2023年5月、熊本で農業ウィークが開催されました。
東京では毎年行われていますが、九州上陸は初めてとあって注目を集めました。
九州農業ウィークの会場では、スマート農業系の企業やセミナーが人気でしたが、東さんが今回取り上げるスマート農機も個性的なアイテムばかり。
農機具のプロが選ぶ、ひと味もふた味も違うアイテムを今回もご紹介!
東さんがオススメするスマート農機
・両腕を上げっぱなしでも作業ラクラク!DAYDOの上腕アシストスーツ
・ラジコン草刈機の本領発揮は斜面だけにあらず!ゼノア ラジコン草刈機
・日本初!急傾斜地用モノレール 果樹や資材の運搬に最適 ニッカリのモノラック
農機具は“スマート”じゃないとね
こんにちは!農機具・農業資材の通販サイト「アグリズ」を運営している藤原農機の東(ひがし)直斗です。
和歌山県を拠点に、全国を対象にした「農機具の宅配レンタル」という一風変わったサービスを運営しているプロとして、毎回テーマに合わせた農機具をオススメしてきました。
今回は、農業界で近年話題の「スマート農業」を取り上げます!
そもそも、スマート農業って何?というところからおさらいしますと、農林水産省の定義では、「ロボット・AI・IoT(インターネットネットワークを通じてモノ同士で情報交換できる)など先端技術を活用する農業」を指しています。
一般的には、自動運転のトラクターやドローン、高精度のセンサーを使ったデータ計測機器などのイメージがありますが、農水省の「スマート農業技術カタログ」では、農作業の負担を軽減する技術についてもカバーしています。
2018年ごろから話題になり始めたので、私もおりに触れていろいろな製品を実演してきました。ただ、購入を検討しているお客さんからは、「最新機器を導入したいとは思うものの、ここまでオーバースペック(過剰機能)は必要ないし、そもそも値段が高くて手が出せないよ」と不満の声をよく聞きます。
確かに最先端の技術といっても、自分の畑で使えるかどうかは別問題です。しかし、そもそもの話ですが、農機具は“スマート”なモノだと私は思うのです。
農機具選びにおいて重要なポイントは、機械の技術が優れているかどうかではなく、生産者が現場環境をどのようにとらえていて、どう改善し、生産性・収益性を上げていくのか?という点だと思います。
とりわけここ数年で、農業分野では最新技術が次々に登場しているので、前述のお客さんのように、「結局、何を選んだらいいのかわからない」という悩みがありますよね。
今回の記事では、そういった悩みに着目して、さまざまな現場を見てきた農機具のプロがおすすめする“スマートな”農機具をご紹介していきます!なかには、「え?これがスマート農機具?」と驚かれるような、ローテクっぽいアイテムもありますが、これも現場にぴったりハマると、2度と手放せなくなりますよ!
両腕を上げっぱなしでも作業ラクラク!DAYDOの上腕アシストスーツ
はじめにご紹介したいのが、こちらのアシストスーツ「TASK(タスク)AR TypeS」です!この製品を開発・製造しているのは、大阪府にある株式会社ダイドーという住宅内・外装材や設備機器のメーカーです。住宅の収納設備やエクステリアなどに使われる技術を応用して、最近では農業機器の開発にも力を入れている企業です。
一般的にアシストスーツと聞くと、収穫物を入れたコンテナや荷物の持ち上げ作業を楽にしてくれるイメージがありますが、この「TASK ARシリーズ」は、果樹園などで上にあげたままの腕を下からサポートしてくれるタイプのアシストスーツなんです。
元々は、住宅設備の施工の際に、天井にビス打ちする作業現場で使われていた技術やアイデアを、農業分野でも活かせるのではないか?という考えからスタートした製品です。
各地の農作業現場で実際にモニター使用してもらって、そこで得られた意見をもとに製品を開発。改良を繰り返してバージョンアップと低価格化を実現させました。
…実は私、この製品の開発に少し関わらせていただいたことがあります。
和歌山県内の梅農家が、高枝ハサミを使って枝の剪定をするときに、TASK ARが使えるのではないかとモニターをしました。多くの梅農家さんから「下から腕を支えてくれる感覚に慣れるまで時間はかかったが、作業は非常に楽になった」という声が聞かれました。特に、ぶどう農家さんなど、ツルを誘引するための棚を作る作業など、腕を常に上げておかなければならない現場ほど、サポート効果が大きい傾向があると言います。
試しに、肘を曲げた状態で上腕を数分間持ち上げてみたらおわかりになると思いますが、腕を上げるだけでも大変なのに、そのうえ、道具や作物を持ちながらの作業となるとかなりの重労働であることがわかります。
1号機は当初、上位グレードのもので価格が40万円近くしましたが、その後、バージョンアップするごとに安くなりました。2023年現在は、使用目的と機能を絞って、税込12万9,800円と比較的お求めやすくなりました。
さらに、TASK ARシリーズは農水省の「スマート農業カタログ」にも掲載されており、各種の補助金を活用して導入することもできます。
ハイテクではありませんが、上腕を使う現場に1台置いておくと、作業負担が減って、確実に効率が上がるアイテムです。ダイドーさんでは大阪や東京でトライアル体験や、最大4日間のレンタル、訪問なども行っていますので、気になっている方はぜひ一度、相談してみてはいかがでしょうか。
TASK AR Type S/株式会社DAIDO
本体重量1.6kg(電力不要)
アシスト力 3.0kgf〜1.5kgf(重量キログラム)※つまみにより無段階調整可能
サイズ 腰回り寸法 上腕周り寸法(※肘から10cm肩側)
S 70〜80cm 〜30cm
