長崎県の松浦市御厨町小船免で、約1ヘクタールの畑で米栽培、約0.2ヘクタールの畑でとうもろこし栽培を行っている小規模農家です。
いずれも露地栽培で、米は「ヒノヒカリ」と「コシヒカリ」、とうもろこしは「もちとうもろこし」という品種です。
農地は山間部に位置しており、周辺に大きな建物はありません。
お聞きしたいのはイノシシ対策に関するものです。
水田にはネットフェンス、とうもろこしには電気柵で対策をしていますが、稲に穂がつく頃にイノシシがネットフェンスを鼻で持ち上げて侵入し、とうもろこしができあがる頃になぎ倒されてしまいます。
ネットフェンスの中にさらに電気柵、とうもろこしも同様に2重の電気柵を設置してみましたが、相変わらず被害にあっています。
被害は米で300キロ7万円相当、とうもろこしも300本7万円相当です。
また、ネットフェンスの設置費用は国の交付金で賄えましたが、電気柵と電池代で年間2万円ほどかかっています。
これ以上費用をかけられないので、イノシシの侵入を防ぐ方法を教えていただきたいです。
(長崎県・持田さん/仮名・50歳後半)
小川晴那
株式会社うぃるこ
今あるイノシシ対策の電気柵が正しく設置できているか、見直してみましょう
相談者さまの農地を守ろうというお気持ちがひしひしと伝わってきます。
ワイヤーメッシュ柵は経験されているように、潜られたり破られたりしてしまうのが難点です。
電気柵は設置されているようなので、今ある電気柵が正しく設置できているか、正しく管理できているかを見直してみましょう。
まずは、電気柵が効果的に使える場所に設置してあるか確認しましょう。
電気柵は、動物が電気柵に触れて電気が動物の体を通って地面に落ちることによってビリッと刺激が走る仕組みになっています。
そのため、動物の足が地面に触れていないと上手く機能しないのです。
よくある失敗例としては、コンクリートのギリギリに電気柵が張ってあることがあります。
コンクリートは電気が通りにくいので、コンクリートの上に前足も後ろ足も乗ってしまうと刺激が弱くなってしまいます。
コンクリートが近くにある場合は、30cm以上離れた場所に電気柵を設置しましょう。
また、斜面地や斜面地のすぐ下に設置するのも失敗の要因となりえます。
斜面の上にいるイノシシから見て柵が低く見えてしまうと、「えいやっ」と飛び越えてしまう場合があるのです。
農地の場所によっては難しい部分もあるかと思いますが、斜面がある場合は50センチほど離した場所に設置しましょう。
電気柵を設置する際には、イノシシが潜って入ってくる隙間をなくすのも重要です。
まずは、電気柵のワイヤーの高さがどこで測っても地面から20cm、40cm(2段柵の場合)になっているかを確かめてみてください。
また、地面の起伏がある場所や水路がある場所から潜られることが多いので注意が必要です。
ねぶし竹や杖の地面から20cm、40cmのところに印をつけて、電気柵を当てながら圃場を1周してみて下さい。高さが合っていないところがひと目でわかります。
正しく設置できていたら次に確認すべきなのは管理方法です。
電気柵は資材自体にはイノシシを止める力はありません。イノシシが「痛い!」と思うような電気が流れていないとイノシシを止めることはできません。
そのため、常にイノシシにとって痛い柵を維持するのがポイントです。
まずは電圧を計ってみましょう。電圧は4000V以上出ている状態であるのがベストです。
また、電圧は電気柵のコンディションをひと目で教えてくれます。
圃場に行くときは毎回電圧を確認して、電気柵が正常に作動しているか確認しましょう。
特にワイヤーの断線は見た目からでは分かりにくいため、電圧の強さが重要な指標になります。
電圧が4000V以上出ていない場合は、原因を探しましょう。
草や枝による漏電はありませんか?アースは既定の本数を既定の間隔で頭まで埋めてありますか?断線している場所はありませんか?
さらに、長崎県では、正しい設置の仕方や管理方法を「防護柵の自己点検チェックシート」としてWebサイトに載せています。
そちらをご確認頂ければ十分な自己点検ができるようになるでしょう。
設置も管理もしっかりできているのにイノシシに破られている場合、電気柵の破り方を覚えた頭のいいイノシシがいる可能性があります。
電気柵を攻略する方法はいくつか考えられます。電気柵は安全のために1秒間隔でしか電気が流れていないため、勢いで入ってしまえば入ることができます。
また、鼻先で電気柵に触れれば効果はあるのですが、鼻先で触れず、頭を下げて潜ってしまうと、イノシシの毛はとても固く電気を通しにくいため、痛い思いをせずに通ることもできてしまうのです。
このように電気柵を攻略してしまったイノシシがいるのであれば、捕獲するか「猪ふまず」という防護柵を守るための対策グッズを活用して効果的に電気柵を使っていくしかないかと思います。