紅葉が深まる11月になると、柿やブドウなどの果樹も収穫の終わりを迎えます。播種から収穫まで1年以内に完了する一年生作物とは異なり、桃やイチジクなどを含めた落葉果樹の中では、すでに来年にむけた準備が着々と進んでいます。
果樹生産者にとって秋から冬にかけての今の季節は、収穫を終えてエネルギーを使い果たした樹木に、養分を与えることで、樹木の体力回復を早めます。
日本熱帯果樹協会の理事を務め、南九州大学で果樹園芸学を研究・指導する前田隆昭教授が、来年の収穫に備えた効率の良い施肥計画について教えます!
1 果樹へ養分=肥料を与える
2 「窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)」は何をもたらすのか?
3 肥料の施用時期
4 肥料のやり方にもコツがある
5 液体肥料は葉面散布で速効性を期待
6 肥料をどれくらい施用すれば良いのか計算してみよう!
7 堆肥とは何か?…地力を向上させるために必要な資材
8 肥料の選び方(基本)
樹木への養分とは、肥料を与えること
植物は、土壌や水の中に存在する酸素や炭素、窒素などを吸収して成長しています。
これらの元素には、植物が生命を維持するために必ず必要とする「必須元素」と、ごく少量だけで良い元素に分けることができます。
さらに、必須元素は、“肥料の三要素”として知られる窒素・リン酸・カリウムに代表されるように、たくさん必要とする「多量元素」と、「微量元素」に分けることができます。
「窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)」は、果樹に何をもたらすのか?
それではあらためて、果樹生産において、肥料の3要素である窒素、リン(酸)、カリ(ウム)がどんな働きをするのか、押さえておきましょう。
窒素は、植物の細胞や葉緑素をつくるのに欠かせない成分ですから、施用量を増やすことで、次のような効果が期待されます。
・樹勢(樹の勢い)が強くなる。
・収量が増える
・過剰施用によって、枝が徒長したり、果実の着色が悪くなったり、品質低下をまねくことから、施用量には注意が必要です。
一方、リン酸は、植物の細胞をつくるのに必要とされる成分です。カリウムは、果実の肥大を促進する効果が大きいですが、これも過剰施用すると、土壌のpH調整に使う苦土石灰のカルシウム(Ca)欠乏をまねくなどの影響があるので注意してください。
ちなみに、一般的に、窒素・リン酸・カリウムの3要素が知られますが、これにカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)を加えたものを、5要素と言います。
肥料の施用時期について考えてみよう
肥料は、施用する時期によってそれぞれ呼び方が変わります。ここでは主に、落葉果樹に関する基本の3つを学びましょう。各々の時期の施用目的について、下記に記します。
植物は、春になると発芽して開花して盛んに成長するため、新しい細胞をつくるのに、たくさんの窒素を必要とします。そのため、果樹類の成長が開始する前にあたる11月から翌年3月にかけての休眠期間中に「基肥(または元肥)」として肥料を施用します。
「追肥」
果実の肥大を促進するために、一般的には6~7月に「追肥(おいごえ)」として、カリウムを主体に施用しましょう。窒素が夏にかけて多く吸収されると果実の品質低下をまねきますので、注意が必要です。
「秋肥(礼肥)」
果実の収穫が終わった時期に行うことから、果樹への感謝をこめて「お礼肥」などと呼ぶ産地もあります。光合成を盛んにすることで、冬の間に養分をたくさん貯蔵するため、速効性の窒素肥料を主体に、少量施用するのが一般的です。
肥料のやり方にもコツがある
果樹類は、ご存じのように、一度苗木を定植すると、数十年同じ場所で栽培されます。
野菜や花のように、果樹類は定植の前に毎回圃場を耕うんしたりすることはできません。したがって、果樹類の成木園では、土壌の表面に肥料を施用する「表層施用」が一般的です。
ただし、「表層施用」も肥料を株元(株際)には施用せず、株から外側にむかって施用するように心がけましょう。
根が株元から外側にむかって伸長していきますので、根を外側に伸長させるためにも、株元から外側に向かって施用しましょう(つまり、根は肥料を求めて伸長していきます)。
小さな苗木も同様に、株元(株際)には、肥料を施用せず、少し離れた外側に施用するようにしましょう。
液体肥料は葉面散布で速効性を期待
肥料には、固形だけではなく、液体のものもあります。
液体肥料は、葉面散布として用います。葉面散布は、主に早期に効果をもたらせたい場合や微量要素が欠乏していることが疑われる際に使用します。
土壌によっては、ホウ素・マンガン・鉄・亜鉛・モリブデンなどの微量要素が欠乏する場合もあります。そのような場合にも葉面散布を行うようにしましょう。
微量要素が欠乏した時には、葉などに症状が現れますので、原因が微量要素欠乏だと推測できるケースがあります(このような症状につきましては、あらためて別の機会に紹介できればと思います)。
主な葉面散布剤としては、尿素や微量要素を含む液体肥料を用います。
果樹類は、一度植えたら、長期にわたって植え替える必要がない永年性作物です。そのため、苗木を定植した後は、継続的に肥料を与える(施肥)必要があります。年間の施肥計画は、多くの果樹類でどの割合で施用すれば良いか、都道府県の関係部署が研究結果を発表していますので、読者の皆さんも参考にしてみてください。
ここでは、私がかつて和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場の研究員だった当時に取り扱ったウメの施肥割合をあげてみます。
ここで紹介した施肥割合の数字は、基本的には窒素成分として考えていただければ結構です。その他の主要成分であるリン酸・カリウムは要らないの?と疑問に思う方もいると思いますが、後述するそれぞれの肥料に含まれている割合によって、リン酸とカリは問題ないと思われます。
肥料をどれくらい施用すれば良いのか計算してみよう!
