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Editor’s Eyes トマトの大敵コナジラミ 農薬使わず振動で防除し受粉促進 一石二鳥の技術を発明!

Editor’s Eyes トマトの大敵コナジラミ 農薬使わず振動で防除し受粉促進 一石二鳥の技術を発明!

トマトやミニトマトは近年、色とりどりのさまざまな品種が登場して、消費者にも生産者にも人気の作物です。

現在のように年間を通して生産量が安定したのは、ビニールハウスやガラス温室などの施設栽培のおかげですが、その一方で気が抜けないのが害虫対策です。

電気通信大学や森林総合研究所などの共同研究チームは2022年、化学農薬を使わずにコナジラミ類を防除する技術を発表しました。

磁場の変化によって振動する装置を使ったこの技術は、害虫防除だけでなく、トマトの受粉率が向上する可能性があるというダブルの効果でも注目されています。一体どんな技術なのでしょうか?

この記事のポイント
・昆虫は振動に弱い?
・300ヘルツと30ヘルツの振動を発生
・コナジラミの幼虫が半減!
・農薬が効かないコナジラミの対策も
・振動で受粉できる効果も

昆虫は振動に弱い?

皆さんは子供の頃に、木を蹴って落ちてくるクワガタやカブトムシを採った経験はないでしょうか?

これは昆虫が鳥や小動物から身を守るための習性で、外敵が木に止まった時の振動を感知すると、危険を察知してその場を回避する行動のひとつです。研究チームは、この習性を利用して、農薬に頼らずに害虫を防除できないか技術開発を進めてきました。

JA全農展示圃場の試験栽培のようす/森林総合研究所提供
JA全農展示圃場の試験栽培のようす/森林総合研究所提供

300ヘルツと30ヘルツの振動を発生

研究チームは、宮城県の東北特殊鋼株式会社が開発した「磁歪クラッド材」という特殊金属に注目。これは、電流を流すことで生まれる磁場の変化によって、伸びたり縮んだりする性質がある特殊な金属で、これを使って振動発生装置を開発しました。

実験では、300Hz(ヘルツ)と、30Hzの振動をそれぞれ一定間隔で発生させる実験を行いました。(1ヘルツは1秒間に1回の振動)

実験は、農業用ハウス内の天井近くに張りめぐらせたパイプに、異なる周波数の振動発生装置を取り付け、さらにパイプから吊り下げた金属ワイヤーにトマトの苗をつなげて振動が伝わるようにしました。

森林総合研究所
振動装置を設置したトマト株の模式図。振動がトマトの苗に伝わって、コナジラミ類に作用し、密度を低減させる/森林総合研究所提供

コナジラミの幼虫が半減!

宮城県農業・園芸総合研究所の栽培施設で2018年夏に4週間にわたって実験を行った結果、周波数300Hzと30Hzの振動を与えたどちらの株でも、何も振動させなかった株に比べて、トマトの葉の表面に寄生したオンシツコナジラミの幼虫が減ることがわかりました。特に周波数が高い300Hzの方では、幼虫の数が平均で半数程度に減少しました。

研究チームは琉球大学、兵庫県立農林水産技術総合センター、神奈川県農業技術センターでも同じ条件で実験を行いましたが、オンシツコナジラミだけでなく、タバココナジラミでも効果が確認されました。

研究チームの一人で、応用昆虫学を専門とする森林研究・整備機構森林総合研究所東北支所の高梨琢磨チーム長は、「コナジラミは、振動を使ってお互いにコミュニケーションをします。また他からの振動をキャッチして、外敵から逃れます。この習性を逆手にとって、装置から振動を与えて、コナジラミの生殖行動を邪魔したり、振動が発生する場所に居続けにくくしたりすることを狙っています。振動によって、繁殖が抑えられて、生息数の減少が期待できるのです」と話しています。

森林総合研究所提供
                                            森林総合研究所提供

農薬が効かないコナジラミの対策も

オンシツコナジラミやタバココナジラミなどのコナジラミ類は、トマトだけでなく、ナスやキュウリ、メロンやサツマイモなど、さまざまな果樹にも被害を及ぼす病害虫です。

野外でも発生しますが、特に暖かなハウス内では冬でも増殖し、さらに最近では各種農薬が効きにくくなる抵抗性が問題になっています。

コナジラミ類の寄生によって、退色や生育障害などといった品質低下をまねくほか、排泄物(甘露)によって、トマトすす病が発生するリスクも高まります。特にタバココナジラミは トマトに致命的な被害を与える「トマト黄化葉巻病」を引き起こすウイルスを媒介することから、1日も早く効果的な防除法が待たれているのです。

振動で受粉ができる効果も

トマトは開花期を迎えると、雄しべの花粉を雌しべの先につけて受粉させます。露地ものの場合は虫や風が受粉させてくれますが、施設栽培の場合は、生産者が「トマトトーン」などのホルモン剤の塗布によって人工受粉させたり、ハチなどの受粉昆虫を放して、振動によって受粉を促進させるのが一般的です。

しかし、これまでトマトの受粉に使われてきたセイヨウオオマルハナバチが法律で特定外来生物に指定されたことから、在来種のマルハナバチへの転換が急速に進められています。

また近年、世界各地でミツバチが激減する蜂群崩壊症候群が問題視されていることから、高梨さんら研究チームは害虫防除だけでなく、振動による受粉促進の効果も期待できないかと考えました。

そこで、トマトの花を大きく揺らしやすい周波数30Hzの振動を連続60秒、毎日2回繰り返した結果、振動を与えなかった場合に比べて、着果数が多くなる効果も確認されました。ただし、受粉促進のための周波数や時間については、研究によって今後さらに検討が必要ということです。

着果促進の効果は、植物ホルモン剤のみを利用した時よりも多く、その反面、草丈や茎の太さなどの成長には影響を及ぼさなかったと言います。

研究チームはすでに宮城県内の5軒の農家のハウスに振動発生装置を取り付けてもらうモニタリング調査を行なっています。2023年度はさらに有償モニタリング調査を行う予定ですが、ビニールハウスの建て方や、トマトの苗の仕立て方は生産者によってさまざまに異なるため、開発を担当する東北特殊鋼株式会社が、最も効果的な装置の設置方法や価格帯について検討を続ける方針です。

高梨琢磨チーム長によると「化学農薬は、環境負荷があるうえ、薬剤が効きにくくなる抵抗性の問題があります。振動による害虫防除技術は、その解決策のひとつとなり、粘着板や防虫ネットなどと組み合わせることで、環境保全となる安定的な農業生産の実現が期待できます」として、この研究成果を応用して、今後はトマト以外の野菜をはじめ、モモなどの果樹にくわえて、シイタケなどのキノコの害虫を対象にした技術開発を研究チームで進めていきたいと話しています。

トマタブルの試作機 宮城県農業・園芸総合研究所提供
「トマタブル」の試作機 宮城県農業・園芸総合研究所提供
トマトのコナジラミ類を防除する振動発生装置「トマタブル(仮)」は、東北特殊鋼株式会社から2028年度を目標に製品化される見通しです。



この研究に参加したチーム
電気通信大学、森林総合研究所、宮城県農業・園芸総合研究所、九州大学、東北特殊鋼株式会社、兵庫県立農林水産技術総合センター、神奈川県農業技術センター、琉球大学などの振動農業技術コンソーシアム

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