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にんじんのトウ立ちが増えた。温度調整以外の原因はありますか?

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にんじんのトウ立ちが増えた。温度調整以外の原因はありますか?

自然をできるだけ壊さないことをモットーに、宮崎県で有機農業をしています。

出荷前に、野菜の品質をチェックし、自分が納得できないものは出さないようにするなどこだわっています。特に、にんじんは自分が好きなので、他の作物よりもシビアな目で確認しています。

メインは「黒田五寸」で、夏まきと冬まきのトンネル栽培で育てています。

にんじんの栽培をはじめて15年ほどになりますが、ここ数年は色が薄くなり、繊維が硬く感じるようになりました。

おそらく、花芽がついた茎が伸びる「トウ立ち」が原因だとは思うのですが、いままでと同じように栽培してきているので、理由が思いあたりません。

「トウ立ち」は温度の影響が大きいので、トンネル被覆での温度管理はきめ細かくやっており、常に適温を保つようにしていますが、あまり効果がありません。

温度以外に考えられる原因はありますか?
(宮崎県・佐藤さん/仮名・40代)

イチロウのゼロイチ農業(旧さいこうやさい)

にんじんのトウ立ちのような症状は、水没と種まき時期の遅れが原因かもしれません

「有機農業を実践されているということで、とても素晴らしい取り組みだと思います。私もニンジンの有機JAS栽培を実際に実践し、有機JAS小分け認定業者を通じて、3年ほど愛知県名古屋市の高級店20店舗ほかに流通、出荷していた過去があります。

その時の栽培経験をもとに、回答していきたいと思います。

ご相談者さんが栽培している品種は「黒田五寸」で夏播と冬播のトンネル栽培をしているということですが、黒田五寸は種取りができる有機の王道という印象があります。

夏まきと冬まきのトンネル栽培ということで、経験談をもとにお話ししますので、愛知県での温度の栽培経験と、熊本に視察に行った経験をもとにお話ししますね。

まず、ここ数年で薄くなったニンジンの色と、繊維の固さについてですが、こちらは私の経験上、しっかりとした答えができます。

まずは色の薄さから説明しますと、原因には2つのポイントがあります。
①まずは「水没」を疑います。
②次に「種まき時期の遅れ」を疑います。

①「水没」について
宮崎県ですと「有機農業の町」をスローガンに掲げる中西部の宮崎県綾町(あやちょう)がにんじんの産地特産として認知されています。

言い換えると、にんじんが比較的作りやすい土壌がある土地だと思うのですが、同じ地域でも「生育に適した土地」と「適さない土地」があります。

とはいえ、生産者の都合もありますから、生育が悪い土地でも作らざるを得ない場合もあると思います。そこでよく起きる問題が「水没、短根、横に太い」という現象です。要は「作物が低品質になってしまう土地の条件」が絡んできます。

言い換えると、生育が悪くなる土地の条件は、
・水はけが悪い
・品質の良い作物ができる農地に比べると、生育に適さない土地では、土壌に粘土が混じっている
・樹木の影になるなどして日当たりが悪い…などが原因です。

この3つの条件が重なることで「にんじんの色が悪くなる(薄くなる)」という問題が起こります。さらに「地温の低さ」が原因の生育遅れも考えられます。以前、私が粘土質の多い土で育てたにんじんに関する記事をご紹介しますので参考にしてください。

②「種まき時期の遅れ」について
地球温暖化が問題になっていますが、近年は夏場の気温上昇が原因で作物にも影響が及んでいます。
私の住む愛知県知多半島でも、毎年のように生産者の間で話題になりますが、ご相談者さんの周囲ではどうでしょうか?

ここで農家は考えてしまうわけです。「もう少し、種まきの時期を遅らせようかなあ…」

これが間違いなのです。先輩農家と以前、検証したことがありますが、愛知県知多半島の気候では、にんじんの種まきは「9月20日」が最終日です。(1~2日のズレは許容可能)