では次に、柿(「刀根早生」と「平核無柿」)を例に必要とする肥料の施用量を考えてみましょう。
上の写真でご紹介した「窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)」の含有量が「8-8-8」の肥料を使った場合を例にして、圃場10アールあたりの計算をしてみます。
目標とする窒素の成分量÷使用する資材が含有する窒素量×100
お礼肥の窒素は7.2 kgが目標とする窒素の成分量です。使用する肥料が含有する窒素量は8%です。
したがって、▢で囲った上記の式に当てはめると、7.2÷8×100=90 kg
以上のことから、上記の肥料(N-P-K=8-8-8)を10a 当たり90 kg施用する必要があります。
基本的に、肥料の施用量を計算する際は、窒素を考えます。
上記の柿を例にして、追肥の量を考えます。
追肥は、3.6 kgが目標とする窒素の成分量です。使用する肥料が含有する窒素量は10%。
これらを上記の式に当てはめると、3.6÷10×100=36 kg。
つまり、「N-P-K=10-10-10」の肥料を10アール あたり36 kg施用する必要があるということになります。
堆肥とは何か?…地力を向上させるために必要な資材
先述した柿の施肥量の図で、「堆肥は10アールあたり、 2トン施用する」とご紹介しておりますが、ここであらためて「堆肥とは何か」を考えてみたいと思います。
堆肥とは、農業のもっとも基本である土地(土壌)の地力を維持増進し、健全にするために、必要不可欠な資材です。言い換えると、「理化学性」や「生物性」を改善することが健全化につながるのです。
つまり、堆肥を施用しておくことで、大雨が降ったり、環境要因が大きく変化しても、土壌のpHが急激に酸性やアルカリ性に変わりにくくなります。また、有機物を分解するための良い微生物を繁殖させることなどにもつながりますから、果樹栽培においては、毎年、10アールあたり2 トンの堆肥を施用する必要があるのです。
一言で堆肥と言っても、原料や目的別に、さまざまな種類に分けられます。
・牛糞:生の牛糞を生乾きに乾燥させて、堆積発酵処理したもの
・豚糞:生の豚糞を生乾きに乾燥させて、堆積発酵処理したもの。主に野菜に使用
・鶏糞:生の鶏糞を生乾きに乾燥させて、堆積発酵処理したもの。主に野菜などの肥料の要求量の高い作物への施用に効果的。
・バーク堆肥:広葉樹あるいは針葉樹の樹皮(バーク)に尿素などの窒素源を加えて、長期間発酵腐熟させたもの。
上記のことから、果樹類には一般的に牛糞やバークを発酵処理した堆肥がおすすめです。堆肥施用時は、きちんと発酵した資材を使用することが重要です。
完全に発酵したかどうかを確認するには、堆肥を少量持ってみて匂いを嗅ぎ、まだ臭ければ発酵が途中であることを示していますので、施用は控えてください。未熟な状態の堆肥を施用することで果樹に悪影響を及ぼし、最悪の場合、枯死にもつながりますから、圃場に広げて、臭いがなくなるまで待ちましょう。
肥料の選び方(基本)
肥料も堆肥のようにさまざまな種類があります。一般的には、「化成肥料」と「有機質肥料」に大別されます。
化成肥料は、肥料の3要素(窒素・リン酸・カリ)のうち、2成分以上を含むものを指します。使われる原料は、混ぜる(混合する)だけではなく、化学的な操作を加えています。また成分の合計量によって、
普通化成と高度化成のふたつに分類できます。
有機質肥料は、動物質や植物質に大別されます。動物質肥料は、主に魚類や獣類に由来する骨粉や魚カスなどを原料にしています。植物質肥料は主に植物油を絞った後の油カスのことです。
これらの肥料は、地域によって、それぞれ異なる肥料名や商品名で販売されています。
読者の皆さんがお住いの地域で販売されている肥料を一度、確認していただくことをオススメします。肥料は、使用目的に応じて、窒素・リン酸・カリの3要素の成分も異なりますので、用途に応じて使い分ける必要があります。
この記事では、収穫を終えた落葉果樹に対して、秋から冬にかけてどんな肥料を施用するかを考えてきました。新規就農したばかりの若い生産者はもちろん、ベテラン農家の皆さんにも参考になれば幸いです。
冬に向けて寒さが厳しくなってきますが、来年立派な果実が生産できるように、この季節を上手に活用してください。次の記事では、柑橘を中心にした常緑果樹について勉強します。
この記事の執筆者
琉球大学農学部を卒業後、和歌山県庁に入庁して農業改良普及所の技師や、果樹試験場の研究員などを歴任し、2009年退職。同年、農業生産法人「有限会社神内ファーム21」に入社し、南方系果樹の研究を経て、2015年から南九州大学環境園芸部果樹園芸学研究室の講師に。2021年同大学・短期大学の学長に。2022年5月、学長退任後も教授として引き続き学生を指導する。