九州を拠点に、年間売上3000万円以上稼ぐ農家を、多数プロデュースしてきたクロスエイジの藤野直人さん。「スター農家」が増えることが、農家の地位と、農業の価値を高め、魅力的な産業に変えると説く「スター農家理論」の連載第1回。
ポイント
・日ごろから販路を分散してリスク対応
・規模を拡大しつつ、農地エリアを分散
・選果・選別工程への設備投資
どうも、農業総合プロデューサーの藤野直人です。
農家が自立して稼ぐことができるスター農家を創出し、農業を魅力ある産業にすべく、流通、商品、生産者の3つの側面からプロデュースを行なっています!
初回の記事ですが、さっそくまいりましょう!「スター農家理論」の第1回は「予期せぬリスクに負けない農業経営」編です!
勘と経験と度胸はNO!
今回お伝えする理論は、
・「3:3:3:1」理論
・「1時間通勤」理論
・「機械に投資」理論の3つです。順番に説明していきます。
1.販路の構成を最適化「3:3:3:1」理論
帝国データバンク社の「新型コロナウィルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」によりますと、業績にマイナスの影響があると答えた業界で農業は第5位です。そして、プラスの影響があると答えた業界の第3位でもあります。
要するに、農家によって明暗が分かれているという状態です。これは、「販路(顧客)」によるものだと想定できます。つまり、スーパーやネット販売は伸びている一方で、飲食店やホテルは苦戦しています。何の作物を作り、どこに販売していたかによって、差が出てきているのです。
農家の場合、作っている作物を簡単に変えることはできません。ただし、販路(顧客)の構成を変えることができます。そこで「3:3:3:1」理論です。
農家にとって理想的な割合とは、大口取引先30%、展示会出展や引き合い対応の小口取引先30%、生産現場を理解している仲卸や商社といった販売パートナー30%、その他出荷調整10%という考え方です。
販路の構成を上記の割合に分散させつつ、さらに「業種・業態」を分散させたり、「エリア」を分散させたりしておきます。
そうすることで、「顧客が原料を海外産に切り替えた」「外食が緊急事態宣言で閉鎖」「豪雨で国道が通れない」といった不測の事態が生じても、売上減少のリスクは最小限に抑えられるか、売上回復のスピードアップが期待できます。
2.よそに進出してリスク分散…「1時間通勤」理論
コロナ禍からは少しそれますが、近年、台風や集中豪雨が多発しています。私の会社は福岡県にありますが、北部九州エリアでは数十年に1度という災害が、過去3年で5回も起きています。
一方で、雨が降らないとなればとことん降らない干ばつ状態もあります。
では、どうするのかというと、雨にも浸からなくて、水にも困らない、そんな条件の農地があるのであれば、通勤に1時間かかるとしても、そのエリアに進出するべきだと思います。
もちろん、自宅や本社の近くで農地が集約していて、1区画が大きな場所が理想です。ただし、規模拡大を進めていくのであれば、同じ場所で拡大し続けるのは昨今の気象状況ではリスク拡大につながります。
親子でエリアを分ける、農場長を育ててエリア毎に任せる、独立支援制度を作って違うエリアで同じ品目を作り、販売を一元化する……など、やり方はいろいろありますが、収穫量が減少しないように、中長期的な視点で取り組むことが大切です。
3.労働人口の減少…「機械に投資」理論
農家の組織作りを考えた場合に、当然のことながら人の採用や配置、評価制度策定、教育が重要になります。ただ、人を雇うことはリスクにもつながります。
端的に言うと、
・日本人は辞める
・シルバー人材はあてにできない
・農福連携は作業ムラがある
……ということで、外国人技能実習生を組織作りの核にしているところが多いのが実態です。ところが、今回のコロナにより、海外人材も入国できなくなり、リスクが顕在化しました。なので、ぎりぎりまで機械化や設備投資による生産性の向上を考えるべきだと思います。
特に、収穫後のさつまいもの重量分け、収穫後のニラについている雑草や外葉をとる作業、出荷資材のシール貼りや袋詰めなどの選果・選別工程では、設備投資により生産性が向上した例が多数あります。
人材への投資を否定しているわけでも、何でもありません。ただ、現実問題として「人」を増やす前に、まずは「機械」に投資し、生産性を上げたうえで人を増やしていけば、人の問題に関わるリスクを減らしていけると思います。
以上で、第1回は終了です。初回ですので、「スター農家」や「農業総合プロデュースとは何か?」という説明や、自己紹介から始めようと思いましたが、コロナ禍ですので、今回のテーマに変えました(執筆時2021年2月)。
災害やコロナといった不確実性が多い現在は、これまでの勘・経験・度胸が通用しません。この状況を変化のチャンスととらえ、「組織で勝つ」これからの農業経営を目指していきましょう。
藤野直人(ふじの・なおと)/株式会社クロスエイジ代表取締役、農業総合プロデューサー◎「スター農家理論」とは、売上3,000万円を超える農家向けの農業経営理論。今春には、事業の成長と効率化を実現する「スター農家クラウド」サービス紹介サイトを公開中。