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2021.07.08

農村を元気にするのは農業女子!東京農大の専門家が考える地方再生とは?

農村を元気にするのは農業女子!東京農大の専門家が考える地方再生とは?

新型コロナウイルス感染症の流行で、社会生活が一変した2020年秋、北海道北見市留辺蘂(るべしべ)町を舞台に、農業がテーマのイベントが開かれました。仕掛け人である東京農業大学の小川繁幸先生は、イベントの目的について「主役は農家。これまでのライフスタイルを見直して、楽しむことを見つけてほしい」と話し、従来は経営の補佐役だった女性が新たな食文化を創出する中心となることで、農業がもっと魅力的になると教えてくれました。(画像:MASA HAMANOI)

ポイント
・食料から「食文化」へ
・農村は魅力の空間
・人とひとをつなげよう!


「農業の未来」を象徴する場


2020年10月10日、留辺蘂町花丘の「おんねゆ花え〜る根々の丘公園」で、「RURAL STYLE Collection(ルーラルスタイルコレクション)」を企画・開催しました。田園や農村を意味する「ルーラル」の言葉どおり、会場は周囲を森や林に囲まれた緑豊かな丘が舞台で、人がどれだけ集まっても密の状態になることはありません。


留辺蘂は網走から旭川方面に向かって約50キロ、JR石北本線なら2時間ほどの内陸に位置し、2006年に町村合併して北見市になりました。農業と林業が基幹産業で、人口8,000人ほどの小さな町でありながらも、世界一の大きさのハト時計と3つの温泉地があり、冬の間に凍る氷の下の川底が見られる水槽や、滝つぼの水槽がある水族館などといったユニークな観光スポットで知られます。

白花豆の花(出典:日本豆類協会「豆フォトギャラリー」)
白花豆の花(出典:日本豆類協会「豆フォトギャラリー」)

農作物は、小麦とジャガイモのほか、砂糖の原材料になるビート(てん菜)にくわえて、白花豆と言って、お菓子の材料になるインゲン豆の生産量が日本一です。インゲン豆というと十勝が有名ですが、近年では網走地方でも生産が盛んになっています。

隣家まで何キロも離れた広大な農地を持つ北海道では、生産効率を重視した大規模経営が主流です。とはいえ、1年を通じて冷涼な気候が続くオホーツク網走地方は、本州と比べて収穫は年に1度。最近では北海道にも台風が接近し、大雨被害に見舞われることもありますから、農業経営には常にハイリスク・ハイリターンがつきまといます。

白花豆の種植え後の土かけ作業(北海道農政部農政課・網走支庁北見地区農業改良普及センター)
白花豆の種植え後の土かけ作業(北海道農政部農政課・網走支庁北見地区農業改良普及センター)

農家が農作物の味を知らない


東京農大のオホーツクキャンパスに赴任して、地元の農家と交流するようになったときに、違和感を感じたのが、農家が自分で収穫した作物の美味しさを知らないことです。小麦やビートは加工しないと口にできないので無理もないのですが、百貨店やスーパーのバイヤーにそれは通用しません。

前回の記事でも書きましたが、バイヤーは生産現場に足を運んで、農作物がどんな場所で、どんな人たちによって作られているかを自分の目で確かめたうえで、自信を持って消費者にオススメします。味もさることながら、生産者が魅力的であれば、作物の価値も高まります。農家は今や農産物を通じて見られる存在なのです。

私がルーラルスタイルコレクションを企画した理由も、まさにここにあります。「食べ物の作り手こそ誰よりも食通であるべきだ」という考えのもと、イタリアや神戸の星付きレストランで修行した大井健司シェフの協力を得て、地元で作られた食材を使ったメニュー12種類を楽しめるビュッフェディナーを無料で提供しました。

左奥で調理の指導をしている男性が大井健司シェフ(MASA HAMANOI)
左奥で調理の指導をしている男性が大井健司シェフ(MASA HAMANOI)

調理には、農家や飲食店関係者も協力しました。見慣れた白花豆や玉ネギ、ジャガイモやエゾシカの肉が、東京の一流レストランのシェフによって調理されていくようすを目と舌で味わえたことは、農家が農産物に対して抱いていた価値観を大きく変えることになりました。

これまでほとんどの農家は組合の指示通りに、規格品を生産してきました。つまり、収入を得るための“食料”に過ぎなかったのです。しかし、地元産の白花豆を使った料理を味わい、それを喜んで食べる人の姿を目のあたりにしたことで、あらためて食を通じて喜びを生み出しているという気持ちが芽生えました。言わば“食文化”の創造です。

農家はクリエイター


「創造」という意味では、農家は空間を作っているという点で、クリエイターだと思います。欧米では“農村”に避暑地やバカンスの場の役割がありますから、農村空間はとても魅力的に演出されています。農家にとってはなんでもない農村や畑の風景でも、都会からやってくる人にとって、非常に刺激的です。

