農業の高齢化問題を「特定技能1号」が支える
日本の農業はいまや深刻な高齢化の問題を抱えています。
農林水産省の発表によると、2010年の基幹的農業従事者(農業を主な仕事とする者)は約205万1000人でした。しかし、10年後の2020年には136万3000人まで減少。平均年齢は67.8歳に上昇しています。
また、地元で労働力を提供している方々──いわゆる農家の「お手伝いさん」と言われる人たちも、70歳を超えた方々ばかりです。つまり5年後にはそのお手伝いさんたちにも頼れなくなるかもしれません。
そのような場合の最適な担い手として考えられるのが、外国人の「特定技能1号」だと私は考えます。国も『食料・農業・農村白書』(2019年度)において、「外国人材を受け入れることは農業の生産基盤を維持・強化する上で不可欠」と表明しています。
実際の数字も顕著です。2019年の農業分野で働く外国人の総数は約3万5000人。このうち3万1900人が技能実習生です。
その翌年、農林水産省は農業分野における「特定技能1号」の受け入れ見込み数(5年間の最大値)も3万6500人に決定しました。現在の3万5000人の外国人農業従事者を、特定技能を持つ外国人に変えることが必須だと、国は考えているのでしょう。
農業人口の高齢化とともに、耕作放棄地の増加も問題となっています。しかし、無理やり広げた農地というのは土壌があまり良くないので、耕作放棄地になって自然に枯れてしまっても仕方ないかもしれません。
一方で、もともと作付けができていた豊穣な土地ではどうか。例えば北海道の帯広地域は土壌が良くて作物が育ちやすいのですが、その一帯には耕作放棄地は少ない。良い農地は、力のある農家が吸収しているのだそうです。
企業形態をとっていて後継ぎもいる優秀な農家は、これからどんどん大きくなっていくでしょう。その成長過程において、弊社のようなサービス企業をうまく使って発展してくだされば、これほど嬉しいことはありません。
求められ、必要とされることが、生きる活力になる
YUIMEは外国人だけでなく、前回に書いたような「全国を旅しながら働きたい」日本人の農業スキルの向上にも取り組んでいます。
派遣の方であれば、最初のステップとして正社員になることを勧めます。
正社員になって1年後には、各種免許の取得を提案します。トラクターを運転できたり重機を扱えたりすると、給料が上がるからです。
その次に、現場のマネジメントを教えます。最後は、エリアマネージャーとして北海道全域を見るとか、複数の農家さんを担当するなどしてもらいます。
ただし、そういう上昇志向がある人は、全体の1割くらいです。5割は途中で離れていき、残りの4割は「派遣で生きていくけれど、農業にはこだわっていない」という人たち。だからこそ、上昇志向のある1割をきちんと育成し、ステップアップしてもらうことが大事なのです。
我々がよく言うのは、「一生ずっと転々とはできない。どこかの地域にいずれ定住した方がいいよ」ということ。弊社の支店を立ち上げてもいい。スキルを得たあとで自ら農業をやりたいのであれば、大農家の資源を借りてあげたり、資金も用立てしたりして、バックアップします。
YUIMEの事業は人材支援がメインですが、将来的には総合サービスを提供する企業でありたいと思っています。
おかげさまで、現在の社員数は約220名。そのうち外国人が約140名です。(2021年7月現在)また、クライアント数も、ほぼ毎週契約が取れていて伸びています。あらためて「時代の流れが後押しするビジネスというのは、とてつもないパワーを発揮する」ということを実感しています。
第6話でもお話しましたが、私は以前、飲食店を経営していたことがありました。そのときは、努力と前進がまったく噛み合わなかった。
しかし2012年、ITと農業に特化した人材派遣会社「エイブリッジ」を起業し、だいぶ遅咲きだったけれど、世の中のエネルギーが後ろから少しだけ押してくれる感覚をもったのです。
そして今回はというと、雪崩のように事が進んでいる。自分自身は同じことを同じ努力で試みているだけなのですが、今回ばかりはどんどん前に押し出されていく。
高度経済成長の時代はきっとこんな感じで、何をやっても世の中が押し上げてくれたのではないでしょうか。
そのような風向きはひしひしと伝わるらしく、社員全員がイキイキと働いてくれています。社会に、時代に、求められているという実感があるのでしょう。給料やポジションも大きなモチベーションになるけれど、結局は誰かから求められたり必要とされたりすることが、生きる活力になるのだなと感じます。
日本の新しい「価値あるもの」とは?
私は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた時代に、アメリカにいました。帰国して30年くらい経ちますが、その間、日本の産業はどんどん停滞・衰退しています。日本はもう一度、価値あるものをつくれるのか? それをずっと考える30年でした。
現在、自動車産業はまだ競争力を維持していますが、家電業界があっという間に衰退したように「自動車業界はまもなく沈没する」と発言する識者もいます。
教育レベルも、世界基準からするとそれほど高くない。2021年の世界大学ランキングによれば、東京大学は36位、京都大学は54位です(ちなみに1位は英オックスフォード大学で、2~5位は米国の大学です)。所得水準も先進国から脱落しそうなレベルにまで落ちてしまった。
しかし、「食」はまだ可能性があります。例えば、日本には驚くほど美味しい果物がある。世界のどんな高級なホテルでも、日本の高級メロンほど甘いメロンを提供してはくれません。ぶどうも然り。桃も然り。日本人が果物でつくり出す品の良い「甘さ」は、世界中の人たちにも熱狂的に受け入れられると思います。
宮崎県新富町の「地域商社こゆ財団」は1粒1,000円のライチを売っていますが、即完売するそうです。本当に美味しければ、買える人は買う、という証明のようなお話です。
ミャンマー、ベトナム、台湾、ドバイなどに商用で行くことがありますが、アジアや中東の富裕層というのはとんでもなくお金を持っています。一点豪華主義ではなく、すべてが高級品。ということは、好きなものや価値があると認めたものにはお金を使ってくれるということ。
なかでも「食」は最高の贅沢であり、かつ絶対に毎日必要なものでもあります。「食べ方」も含めて、日本は「食」で存在価値を世界にアピールできるのではないでしょうか。
2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
加えて、日本の食材は味や見た目だけでなく、「安心・安全」も売りになっている。戦略さえきちんと立てれば、アジアや中東の富裕層にも売れる商材になり得ます。そういう世界の視点から、日本食材の可能性を考えていきたいです。(構成=堀香織)
<了>