農業は草刈りに始まり、草刈りに終わる……。
梅雨を控えたこれからの時期は、草があっという間に伸びますので、場所ごとに草刈りを定期的に行うようにしても、3週間もすればあっという間に元通りになり、ウンザリする毎日。
最近では、除草用にヤギを飼ったり、レンタルしたりする地域もあるようですが、多くの農家が夏の間は毎週のように草刈り作業を繰り返すことになります。
農業につきまとう雑草の悩みに、農機具のプロが応えます!
東さんがオススメする草刈機
・乗用タイプならこのシリーズ!キャニコムの草刈機まさお
・38枚の特殊刈刃で背丈の高い草も一発!共立 ハンマーナイフモアHR665
・小回りのきく刈払機と自走式の快適さを両立!工進 手押し式エンジン草刈機
広い農地には草刈機(モア)、狭い場所は刈払機
2022年末に始まったこの連載も、今回で6回目。
こんにちは!和歌山県を拠点に、全国向けの農機具・農業資材専門の宅配レンタルを行う通販サイト「アグリズ」を運営している藤原農機の東(ひがし)直斗です。
冒頭でも触れていますが、雑草の悩みはどれだけ語り尽くしても尽きないものです。
前回の記事「今すぐ使いたくなる刈払機3選」では、狭いスペースや傾斜地に使う「刈払機」を取り上げましたが、今回は、より大きなスペースを除草するための「乗用・自走式草刈機」をご紹介いたします!
英語の芝刈機“mower”に由来して、「モア」とも呼ばれるこの農機具、肩掛式や背負式の刈払機に比べると、広い面積を刈り取ることができます。
作業者が乗って、ハンドルで操縦する乗用タイプであれば、マリオカートのように走りながらの草刈りが可能です。一方、少し狭い敷地や小回りが必要な場所では、乗用タイプよりも、作業者が押して操作する自走式タイプがオススメ。
どちらも草刈機本体が動きますから、刈払機のように、作業者が余計な体力を使わず、短時間で草を刈ることができるのが大きなメリットですが、一方で樹や柵のまわりなどのような細かい作業は苦手です。
そこで、広いスペースは乗用・自走式草刈機、細かな仕上げは刈払機というように、2種類を併用して、上手に使い分けてはいかがでしょうか。
価格帯の幅が広すぎて、どれを選んだらいいのかわからない
自走式や乗用タイプは、誰もが一家に1台は欲しい草刈機ですが、気になるのは本体価格。自走式なら20万円台で購入できる製品もありますが、乗用タイプでは100万円を超える高額機種もあるので、価格帯の幅が広いのも特徴です。
さらに、同じつくりの製品でも、発売元が異なるOEM製品が多いのも特徴のひとつ。これだけ価格帯が幅広く、パッと見た時の外見がソックリの製品が多いとなると、何を選べたらいいのかわからなくなった!と迷子になる人も少なくありません。
今回は、そういったお悩みに着目して、さまざまな現場を見てきた農機具のプロがオススメしたい乗用・自走式草刈機を紹介していきましょう!
乗用タイプならこのシリーズ!キャニコムの草刈機まさお
乗用タイプといったら、やっぱり最初に紹介しなければならないのが、キャニコムの「草刈機まさお」のシリーズです!
