フィードを⾃分好みにする

1
2
3
4
5
6
menu
Pull to refresh
2021.07.07

東京農大の専門家が語った!「農業女子」が地方活性化のカギだ!その理由

東京農大の専門家が語った!「農業女子」が地方活性化のカギだ!その理由

北海道北東部、オホーツク海沿岸に位置する網走市。流氷と刑務所のイメージで知られますが、実はビール大麦をはじめ、豆類やビート(てん菜)などの広大な畑が広がる農村地帯です。農家の9割以上が専業農家で、大規模経営が中心だという網走について、東京農業大学の小川繁幸先生は「日本の農業のこれからを象徴する場所」だとして、日本の農業の現状を打破するには、女性の活躍が不可欠だと話します。


ポイント
・開拓の歴史がある北海道
・女性は農家のサポート役
・農村のユニバーサルデザイン


開拓の歴史がある北海道での女性の立場


東京農大は2016年から、農林水産省が推進している「農業女子プロジェクト」に参加しています。「農業」が、若い女性が就職するときの選択肢のひとつになってほしいという思いで、未来の農業女子を育成するためのチーム“はぐくみ”を結成し、「kawaii(カワイイ)」をテーマにした女性らしいワークスタイルをアパレル企業と一緒に考えています。

ふだん私が勤務している農大のオホーツクキャンパスは網走にあります。赴任以来、農家の女性に話を伺う機会が多いのですが、当初、北海道は開拓の歴史があるので、女性も貴重な働き手として、精神的・経済的にも自立している人が多いと思っていました。ところが実際は、本州と変わらないのです。これは意外でした。

オホーツク海に面した網走の能取(のとろ)岬。数々の映画やCMのロケ地としても知られる

労働負担は増えているのに…

 

北海道庁が2013年に全道1000人の女性農家を対象に、女性の地位や社会参画の実態を調べた調査があります(平成25年度農業・農村における女性の社会参画実態調査/一般社団法人北海道総合研究調査会)。

それを見ると、女性の農繁期の農作業時間は9時間以上が66.3%、このうち11時間以上と半日近く働いている人は34.6%にのぼります。農作業とは別に家事の作業時間も半数近くが3〜5時間と、農繁期の女性は農作業と家事に半日近く費やしているという実態が浮かびました。

平成25(2013)年度 農業・農村における女性の社会参画実態調査結果より抜粋
平成25(2013)年度 農業・農村における女性の社会参画実態調査結果より抜粋

時間の長さだけみても、男性と変わらない戦力にもかかわらず、営農計画づくりや、資金の借り入れなどといった経営面で、主体的に意見を述べることができている女性は、過去20年間に3度行った調査結果を通して、2割弱にとどまっています。これでは、経営に積極的にかかわろうという意欲も削がれてしまいます。

背景には、生産効率を高めるために急速に進めた機械化があると思います。男性の役割は、大型農機具の操縦、女性は男性のサポート役に徹している限り、なかなかこの構造は打破できません。

ここ網走でも、農家の人口は1622人。このうち男性は816人、女性が806人と、数の上では対等です。でも広い北海道では、隣家との距離が何百メートル離れていることも珍しくないことから、女性同士でおしゃべりしながら、不満を言い合ったりして、ストレス発散できる寄り合いのような機会を持つことが難しいのです。

そこで、意図的に交流できる場所を作ろうと、社会人を対象にした「オホーツクものづくり・ビジネス地域創生塾」という講座を開きました。

網走は、農業と豊かな水産資源が共存する第一次産業の原料供給地ですが、その反面、加工分野が弱いのです。


地域ブランドと女性リーダーの誕生


そこで地元で生産した野菜や果物、酪農品などを使った「オホーツクブランド」の食品開発をめざすと同時に、地場産業の活性化とリーダー人材を育てようと、2010年から5年間続けました。当初予定していた人材育成目標数から約2倍の総勢89人がカリキュラムを修了し、その後も網走市と連携を続けて展開し、計120名以上の修了生を道内外に輩出しました。

「オホーツクものづくり・ビジネス地域創生塾」を担当した小川先生(右から2人目)と修了生の津村千恵さん(本人提供)

第4期の修了生のひとり、津村千恵さんは、オホーツク産小麦100%を使った商品開発を目標に、ブランディングについて徹底的に学びながら、首都圏への販路開拓を進めてきました。その結果、誕生したのが株式会社ツムラの「生ひやむぎ」です。

津村製麺所のルーツである讃岐うどんのコシを生かしたモチモチした食感と、つるっとしたのどごしは、道内外の小売店や百貨店からも注目されていて、2013年には「東京ビジネスサミット」の食の部門で優秀賞を受賞、2015年には伊ミラノ万博にも出品を果たしました。地元のJAや農業生産者とも連携して、今やオホーツク地域の6次産業化を推進する中心的な存在となっています。