M 80〜90cm 〜30cm
L 90〜100cm 30cm〜
LL 100〜110cm 30cm以上
アシスト上限角度調整 3段階(90°120° 150°)
装着時間 約1分
メーカー希望小売価格(税込)12万9,800円
▼製品に関する問い合わせについては製造販売元へ
株式会社ダイドー 0721-53-7201
メーカー公式
▼藤原農機「アグリズ」でのレンタル先
レンタル申し込み
ラジコン草刈機の本領発揮は斜面だけにあらず!ゼノア ラジコン草刈機
続いてご紹介したいのが、ゼノアの「ラジコン草刈機 WM510RC」です。ここ数年来、急激にラジコン草刈機に関する問い合わせをいただく機会が増えました。そのほとんどが「斜面の草刈りを楽にしたい」というご要望です。
読者の皆さんにはあらかじめ伝えておきますが、WM510RCは斜面専用の草刈機ではありません。想定しているのは、主に平地か、それに近いなだらかな地面です。
では、このラジコン草刈機の何が優れているのかというと、最初に驚かされるのは53万1,300円(税込)という破格の価格です。
通常、一般的なラジコン草刈機は安くても100万円以上します。河川敷などでよく見かけるタイプは、ほとんどが400万円ほどしますが、それに比べるとかなりの低価格で導入が可能です。
この価格差を決定づけるのは、それこそ「斜面刈り」の機能があるかどうかです。
100万円を超えるラジコン草刈機は、傾斜地の作業を想定してエンジンが大型だったり、クローラー(キャタピラ)を搭載していたりと、機能と設計面が価格に反映されています。
そのため、斜面での草刈りを目的に相談に来られるお客さまは、値段を聞いて諦めるケースがほとんど。でも、純粋に斜面だけを刈る目的ならば、ラジコンじゃなくても、クローラータイプの斜面専用機の方が適している場合もあるのです。
その点、ゼノアのWM510RCは、クローラーではなくタイヤ駆動で、平地に特化した設計です。
さらに、その場で旋回するゼロターンができるほか、車高も低いので果樹のまわりをグルッと草刈りできるなど、ラジコンタイプの他の草刈機とは異なる趣向で開発されています。
なかでも、ラジコン草刈機の最大のメリットは「遠隔操作」ができること。炎天下に歩くことなく、日陰から操作できるので熱中症のリスクも軽減できます。
この機種も、スマート農業カタログに掲載されていますので、補助金などが活用しやすいのも魅力的ですよね。
ラジコン草刈機WM510RC /ハスクバーナ・ゼノア
サイズ(cm)全長103×全幅68×全高45
重量 72.4kg
エンジン Honda製
前進と後進の速度 最大時速3km
刈幅 51cm
刈高 40mm〜70mm
駆動方式 12V鉛蓄電池 (別売)
刈刃4枚
メーカー希望小売価格(税込)53万1,300円
▼製品に関する問い合わせは最寄りの販売店まで。
メーカーサイト
▼藤原農機「アグリズ」レンタル申し込み
日本初!急傾斜地用モノレール 果樹や資材の運搬に最適 ニッカリのモノラック
最後にご紹介したいのが、ニッカリの「モノラック」です!「モノラック」というキーワードを聞いてピンと来る農家は、傾斜地に果樹園がある方ではないでしょうか? モノラックはニッカリの製品名で、一般名称はモノレールです。
農業では梅やみかんなどの収穫に欠かせないアイテムで、山の斜面に沿って鉄のレールを敷設し、その上をエンジンが付いた牽引車と荷物台車が走る運搬用の機械なのです。
急傾斜地での使用が可能で、上りであれば最大45度まで対応できます。積載荷重は200kg〜になるので、荷物台車に収穫コンテナを載せて走らせることもできますし、乗用の台車を設置すれば、人も乗れるので、山の上にある畑への移動もスムーズになります。
1960年代に登場したモノラックは、50年以上の歴史がある機械です。農業用だけでなく、近年、土木業や林業分野でも広く利用されている背景には、狭い場所にも設置できるので、山林の環境を傷つけることなく、それぞれの現場に合わせて施工ルートを設定できる点が評価されていることがあるのだと思われます。
今回のテーマの「スマート農業」というキーワードで考えてみると、山林での資材運搬といえばドローンを想像される方も多いかと思いますが、現実問題として、そういった製品は開発されていないため、「200kgの荷物を、山のふもとから頂上まで運べるドローン」が登場するのは、もう少し先の話になりそうですよね。
荷物をしっかり固定しておけば、無人で荷物だけを山頂に送ることもできますし、数百メートル程度の移動も可能ですから、うまくルートを設定すれば山林だけでなく、畑と倉庫の往復なども可能です。
また、こちらも補助金などが活用できるケースが多く、最新技術では代替が効かないような道具ですから、運搬や移動でお困りの方はぜひ一度設置を検討してみてはいかがでしょうか。
モノラックRacky MF-200M/ニッカリ
・牽引車
全長 89cm(停止時)
全幅 54cm
全高 70.5cm
重さ85kg
走行速度 分速42m
エンジン 三菱GB-131PN(空冷4サイクル)
排気量 126cc
使用燃料 自動車用無鉛ガソリン
タンク容量 2.5L
・荷物台車T-200A
最大積載量 200kg
全長 208cm
全幅56cm
全高80.5cm
重さ76kg
▼製品価格・施工価格などについては、最寄りの販売店まで。
メーカーサイト
▼藤原農機「アグリズ」レンタル申し込み
今回は、農作業の負担を軽減してくれるという意味での“スマート”な農機具をご紹介しました。最新技術からローテクなものまでさまざまですが、現場にハマれば、生産性アップは間違いなし。来月も一味違う農機具が登場しますので、お楽しみに!