もとは小型船で底引き網をやっていましたが、漁獲量が安定しないため、並行して単価が高い一本釣りを取り入れました。
始めてみると、獲る魚の見方が変わりました。同じ魚でも獲り方で魚に与えるストレスが違うので、魚の色に違いがでます。
さらに、処理の仕方を変えると、身の臭みや日持ちなどもまったく違ってきます。
販売も自ら行っているので、お客さんに喜んでもらうために、魚の鮮度を保つ「神経締め」も勉強中です。
最近、同じ漁を行う仲間から、神経締めをした後の処理として、ホースを魚の身に押し込んで真水を送って血抜きをする「津本式」という方法を教えてもらいました。
津本式だと魚の臭みやえぐみがなくなり、お客さんの評価が上がるよと教えてもらいました。
魚に真水を当てることはタブーだったはずなのでちょっと信じ難いのですが、この方法がいい理由を知りたいです。
(宮崎県・中武伸治さん/仮名・50代)
本間俊輔
株式会社水土舎主任研究員
正しい手順で処理をすれば、身が水っぽくはならずに鮮度の劣化を防ぐことが できます
最近各方面で話題の「津本式」というのは、簡単に言うと魚の血抜きをする方法のひとつです。
魚の血管の中に水を流し込み、残っている血を流し出すことで腐敗や鮮度の劣化を防ぎ、長期間の保存が可能になります。
「津本式」が画期的なのは、生きている魚だけでなく既に死んでいる魚の血抜きができることです。
これまで魚の血抜きというと、生きた魚のエラや血管を切り、血液を放出させる方法が主流でした。
この方法は、魚の心臓の働きによって血を抜くため、血抜きを行う前の魚が元気に生きている必要がありました。
しかし、「津本式」は魚の血管(動脈)に水流を通すことで強制的に血液を流し出す方法なので、弱った魚や既に死んでいる魚の血を抜くことも可能です。
また、従来の活け締め、神経締めでは抜けきれなかった血管や内臓に溜まった血を「津本式」で排出させることで、活け締めや神経締めの効果をより高めることも可能になります。
「津本式」で血抜きを行う際には、海水ではなく水道水を使用することが重要です。
真水を使用することで、浸透圧の働きにより魚の血液をより効率よく排出させることができます。
また、海水には腸炎ビブリオをはじめとする多数の雑菌が含まれているため、衛生面でも水道水の使用が必須となります。
質問者さんが気にされているように、一般には海の魚の身に真水を当てることはタブーとされてきました。
もちろん3枚おろしをした後のフィーレや、柵の状態の魚を真水に付ければ水っぽくなってしまいますが、鮮度の良い魚に「津本式」の血抜きを正しく手順通りに施せば、不思議と水っぽくなりません。
もちろん、血管に水道水を通す過程で幾分かの水が身に入ってしまうと思われますが、その後の脱水の工程(魚の頭を下にして立てかけ、水の放出を促す/吸水性のある紙で魚を包んで保管する/フィーレの段階で軽く塩を当てて脱水する)でほとんど排出されるのではないかと考えられます。
一方、良いことずくめに思える「津本式」も万能ではありません。
既に鮮度の悪化した魚に強い水流を当ててしまうと身に水が入ってしまうだけでなく、水圧によって魚の腹部が破裂して売り物にならなくなってしまう恐れもあります。
また、魚に真水を当てることや、売り物の魚に刃物で傷をつけることを嫌がる買受人や料理人も少なからず存在します。
「津本式」はきちんとした手順を踏んで実践することで魚の価値を高められる方法ではありますが、方法を間違えたり、売り先の理解を得られない場合は逆効果になることを知ったうえで実践することが重要です。