ものづくり塾で学んだ女性たちは、商品が直売所や道の駅などで売れていくのを見て、自信を強めました。もともと女性はものづくりやコミュニケーション能力に長けていますし、人気が出れば「もっと良いものを作りたい」という意欲が湧いてきます。

一歩、家の外の世界に出ることで、夫や家族が知らない6次産業化に関する知識や経験に触れ、学ぶことができます。同じ思いを持った女性が結束すると、経営者としての自覚も強まるのです。それまで黙って見ていた夫も、妻の活動を認めて、新たに加工施設をつくる計画にGOサインを出すようになるのです。

ものづくり塾での指導を通じて、女性はひとりずつだと行動に移すまで慎重ですが、仲間が増えて集団化すると、爆発的に加速する傾向があると感じました。その動機付けになるのは、「楽しい」という価値観です。

ミラノ万博では北海道を代表する食として出品。パスタの国のイタリア人にも好評だった(津村千恵さん提供)

女性とものづくり


前回の記事でも書きましたが、地方創生のカギを握るのは、農村を支える農業従事者がどんなに魅力的かアピールすることです。そのためには農作業のときだってオシャレには手を抜かず、お化粧だってして欲しいもの。

さらに、農園という場所そのものが魅力的な空間であることを伝えるための演出も必要です。ヨーロッパでは農村に避暑地やバカンスの場としての役割があります。生活環境に「リンゴの木がないと寂しい」という理由で植樹する人もいますから、花や小麦などの景観作物を植えて、都会から来る人を癒すのです。

RURAL STYLE Collection/撮影:MASA HAMANOI

2020年秋に北見市留辺蘂(るべしべ)町の丘で、田園や農村をテーマにしたイベントを企画しましたが、それに続いて今度は、白花豆の畑のなかで、農家と一緒に食事を楽しむディナーを考えています。農産物を提供している農家も目の前で作物が調理されて、喜ばれるようすを見るのは大きな刺激になりますし、やりがいにつながります。

このディナーでは、農家自身が農業の多様性を実感することが重要です。これまで田んぼや畑は、作物を生産する“場”でした。それゆえ、よそ者が自分たちの経営圃場にやってくることは、田畑を荒らしたり、病害虫が持ち込まれるリスクがあるため、農家自身がよその世界との交流を避けてきた傾向があるのです。

しかし、私にとって圃場は、単に作物を生産する場ではなく、素敵な景観を提供してくれる場だったり、農村文化を保持するための場なのです。農家には仕事場でしかない圃場が、都会からやってくる人にとっては、田園風景やスローライフの象徴の場所であることを、これからの農家は意識するべきだと思います。

これまでよそ者が足を踏み入れられなかった圃場に、あえて人を招き入れる……。こうした交流を通じて、農家は自分が育てた作物が、ほかの人にとってどんなに魅力的であるかを再発見することになります。その結果、自分たちが行なっている農業は、作物を生産するだけの仕事ではなく、農村の景観や文化を維持するステキな素敵な仕事だと実感ようになります。

「農業はステキな仕事だよね」「みんなで一緒に農業しようよ!」そんなセリフが、農家自身から自然に発せられるから世界をつくっていくことが、これからの農業において重要なのではないでしょうか? 私はそれをめざします。

ひとり一人が活躍できる社会


最後に、女性とともにおじいちゃんやおばあちゃんたちの活躍についてお話ししします。現役を引退したといっても、彼らは農家ですから、土いじりはお手のもの。ガンコものの老人が、昔ながらの作り方にこだわった作物は、きっと一流料理人にも支持されるはず。何より、核家族化が進んでいる都会の人間にとって、おじいちゃん、おばあちゃんたちは、可愛くてほっこりできる存在なのです

さあ、そうなればもうゲートボールなんかしてられません! 田舎にいる人材をフル活用できるようになるのですから!

かつての農村は、子供から女性、お年寄りや障がいを持つ人まで、ひとりひとりに役割がありました。私は新潟県の葉タバコ農家に生まれ育ちましたが、祖母が箸を使って苗を植えたポットを、祖父が並べる作業をよく覚えています。

現代社会では、組織全体が高いパフォーマンスを発揮するために、効率化を優先して、組織に適合できない人は排除されてしまいがちです。

私は、年齢や性別、能力、国籍、障がいの有無や度合いにかかわらず、どんな人でも自立して活躍できる場所が農村だと考えています。そして自然の癒しを受けながら、人が人らしく暮らせる共同体として、農村のユニバーサルデザインを実現することが、農業が抱えるさまざまな問題の解決につながると思っているのです。

 

小川 繁幸(おがわ・しげゆき)/東京農業大学生物産業学部自然資源経営学科准教授。1982年新潟県で生まれ、兼業農家で育つ。農林水産業のコンサルティングなど民間企業を経て、2013年に同大学の博士研究員、翌14年同大学同学部地域産業経営学科助教に就任。オホーツクを拠点に全国各地の農林漁業地域の活性化に向けて飛び回る。

Loading...