかり消毒しないと次作も同様、もしくは前作以上に病気が発生すると予想されます。
通常の「クロルピクリン剤」や「D-D剤」を使った消毒では、表層土の消毒には有効ですが、下層土までは効果が届きづらいことで知られています。
低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒を用いると、防除効果が非常に高いのですが、エタノールの費用だけで10アール当たり15万円ほどと高額であることがネックです。
隔離ベッド(培土を地面と完全に隔離するプランターのようなもの)を用いて土壌を消毒すると効果は絶大ですが、これも費用と労力が必要です。
有効な抵抗性品種があれば良いのですが、青枯病に対しては現状では知られていません。
一方、抵抗性台木には有効なものがあり、メーカー各社が販売しています。
JAによっては抵抗性台木に接木したトマト苗を販売しているところもあるようです。
研究レベルでは、アミノ酸を土壌に施用することで病原菌密度を低減できること、苗をヒスチジン溶液に漬けてから移植することで誘導抵抗性が高まり青枯病にかかりにくくなることなどが報告されています。
しかし実用性に関しては未知な状況です。こういったように優れた防除手段がないというのがトマト青枯病の最大の特徴です。
生田智昭
株式会社大地のいのち(サンビオティック)代表取締役
根の傷から細菌が侵入する青枯病は、傷の原因を探ることが大切です
個別の状況によって対処法は変わりますが、ここでは一般的に考えられる範囲でご説明します。
そもそも、トマトやナスの青枯病は、細菌がトマトの株の中に入って、水の通り道である導管内で増殖することで発生する病気です。
病原菌に侵入されたトマトは、抵抗しようとして自分の組織や繊維を肥大化させたり、壊したりしてしまうので、結果的に導管が詰まり、水が上がらなくなって、先端が萎れてしまいます。
水の通り道はいくつかあるのですが、導管全部がダメになると、ぐにゃりとしなだれた状態になってしまいます。
そのため、青枯病にかかった株の回復は非常に難しいです。
先端が少し萎れる程度なら、回復の可能性があるかもしれませんが、病状が進行した株が回復する可能性は、かなり低く、ほとんどが枯れてしまいます。
発見した場合、厄介なのは、罹病した株から、隣の株へ、どんどん拡大して、圃場全体に青枯病がまん延してしまう事態です。
病原菌は、罹病した株の根や、その周辺で増殖ながら水に乗って移動し、隣の株へ侵入するチャンスを探しています。
そのため、発見したら、すぐに適切な対処をする必要があります。
皆さんに知っていただきたいのは、青枯病の細菌が、どうやって植物の内部に侵入するのかというメカニズムです。
青枯病菌は、根の傷口から侵入すると考えられています。糸状菌などと比べて、青枯菌には植物の組織を突き破って侵入するような強い破壊力はないと言われています。
つまり、弱っている株には感染できるが、健全な生育をしているトマトには、感染しにくいということになります。
ですから、いま圃場で発生した青枯病を拡大させないためには、「なぜ、うちのトマトの根に傷がついたのか」「なぜトマトが弱っているのか」を考えなければなりません。
その原因がわかれば、さらなる感染拡大を食い止めることができます。
傷ができる代表的な理由は、大きく4つあります。
1、乾燥と過湿:
根が痛む原因としてまず考えられるのが、糖度を上げるために過度に乾燥させたり、台風被害や水のやりすぎにより、土壌が過湿状態となっている場合です。
特に完熟していない堆肥などの有機物を多く施用した場合に、土壌内に含まれる酸素が不足して、根痛みの原因となります。
2、化学刺激によるダメージ:
アンモニア系の肥料を多量に施用したり、高塩類障害(高EC)、もしくはpHが低すぎる場合でも、根は痛みます。化学的な強い刺激に弱いのです。
3、線虫(センチュウ)被害:
トマトの場合は、ネコブセンチュウが多いと、根が物理的に傷つけられてしまいます。
4、着果負担・光合成不足:
トマトの着果負担が強くなる時期、具体的には3段目~5段目の開花時期ごろに、青枯病が発生するケースも少なくありません。
特にこの時期に、日照不足や低温障害などが起こると、光合成量が不足して、青枯病を招きます。
着果負担や光合成不足がなぜ病気の原因になるかというと、根に含まれる糖類が不足して、植物の繊維が強化できなくなるからです。
細胞壁を頑丈にするためのセルロースやヘミセルロースなどの繊維不足が発生することで、植物の防護壁がスカスカして、病原菌が侵入しやすくなるのです。
前述した4つ以外にも、「植付け時の断根」「踏みしめによる断根」「カルシウム欠乏」などの原因が考えられますが、まずはここであげた4つのポイントを見直して、原因にあった対処法を検討しましょう。
いずれにしても、しっかりと土づくりを行い、トマトの病害抵抗力を高めてあげる必要があるのです。
2016年前に農研機構が発表した研究成果「トマトの青枯病にアミノ酸が効くことを発見」でも、植物が本来持っている病害抵抗性を高める重要性が書かれています。
この研究発表では、アミノ酸が青枯病菌を殺菌しているわけではなく、アミノ酸の吸収によりトマト自体が健全に成長し、病害抵抗力を高めることにより、青枯病を回避できる可能性があると説明されています。
前述した4番目が原因の場合は、アミノ酸資材や酢酸など糖類資材の施用、着果負担の軽減(摘果)、または炭酸ガスの施用などが有効であると考えられます。
もうひとつ付け加えると、土壌消毒についても検討していただきたいことがあります。
それは、土壌消毒により、病原菌と同時に、良い微生物も死滅してしまうということのリスクです。
土壌全体の微生物が減っている状態で、トマトを植えると、そこは多様性や微生物同士の食物連鎖が存在していないのですから、病原菌のパラダイスになってしまう可能性があるわけです。
土壌病害で大きな被害を出す圃場のほとんどは、土壌消毒後に、土壌微生物を増やすための対策を実施していません。
ですから、土壌消毒を実施したのち、弊社が取り扱う「菌力アップ」のような微生物資材や、良質な堆肥などを施用し、微生物を増やしてから、トマトを植えるようにした方が、このようなリスクを大きく下げることにつながります。
対処法は状況により変わりますが、青枯病を発見したその日から、土づくりについて再度検討し、対策を実行してみてください。