最終日をすぎて播種すると確実に色は落ちます。私は9月20日を1日でも過ぎてしまう場合、絶対にまかないようにしています

すべての作業を前倒しして、種をまく準備を行っています。大げさではなく、確実に日時を守るための段取りに命をかけるくらいの準備です。

「9月20日」は、愛知県での最終期限なので、ご相談者さんの場合はお住まいのエリアの最終期限を見つける必要がありますが、参考になると思います。

次に「トウ立ち」の原因についてですが、これは「積算温度の不足」が原因です。

参考までに、1週間種まきが遅れると収穫は1カ月遅れるので、まき遅れの場合、にんじんがトウ立ちするのも必然です。

ご相談内容には「いままでと同じ」とありますので、そもそも、これまでの作業がまき遅れではなかったかどうか、そして、温暖な年と冷涼な年で差がなかったかどうか、といった点を、記録をさかのぼって確認していただけるとヒントになるかもしれません。

私はふだんから「種まきの遅れを防ぐ」「作りにくい農地で無理に栽培しない」を心がけて栽培しています。なぜならば、そこには「どんな気候であっても、質の良いにんじんを収穫しきるんだ」と考えているからです。

こう考えるように至った背景には、生産コストを大きく下げるのは難しいので、1枚でも失敗すれば、失敗分を取り戻すためのコストが高くつくからです。

最後に、ご相談者さんはトンネル被覆をされているとありますが、素晴らしいと思います。というのもトンネル栽培は労働コストが高く、風で吹き飛ばされるなどのトラブルが多いので、続けている方を尊敬します。

冬まきのトンネル栽培の一番のメリット(儲かるポイント)は、夏まき栽培の収穫期間(12月〜3月末)と、春まきにんじんの収穫期間(6月〜)に挟まれた作物供給の少ない時期(4月前半〜5月)に、利益が出しやすいという点です。(編集部注※時期は筆者が営農する愛知県の知多半島に準ずる)

しかし、冬まきのトンネル栽培ではトウ立ちしやすく、特に黒田五寸は晩成品種ではないため、特にトウ立ちが目立つと思います。

そこで提案したいのは、晩成品種やトンネル栽培向けに開発した「品種への変更」です。前提条件としては先述した「種まき遅れを防ぐ」「作りにくい農地では無理ににんじんを作らない」の2点ですが、お住まいの地域の有機登録認証機関で、認可が通る見通しでしたら、品種の変更を検討してみてはいかがでしょうか?


有機JAS認証機関の方針にもよりますが、固定種にこだわりすぎると、出荷期間が短くなり、秀品率も下がるデメリットがあります。

私の場合は、10種類程度のにんじんの栽培試験を行った結果、「愛紅(あいこう)」と「優馬(ゆうま)」を選びました。

この2種類を選んだのは、「水没に強く」「割れにくい」という特徴がある、つまり私の畑での秀品率がとても優秀な成績だったからです。

トンネルで適温を維持する技術がある場合、先の2条件(「まき遅れを防ぐ」「作りにくい農地では無理ににんじんを作らない」)のほかは、「土壌に合った品種を選ぶ」に絞られます。

ご相談者さんの畑に適した品種を見つけるためには、種苗屋さんと相談しながら少しずつ試験を繰り返していってください。

「温度以外に考えられる原因」についても考えてみましたが、「積算温度」はとても大切なので、まき遅れは必ず避けてください。

ご相談いただいた内容だけで判断するとなると、「晩成品種」を必ず選んでください。

晩成品種とはトウ立ちしにくく、収穫時期の後半に収穫することを前提に開発された品種です。形、色、味もわりと変わってくるので、特に「有機」をやっている方には抵抗があると思いますが、適切な品種選びは農業の根幹に関わる部分ですから、恐れずに挑戦していかなければ、利益の最大化を望むことができません。

まずは、現在栽培している圃場の10%程度の面積で他の品種を試しながら、変化を記録していくといいものにたどりつけると思います。
この記事で品種と色の試験をしています。

また、ニンジンは先端の根の部分が丸くなるまで育てることで、1本あたりのグラム数が30g増えます(2Lの場合)。つまり、100本で3kg利益が増えるのですから、バカにはできません。

しっかりと栽培することで、収益を増やし、さらに味も良くなります。

私がいる知多半島はにんじんの産地でなく、かなり不利な条件で栽培しているので、収量性が悪いことから、これまでずっと改善のために何が必要かを追及をして、栽培してきました。産地では当たり前とされていることができないので、ご相談者さんのように産地で育てられる生産者をとても羨ましく思います。

産地では基本を守って栽培することで、利益をかなり高めることが可能です。どうかお役に立てば幸いです。

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