高級食材の代表として知られるトリュフは、フォアグラやキャビアと並ぶ世界3大珍味です。
日本では縄文時代の遺跡からキノコ形の土製品が出土しておりますし、日本書紀には奈良・吉野の民が天皇に栗茸を献上したという記録が残るほど、世界的で類を見ないキノコ好きの民族。
イタリア料理やフランス料理の普及に伴って、昔に比べればトリュフに接する機会も増えていますが、国内に流通しているのは、すべてヨーロッパや中国からの輸入品のため、価格もキロあたり8万円はくだりません。
実は日本でも約40年前、黒いトリュフが見つかったことをきっかけに、今では遺伝的に20種以上のトリュフが確認されていて、そのうち2種類が食材として有望視されていますが、栽培技術は確立されておりません。
国産トリュフの栽培を目指して、長年、生育に適した樹木や環境の研究を続けてきた森林総合研究所のチームは2022年11月、コナラを植栽した試験地で白トリュフを人工的に発生させることに成功しました!
栽培技術が確立すれば、新たなビジネスチャンスの創出につながります。
この記事のポイント
・トリュフが育つには何年もかかる
・トリュフは菌根菌
・日本でトリュフは栽培できるのか?
・黒トリュフと白トリュフでは生育条件が違う
・茨城県と京都府の試験地で成功!
トリュフが育つには何年もかかる
私たち日本人に馴染みあるシイタケやマツタケなどといった「カサ」と「柄」があるキノコと違って、トリュフは土のなかにできる球形から塊状をしたキノコです。
フランスやアメリカには、トリュフ菌をつけた苗木を植えて人工栽培する農園があります。通常、苗木の植栽から収穫できるようになるには7年くらいかかります。
サイズはゴルフボールからジャガイモ大。地上から見つけることは難しいため、特別に訓練したブタや犬に香りを嗅がせて収穫します。
トリュフは菌根菌
トリュフ菌は樹木の根に共生して、樹木が光合成によって作り出した炭水化物を受け取って生育します。そして、土壌中に広げた菌糸によって水分やミネラル分を集めて樹木に与えることで、互いに利益を与えあっています。
こういった菌は「菌根菌」と呼ばれ、農作物を育てる土づくりでは重要な働きをもたらします。以前、バイオスティミュラントについて学んだ記事では、植物に病原体を寄せ付けないようにガードしたり、植物成長ホルモンの生成などに関わるさまざまな菌根菌をご紹介しました。
日本でトリュフは栽培できるのか?
世界では少なくとも200種のトリュフが存在すると考えられており、日本でも40年ほど前に黒トリュフが見つかって以来、遺伝的には20種のタイプが見つかっています。
このうち、2種類が食用として有望視されており、黒トリュフは「アジアクロセイヨウショウロ」、白トリュフは「ホンセイヨウショウロ」と命名されています。
前者は北海道から九州まで、後者は東北地方から中国地方に分布しており、気象条件や土壌条件もさまざま。技術の確立にはまず、食用できるトリュフを確定したうえで、どのような土壌環境や樹木で生育するのかを調べる必要がありました。
黒トリュフと白トリュフでは生育条件が違う
2015年、農林水産省の委託を受けた国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所の山中高史さん(東北支所支所長)らのチームは、食用として有望視される黒トリュフと、白トリュフが発生する場所のうち、9カ所での調査をスタート。
年間降水量や平均気温などを調べた結果、黒トリュフ(アジアクロセイヨウショウロ)は土壌のpHが中性から弱アルカリ性に適しており、カルシウムなどの養分が比較的多い場所を好む傾向がわかりました。
一方、白トリュフ(ホンセイヨウショウロ)は、弱酸性で養分が乏しい土壌を好むことから、黒トリュフとは正反対です。
次は、トリュフ菌の生育に適した樹木を特定しなければなりません。国内ではこれまでにクリやナラ、カシ、シデ、松などの林で野生のトリュフが見つかっています。
その結果、茨城県内に2017年10月に植栽した苗木と、京都府内で2019年4月に植栽した苗木の根で、それぞれ1年後にトリュフ菌の定着を確認。2022年11月には茨城県で8個、京都府で14個の白トリュフができているのがわかりました。
茨城県と京都府の試験地で成功!
ホンセイヨウショウロはうまく育てると、大きさが10センチ以上になる場合があります。欧米の白トリュフと比べて香りも遜色ありませんでした。
森林総合研究所の山中高史東北支所支所長は、今回の試験結果を受けて、「今後は2つの試験地の栽培環境を比較して、トリュフを安定して作るために適した栽培条件を解明するとともに、栽培から収穫までの作業工程を検討して、実用化に向けた研究を進めます」と話しています。
今後、国産トリュフの栽培技術が確立されて安定提供が実現すれば、新たな食材として需要が高まり、加工品などの開発や、海外輸出など大きな市場に結びつく可能性も期待されています。今後が楽しみな研究です。
取材協力:森林総合研究所 東北支所 山中高史支所長