売上3,000万円を超える「スター農家」を多数プロデュースするクロスエイジの藤野直人さん。スター農家が増えれば、農業に対するイメージもアップすると説く彼が唱える「農業経営の方程式」は、多くの農家が知らない基本中の基本。今回の連載では、この方程式をもとに、6次産業化に挑むタイミングや災害に負けない体制づくりを教えます。答えは生産現場にあり!
ポイント
・改善のヒントは生産現場にあり
・安易に農地を広げるな
・欠品を出さない覚悟を持て
どうも、農業総合プロデューサーの藤野です。
今回もさっそくまいりましょう! 今回の「スター農家理論」は「生産現場に立ち返れ!」編です。
儲けの源は畑にあり!
今回お伝えする理論は、
・「農業経営の方程式」理論
・「収益1億超えたら6次化へ」理論
・「発電機の調達」理論の3つです。順を追って説明しましょう!
1.利益の最大化を狙うには「農業経営の方程式」理論
農業経営の方程式はズバリ、
単収×単価×面積-(人件費+減価償却費+その他経費)=利益です。
スローガンは魅力的だが……?
したがって、次のようなスローガンは簡単に信用できません。
「少量多品目で消費者直販、やりがいのある農業を!」
⇒少量多品目でやると収穫量は上がりませんし、生産者が消費者に作物を直接送るB to C方式は手間暇(人件費含めたコスト)がかかりすぎるのでアウト!
「安全安心な有機農産物を普及させよう」
⇒有機農業は、収穫量が低くて人件費がかかるわりに、単価が見合いません。
「これからの農業は、大規模に植物工場に設備投資!」
⇒植物工場は、理論値どおりに収穫できても、売り先が見つかりにくいので、単価を維持できないリスクがあります。
「理念・ビジョンを掲げて、研修生がたくさん集まる農場に」
⇒独立したい研修生が集まる農場もいいのですが、社員としての人材をきちんと育成・定着させることができないと、ひとり当たりの生産性・収益性は向上しません。
「6次化で、付加価値を高めて、百貨店や高品質スーパーに」
⇒6次産業化に挑戦すると言って、加工品を作ってみても、食品メーカーには勝てません。地元の地産地消の売り場に置かれるだけです。
「攻めの農業で、これからは海外輸出に取り組もう」
⇒消費者のこだわりが強く、所得も高く、物流的にも無理がないのは国内マーケットです。海外はまだまだ茨(いばら)の道です。
もちろん、戦略的なストーリーがあれば挑戦するのもいいでしょう。
「少量多品目」「消費者直結」「有機農業」「植物工場」「研修生がたくさん集まる」「6次産業化」「海外輸出」を事業のポイントとしつつ、全体の整合性やつじつまが合っていればいいのです。
ただ言えることは、ほぼ全ての要素に「生産現場」が強く関わっているということです。
収穫量を増やして、さらに優良品質のA品をどのくらい作れるか?(=A品率)、そして美味しさの追求……。さらに商品価格に直接結びつく人件費をどれくらい押さえられるかについても見直す必要があります。
人件費ひとつとっても、生産現場での効率的な人のやりくりをはじめ、選別・選果工程についても考えなければなりません。(連載第4回へ)
また、農機具や倉庫など使用年数を重ねるうちに価値が減っていく減価償却資産への適切な投資など、すべてが「生産現場」に起因しています。利益を最大に高めるための答えは、「生産現場」にあるのです!
