合鴨農法をご存知でしょうか?
全国の米農家の間で、ひと昔前に一世を風靡しました。
水田に合鴨のヒナを放すことで、除草や害虫駆除の効果があるとして、有機農家を中心に1990年代に全国に広まった技術です。
高齢化や人手不足の味方になると期待されていましたが、生き物が相手のため、常に安定した働きを期待はできません。
そこで開発されたのが、田んぼに浮かべて稲の上を縦横無尽に動き回る「アイガモロボ」です。
雑草の抑制にどれくらいの効果があるか、全国36カ所で実証試験を行った結果、除草回数が半減し、収穫量も平均10%増えるなど、大きな効果があることがわかりました!(写真提供/有機米デザイン)
この記事のポイント
・そもそも合鴨農法とは…?
・2012年の着手から約10年
・全国36カ所で実証実験。1/3では除草ゼロ
・水田の底面がフラットじゃないと走行しにくい
・どんなロボットか?
・有機栽培米のニーズに伴って
そもそも合鴨農法とは?
日本で合鴨農法を広めたのは、福岡県の古野隆雄さんです。
1978年に完全無農薬で農業を始め、それから10年間、草取りに明け暮れるなか、合鴨による除草法に出合いました。
その方法は、生後3週間ほどのヒナを水田に放すことで、地表近くの雑草をついばんだり、水が濁ることで雑草が生えにくくなるというものです。合鴨の排泄物は肥料にもなりますし、稲の間を泳ぎ回ることで根に酸素が行き渡るという一石何鳥もの効果が期待されました。
しかし、利用できるのはヒナの間の短い期間だけなので、毎年新しいヒナが必要になります。また生き物ですから脱走したり、天敵に襲われたり、想定どおりには動いてくれないなど、さまざまな課題があるのです。
2012年の着手から約10年
そこで生まれたのが、ヒナの働きを再現するために、東京農工大学発のベンチャー企業・有機米デザインが開発し、井関農機が2023年1月に発売した「アイガモロボ®︎」です。
2012年当時、大手自動車メーカーの技術者たちが雑草抑制を省力化するためのロボット開発に着手したのが始まりで、その後、10年以上の研究期間を経て完成。2023年に販売を開始しました。
全国36カ所で実証実験。1/3では除草ゼロ
実証実験を行ったのは、有機米デザインと東京農工大学、井関農機、農研機構西日本農業研究センターのチームです。
有機米デザインが2021年から2022年にかけて2年間にわたって東北から九州の有機米農家36カ所で実証事件を行い、そこで得たデータを農工大、井関農機、農研機構が解析しました。
報告によりますと、アイガモロボを導入したのは、水稲の苗を移植直後から3週間程度の期間で、1反(10アール)あたり30分程度の能率で、田んぼ内をくまなく走行させました。
実験の結果、アイガモロボを導入する前の水田では、年に平均2.4回ほど機械を使った除草を行っていたのに対して、導入後は除草回数が1.0回と58%削減されました。
さらに実験を行った36カ所のうち、1/3にあたる12カ所では、アイガモロボ稼働後の除草がゼロに減った水田もありました。
一方、収穫量を見ると10アール(a)あたり玄米の重さで平均424kgを記録。実験を行った前年が平均386kg/10aだったのに対して、約10%増加した計算になります(※気象要因による年次変動を除く)。
水田の底面がフラットじゃないと走行しにくい
というのも、36カ所のうち7割近くの25カ所の水田では、アイガモロボは問題なく稼働しましたが、残りの11カ所では走行が困難に陥る状況が報告されています。
最も多かったのは、田んぼの底の面がデコボコしていたり、水量が不足していたのが原因です。検証チームによると、水田の地表が平らでないと、でっぱった場所は水位が低くなるためにアイガモロボが座礁するおそれがあります。逆に水位が深すぎると、苗が水没して生育不良になるケースも見受けられます。
アイガモロボを導入するうえでは、作付前にレベラーを使ったり、丁寧に代かきして田んぼ全体の地表を均等にならす必要があるのです。
どんなロボットか?
実験では、2年間で計285台のアイガモロボが使われました。
機体は90cm×130cm、高さは40cm、重さ16kgです。GPSと太陽光発電パネルを搭載しているので、自動運転が可能です。
雨が降っている日以外は、自家発電したバッテリーでモーターを駆動させて、水稲の畝間や株間を走行します。
使用するのは、苗の植え付けから3週間程度、10aあたりを30分程度かけて水田全体をくまなく走行させます。生きているアイガモは雑草をついばむことで除去しますが、アイガモロボは水田内をスクリューで攪拌することで、地表面の土を巻き上げ、水を濁らせます。
それによって太陽光が雑草に届かなくなり、光合成しにくくため、雑草の生育が阻害されるのです。一方、稲はすでに水面に顔を出しているので影響はありません。
さらに巻き上げた土が底面に沈澱する際、トロトロとした柔らかい土を堆積させることで、雑草の種が埋没し、出芽できなくなると考えられています。
基本的にメンテナンスの必要はなく、太陽光パネルで発電した動力だけで動きます。専用アプリで圃場の形を指定するだけで、一定の走行間隔を維持して航行するルートを自動作成するため、変形した田んぼでも問題ありません。
これらの実績や農家からの要望を踏まえ、田んぼが完全に平らでなかったり、水が減ってしまったりしても稼働でき、価格も下げた「安価版アイガモロボ」も開発を進めており、2024年度に本格的に実証実験を開始するということです。
有機栽培米のニーズに伴って
農産物の安心・安全に対する関心の高さや環境への負荷軽減から、有機農産物の需要は確実に高まっています。農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」でも、有機栽培に取り組む面積の拡大を目指していますが、現実問題として普及は十分に進んでいません。
国内で生産される米の作付面積は、全耕地面積の4割近くを占めているため、有機栽培面積の拡大は重要な課題となっていますが、慣行栽培に比べて収穫量が少なく、不安定になる傾向があります。
前述したとおり、有機栽培では除草剤に頼れない分、雑草の防除にかかる労力が大きく、人手不足の環境下で生産面積拡大を阻害する要因となっています。
今回の実証実験結果を受けて、有機米デザインの中村哲也取締役副社長は「有機米の栽培農家の間ではこれまで、多目的田植機に除草用の部品を取り付けて、物理的に土面を掻苦などして除草していました。これは効率的ですが、イネの根元まで傷めるリスクがあるため、操作には熟練の技が必要です。アイガモロボであれば、初級者でも取り組みやすく、効果を実感する農家さんからは次の年も使いたいという感想をいただいています」と話しています。
参照:
「水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の抑草効果を実証」/農研機構
「アイガモロボ特設サイト」/井関農機