一度聞いたら忘れられないインパクトのあるネーミングですが、製品カタログを開くと、それぞれの製品ごとに「草刈坂へ行けば分かるさ」とか「安心して下さい 刈りますよ」などといったダジャレ満載のキャッチコピーが並びます(笑)。
おふざけコピーは自信のあらわれなのでしょうか、実際には乗用タイプの草刈機のなかでもトップクラスの品質と性能をあわせ持つ、世界に誇る日本の乗用草刈機なのです。
乗用草刈機で何を選んだらいいのか考えている人には、無条件でこのシリーズをオススメしている私ですが、個人的に一番推したいポイントは「イ・ア・イ」という刈刃を簡単に交換できる機能。
名前だけ聞くと「ナンのこっちゃ?」な感じですが、刈刃の取り付け部分にボルトが使われていないため、本体をジャッキアップしたり、特殊な工具を使わなくても、現場で誰でも簡単にワンタッチで刈刃が交換できるんです。
ちなみにキャニコムの広報によると、「イ・ア・イ」は、刈刃を素早く交換できるようすに、刀をさやから素早く抜いて、素早く収める「居合い」を重ねているそうです。
さらに刈刃カバーは草の密集度に応じて3段階に広げられますので、刈った草がカバー内に溜まることなく、スムーズに後方開口部から吐き出されるのも嬉しい機能です。この機能は、カバーの独特の動きから「魅せられてアイーン」と名付けられいるので、徹底的にお笑い好きな社員がいるのでしょう(笑)。
草刈機まさおシリーズのなかで、最上位機種「Hey MASAO」は、エンジンがHONDA製のCMX2404 HCSとヤマハ製のCMX2202 YCSがありますが、今回はHONDA製エンジンの機種を紹介。
この機種は、通常走行時は二輪駆動で、傾斜地や凸凹が激しい不整地ではレバーひとつで四輪駆動に切り替えることができるなど、一般的な乗用草刈機にはないさまざまな機能が搭載されているのです。
傾斜地に広がる果樹園はもちろん、草ボウボウの休耕地や、太陽光パネルの躯体が並ぶような敷地であっても、ハンドル操作の負担が少なく、人間工学にもとづいて開発された乗り心地の快適なシートを採用するなど、大活躍間違いなしのマシーンなのです。
メーカー希望小売価格が128万円と高額ではありますが、大型の草刈機を購入する場合、誰でもできるだけ長く使いたいと考えるものですから、耐用年数を伸ばすためには、普段から簡単にメンテナンスしやすく、定期的な点検整備が可能な機種を選ぶのが賢い選び方だと思います。
乗用草刈機といえども刃は消耗品ですから、交換作業は定期的にやってきます。そのたびに農機具店に行って交換を頼むのは、手間もコストもかかりますから、自分で交換できるのに越したことはありませんよね?
あとはお財布との相談ですから、「四輪駆動までは要らないな…」といった感じで、最も機能を備えた最上位機種から、不要な機能を削りながら商品グレードを下げていけば、きっとあなたにピッタリな乗用草刈機を見つけられるのではないかと思います。
乗用草刈車Hey Masao(CMX2404 HCS)/株式会社 筑水キャニコム
本体サイズ(cm) 全長194.7×全幅102×全高91
総重量 365kg
エンジン HONDA GX690
最大出力3600rpm
総排気量 688㎤
使用燃料 自動車用無鉛ガソリン20ℓ
22.4馬力
作業能率 1時間あたり7300㎡(低速作業中の最高速度で走行した場合)
最高時速 作業時7.7km/h 移動時13.8km/h
登坂能力 最大傾斜角度25度
刈刃 刈幅975mm 刈高0〜150mm(21段階)
メーカー希望小売価格(税込)128万7,000円(チャージポンプ付き)
▼問い合わせや販売価格については最寄りの農業機械販売店へ
メーカー公式サイト
▼藤原農機「アグリズ」での購入先
レンタル申し込み
38枚の特殊刈刃で背丈の高い草も一発!共立 ハンマーナイフモアHR665
次にご紹介したいのが、共立ブランドの「ハンマーナイフモアHR665」です。ここ数年でYouTubeやSNSも、画像や動画を見かける機会が増えてきましたので、ご存知の方もかなり多いのではないでしょうか?
近年、自走式の草刈機も値上がり傾向にはありますが、乗用タイプに比べたら、価格帯もまだ押さえられていて、30万円台で買える機種も珍しくありません。
刈っても刈っても次々に生えてくる雑草との戦いを考えたら、時間対効果も非常に高い機種だと思います。最近の若者言葉で言ったら「タイパ(=タイムパフォーマンス)が良い!」って感じでしょうか(笑)。
HR665はハンマーナイフモアと呼ばれる構造です。これは通常の草刈機と異なり、刃の軸が縦方向に回転し、3列に並んだ38枚(19×2組)の刃がフリーに動作して、ハンマーのように雑草を叩きつけながら刈り取っていきます。
雑草を段階的に刈り取っていくので、刈った雑草が粉々に粉砕されるのも特徴です。集草作業をしなくても、刈った後の圃場が非常に綺麗なのも嬉しいポイントのひとつ。細かく粉砕した雑草はすき込みも楽ですし、腐食が早いので堆肥化までの時間が短くなります。
刃の交換は機械に装備されているスタンドで刈刃部を持ち上げて、スパナやレンチで交換します。38枚あるので少し時間はかかりますが、初心者でも専用器具を使わずに交換できるのでメンテナンス性は良いと思います。