2.しっかりとした土台構築、「収益1億超えたら6次産業化」理論
3億円をめざすスター農家の場合、どのタイミングで6次化を視野に入れるべきでしょうか?私が考える基準は収益が1億円に達したときです。
これは、仕入れや6次産業化にかかわるコスト抜きで、純粋に自社生産だけで1億円を超えたタイミングです。その時点に到達したら農地面積は現状を維持したまま1次加工品の企画に取り組んだり、消費者に手にとってもらうためのパッケージデザインやギフト商品の開発に取り組むことにします。
上をめざすための農地拡大は慎重に
収益が1億円に到達したんだから、さらに上をめざすために農地を広げようと考える人もいるでしょう。
農地が今の3倍になれば、年収3億円だって夢じゃないのでは?……いいえ、私の考えはそうではありません。農地面積が広がることで災害に遭ったときのリスクも大きくなります。また、生産性が下がったり、栽培作物の成熟化・衰退化につながるおそれなどがあるため、圃場の拡大には慎重になるべきだと思います。
着手すべきは、あくまでも1次加工品の開発です。例えばネギ農家ならカットネギ、さつまいも農家なら焼き芋にして冷凍出荷、長芋農家ならとろろ芋にして朝ごはんセットを開発、いちご農家なら冷凍いちごやロールケーキ、エスニック野菜ならば、パクチーのスパイスやペーストを作る、などといった風に取り組んでいく方が、勝算があります。
……というよりも現実問題として生産額が1億規模に達すると、生産しているだけでは飽き足らなくなる農家も多いのです。
ライバルは誰? 農家の強みを生かせ
「6次産業化する場合の基準が、どうして1億円なのか?」というと、競合相手(ライバル)を食品メーカーと見なした場合、農家の強みはどこにあるのかを考えてみると良いと思います。
販路を地産地消ではなくて、広域展開にした場合、農家がアピールする強みは「農業生産(品種・気候風土・人のストーリー)」しかないからです。
その中心軸にある「農業生産」の収益が、数百万円や数千万円規模ならば、たいした強みにはならないのではないでしょうか。
逆に1億円規模の農家であれば、本格的に設備投資したうえ、商品開発の専門家をコンサルタントに迎え入れることも可能です。収益1億円の農産物を販売してきた知識と経験でマーケティングにのぞめば、高い確率で成功できるはず。
これに成功したら、あなたも3億円のスター農家の仲間入りです!
私の顧客のネギ農家は、収益1億3000万円規模に達したときから、カットネギの加工販売に着手し、現在は5億円を超える規模にまで成長していますが、農地面積は10~15ヘクタールで収益1.3億円のときと変わりません。
まあ、構想を練ったり、施設を建てる際の補助金の申請などに1~3年かかりますから、収益が5,000万円くらいを超えたら、ぼちぼち考え始めてもいいかな、と思います。
3.生産現場への信頼を築く覚悟、「発電機調達」理論
生産現場に対する信頼を築くための「覚悟」についての話をします。
農家として、5,000万・1億・3億を超えていくためには、次のふたつの覚悟が大事だと考えています。
①みずから目標を作りだす覚悟
②天候や災害のせいにしない覚悟
①は、生産現場に直接は関係しないので、今回は省略します(笑)。
次の「天候や災害のせいにしない覚悟」についてですが、農業界で高い業績を継続している経営体は、とにかく欠品しません。「時期的に今は品質が……」とか「猛暑だから……」などと気象条件を言い訳にしないのです、
農家の気合と根性がわかるエピソードをご紹介します。野菜の生産からカット加工まで手がけている、ある農業法人では、多少の豪雨で畑がダメになったりしません!……というのも、自宅から1時間以内にある水はけのよい農地をふだんから選ぶ努力をしているからです。さらに、技能実習生が住み込みで働いているので、トラブルが起きてもすぐ対応できる作業体制を築いています。
それでも2017年7月に発生した九州北部豪雨では、加工工場がある地域一帯が停電になりました。野菜をカットするための機械を稼働させられません。経営者は、建設会社に掛け合って発電機を調達し、一晩かけて野菜のカットを続けました。これで欠品は避けられました。
災害にあっても、できる限り力を尽くす。経営者の覚悟が働く人にも伝わった結果、組織の一人ひとりが責任感を持って働き組織、強い生産現場が作られていくのだと思います。
停電下で発電機を調達してでも、生産現場としての責任を果たす覚悟を持ってほしいという思いを込めて「発電機調達」理論と名づけました!
以上で、第5回は終了です。
やっぱり農家の本分は農業生産なんですよね。収穫量増加は当然のこと、A品率の向上、品質アップで単価もアップ、上手な人使いや設備投資で人件費削減など、生産現場にこそ「儲かりポイント」は落ちている……私はそう思っています。え? 販路開拓が難しい? そんなの生産現場でたくさんの差別化が施されていれば、本当は簡単なんですよ(笑)。
プロフィール
藤野直人(ふじの・なおと)/株式会社クロスエイジ代表取締役、農業総合プロデューサー◎「スター農家理論」とは、売上3,000万円を超える農家向けの農業経営理論。事業の成長と効率化を実現する「スター農家クラウド」サービス紹介サイトを公開中。