欧州のワイン畑ではガーデンディナーが普及している


欧州のワイン畑ではガーデンディナーが普及している


実際に、コロナ禍で海外旅行ができない今、若者がデートスポットとして農業を1日体験したり、収穫が終わった後の畑でキャンプを楽しむ人も少なくありません。空間演出のポイントは、ふだんは人混みの多いビル街で生活している都会の人のストレスをいかに解放してあげるかという点にあります。

2020年は、キャンプ用品や設備が揃ったグランピングや、ソロキャンプがブームになりましたが、私としては少し物足りない気持ちです。海外では食事の空間をとても大切にしますから、テーブルや食器などにもこだわって、光や音も演出してステキな空間を作ってみてはいかがでしょう?

美味しい農作物だけでなく、景色という視点から農村をPRすると、農業に新たな価値が生まれます。写真に撮りたくなるような場所なら人は自然と集まります。花や小麦といった景観作物を育てることで、農家は空間を演出するクリエイターにもなれるのです。

とはいえ、田畑に他人が足を踏み入れることは、衛生管理や生産性を考えると簡単ではありません。近隣の農家や地域関係者とも調整が必要です。ただ、中山間地域にあって、傾斜地など耕作条件が良くない場所の方が、かえって景色が良い場合もありますので、その場合は、農地を目的ごとに区分して体験型観光の場として活用することもひとつのアイディアです。

イベントでは丘の中腹にソファや椅子を置いてコーヒーを楽しむ人も…。(MASA HAMANOI)
イベントでは丘の中腹にソファや椅子を置いてコーヒーを楽しむ人も…。(MASA HAMANOI)

「農家で良かった!」涙ぐむ農業女子


私自身も農村の空間演出に農家と一緒に取り組んでいて、「ルーラルスタイルコレクション」もそのひとつ。刈り取った麦わらを丸めた「麦稈(ばっかん)ロール」で広い丘を仕切って、アイヌや明治開拓時代の歴史を表現する映像演出や、現代を象徴する大型トラクターを設置しました。

イベントの最後は、農家の女性が働く(ON)ときのカッコいいワークスタイルと、リラックスした(OFF)日常着を交互に提案するファッションショーも開催。

北海道は、開拓時代にアメリカ式の農法を導入して近代化しているので、米国のワークウェアブランド「UNIVERSAL OVERALL(ユニバーサルオーバーオール)」から衣装提供を受けました。モデルのメイクアップは、ハリウッドや一流ファッション誌で活躍しているアーティストと地元の美容専門学校生が担当しました。

夕暮れどき、ホタテの貝殻を敷き詰めたランウェイを照明が照らすなか、色とりどりのポケットがついたワークウェアや揃いのつなぎに身を包んだ農業女子が軽やかな足取りで進みます。

農家はONのときほどオシャレでカッコよくあるべきだ(MASA HAMANOI)
農家はONのときほどオシャレでカッコよくあるべきだ(MASA HAMANOI)

この日、招待された農家は約500人。「ファッションショーなんて初めてだ」と目を白黒させて見ていたおばあちゃんも「楽しかった!」と笑顔で帰途につきました。

モデルを務めた農業女子は、終了後に涙を浮かべながら「初めて農家で良かったと思いました」と言ってくれました。ほかにも「本当はずっとこんなステキな格好をしてみたいと思っていた! でも、近所の人の目を気にして、一歩が踏み出せませんでした」と喜んでくれたのです。

イベントに協力してくれたシェフやアーティストにも変化がありました。彼らの手によって変わっていく農家の姿を間近に見られたことは、大きなやりがいにつながったと話しています。農業を通じて、都市と農村という異なる世界に生きるひとたちが結びついたのです。

農業には3K(汚い、キツい、危険)のイメージが根強くあります。最近ではさらに「稼げない」「結婚できない」「高齢化」などの問題もいわれています。でもそれは、農業以外の人たちと交流する機会が少なく、農家同士の閉鎖的な社会で生活しているからだと私は思います。

この意識を変えるのは、何よりも携わる人自身が「楽しむ」という気持ちです。楽しんでいる人がいる場所には、自然と人が集まります。農家だけではありません。漁業や林業も対象に、いろいろな人がつながれる場所を作っていきたいと思っています。


小川 繁幸(おがわ・しげゆき)/東京農業大学生物産業学部自然資源経営学科准教授。1982年新潟県で生まれ、兼業農家で育つ。農林水産業のコンサルティングなど民間企業を経て、2013年に同大学の博士研究員、翌14年同大学同学部地域産業経営学科助教に就任。オホーツクを拠点に全国各地の農林漁業地域の活性化に向けて飛び回る。

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