ハンマーナイフを検討されているお客さまから、よくお問い合わせを受けるのが、後輪がタイヤの当機種と、キャタピラ(クローラー)になっている「HRC665」と比べたら、どちらを買うべきか?という相談です。
たいていの場合、タイヤ式のHR665をオススメするケースがほとんどなのですが、クローラー式と比較検討されるお客さまの多くが、「傾斜地でも使いたい」という要望をお持ちです。
しかし、傾斜地の草刈りと聞いてイメージするのは、河川敷の堤防のような場所なのです。でも傾斜角度が40度近くあるような斜面では、いくらパワフルなクローラー式でも走行は困難です。
平地と傾斜地のどちらでも使えるつもりで購入しても、急斜面ではほとんど役に立たない結果に終わったらガッカリですよね? HR665の長所のひとつでもある小回りの良さも活かせず、クローラー式を選んだがために、料金も割高だったという状況にもなりかねません。
そういった場合は、最初から素直に斜面草刈機を選んだり、レンタルするのが良いでしょう。農機具選びのときは、使用する現場の環境特性をよ〜く観察するのが賢い買い物につながります。
共立 ハンマーナイフモアHR665/やまびこジャパン株式会社
本体サイズ(cm) 全長167×全幅81×全高93
総重量 135kg
エンジン GB290PN
最大出力5.8kW
排気量296㎤
作業能率1時間あたり6アール、13アール、23アール(※速度と刈幅から推論した理論値)
最高時速 前進時0.95km/h、1.99km/h、3.5km/h
刈刃 刈幅650mm 刈高20〜80mm
メーカー希望小売価格(税込)48万700円
▼問い合わせや販売価格については最寄りのJA農協、販売店まで。
メーカー公式サイト
▼藤原農機「アグリズ」での購入先
レンタルページ
刈払機と自走式の長所を合わせ持つ!工進 手押し式エンジン草刈機
最後に紹介するのが、この連載ではすっかりお馴染みとなった工進の「手押し式エンジン草刈機 EBC-26C」という、一風変わったアイテムです。エンジンで駆動するのは刈刃部分のみで、本体は自走せず、作業者が手で押しながら人力で移動する必要があります。
手押しとはいえ、本体の重さが10.4kgと軽いので、通常は刈払機を使うような小回りが必要な場所でも楽に作業できますし、2輪のタイヤがありますから、「両手で支える必要がない」という自走式の長所の両方を兼ね備えています。
これまで述べてきたように、乗用・自走式草刈機の価格は、何十万円もするのが一般的なのですが、EBC-26Cは肩掛け式刈払機と同じぐらいの値段で購入できるので、従業員など、複数で作業する現場では導入しやすい機種としてオススメしています。
EBC-26Cの良さは、それだけではありません。
タイヤをハンドルの間にたたみ入れてしまえば、場所を取らず収納できます。さらに、エンジン始動も、ヒモ(リコイルロープ)を引っ張れば、特別なコツなど必要なく、女性や高齢者も簡単にかけられます。
誰でも手軽に使える点にくわえて、4万円台(参考価格)で購入できますから、費用対効果が高い「コスパ(コストパフォーマンス)」の良いアイテムだと言えます。
私の記事では、メンテナンスや刈刃交換がどれだけ勘弁かを重視しますが、この機種は、金属刃(チップソー)ではなく、専用のナイロンコードを高速回転させて刈り取るので、安全面でも安心して使えます。
このナイロンコードも差し込み式になので、特殊な操作を必要とせず、ものの数分もかからずに刈刃の交換が可能。刈り込み幅は420mmなので、自走式や乗用式の大型草刈機を使うほど敷地が広くなく、「草刈機を持ち運ぶのが大変」だとか「刈払機を支えながら、動かすのは体力的にしんどくなった」という人にはオススメです。
これまでは刈払機で除草していたけれど、乗用・自走式草刈機を導入したいと考えている人にとっては、効率化にくわえて「疲れにくい」のも大切なポイントです。
その目的のために、「費用をどれだけかけられるか」を考えて判断するのは非常に難しいですから、まずは安価なレンタルの形で、こういった製品を試して使ってみたうえで、比較検討してみたら賢い買い物になるのではないでしょうか?
手押し式エンジン草刈機EBC26C/工進
本体サイズ(cm) 全長122×全幅54×全高87(折りたたみ時 全長110×全幅54×全高49)
総重量 10.4kg
エンジン 空冷2サイクルガソリンエンジン
最大出力0.7kW
排気量26㎤刈刃
ナイロンカッター直径240mm
ナイロンコード207mm
付属品 保護メガネ、プラグレンチ、六角レンチ、ナイロンコード20本、結束バンド1本
実勢売価:34,800円(税込)メーカー希望小売価格はオープン
▼お問い合わせや販売価格については最寄りの販売店まで。
工進特約店
メーカー公式サイト
▼藤原農機アグリズでの購入先
レンタル申し込み
今回は導入することで、タイパ・コスパが格段に良くなる「乗用・自走式草刈機」を紹介しました。来月もお楽しみに!
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