ポイント
・ビジョンを共有するためのコミュニケーションを取る
・大切にしていることを簡易な言葉で言語化してみる
・ミーティングはコンパクトに
・面談でスタッフとの信頼関係を固める
ビジョンを共有するためのコミュニケーション
経営で最も大切なことは、組織のビジョンが言語化され、それに対する経営者の姿勢に筋が通っていることだと私は思います。そしてメンバーがビジョンに同意していることが大切。そうでなければスタッフに指示を出すときに真意が伝わりません。
阿部梨園ではビジョンをスタッフに共有するために定期ミーティングで全体的なコミュニケーションを取り、定期面談でより深く一人に対してコミュニケーションを取っていきました。ただ日々の業務の指導をするだけではなく、チーム全体や事業全体の情報をオープンにし、目的や目標を共有しながら一緒に仕事をしていきました。
そうすることでスタッフ一人ひとりのモチベーションが上がり、職場の雰囲気が良くなったように思います。スタッフは農園全体の動きを把握し目的を理解した上で、自分の役割に、より責任を持ってくれるようになりました。
大切にしていることを簡易な言葉で言語化してみる
そもそもビジョンを言語化できない農園経営者は多いのではないでしょうか。一般の企業が掲げているような社是や社訓のようではなく、もっと単純に「○○を大切にする農園です」と平易な文章で考えればいいです。
かっこいい言葉をひねり出そうとすると言語化できなくなります。職業として農業を選んでいる以上は、なにかしら農業に対するモチベーションや選んだ理由があるはずです。スタッフやお客様に伝わりやすく、そのためにどんな行動をとればいいか分かるような言葉を選びましょう。
「お客様に喜んでもらいたいから」、「一次産業や社会に対して貢献したいから」、「畑仕事が好きだから」。人によって様々な言葉が出てくると思います。言語化できたらスタッフに共有しましょう。もしもスタッフが同じ価値観であれば話は早いです。逆に価値観がちがっても、会社の価値観をスタッフに理解してもらうことは、農園全体のパフォーマンスを上げるために大切なことです。
ミーティングはコンパクトに
できるだけ毎週ミーティングをするようにしています。時間は30分に留め、午前の作業の段取り後や、休憩時間に行っています。天気がいい農作業日和にダラダラとミーティングをするのはナンセンスです。
コミュニケーションは必要だけれど、無駄な時間を使う余裕はありません。あらかじめアジェンダを決めておき、ミーティングでは情報共有までに留めて、判断が必要な内容は人数を絞ってミーティングを改めるやり方をしてきました。
具体的には「KPT」というフレームワークを使って一週間を振り返ることに時間を割いてきました。「KPT」とは、「キープ、プロブレム、トライ」の頭文字を並べたもので、一週間の業務で良かったこと、悪かったこと、今後のアクションを見直すフレームワークです。また、ミーティング時にはできるだけ改善案を考えてきて発表してもらうことも促しています。
面談でスタッフとの信頼関係を固める
面談は3ヶ月に1回か半年に1回、一人当たり約30分行っています。毎日一緒に仕事をして会話しているものの、日常業務の中ではスタッフ一人ひとりが今何を求めているか、将来どんな風になっていたいかなどは汲み取りきれないところがありました。
基本的に面談は阿部と私とスタッフの3人で行い、私は聞き役に徹します。時々、阿部とは違う目線でフィードバックを差し込むようにしています。スタッフ自身が自分の気持ちを言語化できていない場合は、労働条件や労働環境に対してアンケートを作り、答えてもらうような工夫もしています。面談ではスタッフの希望や不満を聞くことで信頼関係をより固めていきました。
佐川友彦(さがわ・ともひこ)/ファームサイド株式会社代表取締役、阿部梨園マネージャー◎東京大学農学部、同修士卒。外資メーカーDuPont社の研究開発職を経て、2014年9月より阿部梨園に参画。同園では代表阿部の右腕業を務める。阿部梨園の改善実例300件を公開するクラウドファンディングを実施し、300人以上から約450万円の支援を集めて話題を呼ぶ。その成果はオンラインメディア「阿部梨園の知恵袋|農家の小さな改善実例300」として無料公開されている。その後、ファームサイド株式会社を起業。2020年9月、ダイヤモンド社より『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』を出版。(インタビュー:坊野美絵)