ここ数年ですっかり人気が定着した焼き芋ブームは、今や全国の生産者が集結して、グランプリを決める「さつまいも博」が開かれるほどになっています。(2023年は2月22日〜26日までの5日間)
昨今は「安納芋」や「べにはるか」など、ネットリとした甘味の強い品種に人気が集中していますが、かつてサツマイモといえば、ホクホクした食感が一般的。
ネットリ系のサツマイモが焼き芋(青果)用であるのに対して、ホクホク系は、お菓子の加工用に使われるため、菓子業界からは原材料のサツマイモを確保するのが難しくなっているという声が高まっています。
そうしたなか、ホクホク系の代表選手である「ベニアズマ」の後継品種が登場しました!開発した農研機構に取材しました。
ひめあずま誕生まで
・ベニアズマを作る生産者がいない!菓子業界からの声
・生産者離れをまねいた理由
・新品種ひめあずまの特徴
・病害虫への抵抗性は?
・優れた貯蔵性〜新緑の時期まで美味しい!
ベニアズマを作る生産者がいない!菓子業界からの声
サツマイモを加熱調理した時のホクホクした食感は、芋ようかんや大学いも、スイートポテトなどといったスイーツを加工するときに重要な要素です。ベニアズマは焼き芋だけでなく菓子加工用として幅広く利用されていて、品種登録以来、茨城県や千葉県など関東を中心に40年近くにわたって生産されてきました。
しかし最近では、ネットリ系焼き芋のブームに押され、主要産地である関東地方での作付面積が減少。サツマイモ菓子の加工業界からは「原料確保が難しい」という声が上がるようになりました。
生産者離れをまねいた理由
生産者のベニアズマ離れを後押ししたのは、見た目の問題もありました。ベニアズマは、最近の人気品種であるべにはるかと比べると、ゴツゴツした無骨な外観が特徴で、高値で取引されるA品ができにくいという販売上のデメリットがあったのです。
農研機構中日本農業研究センターの研究チームは、最大の欠点である見た目の問題を克服し、病気に強くて貯蔵性を改良した新しい品種の開発を進めた結果、青果用と菓子加工用の両方のニーズを満たすホクホクした食感の新品種「ひめあずま」の開発に成功しました。
研究チームによると、新品種は、抗酸化物質であるカロテンを含み、病害虫に強いとされる「作系25」と、形状や大きさの揃いが良い「すずほっくり」を両親にもつ組み合わせから生まれた品種で、ベニアズマの子孫にあたります。
研究チームによると、収量はベニアズマ並みですが、今後の普及が見込まれる茨城県ではひめあずまのA品の割合が、ベニアズマより優れていました。
病害虫への抵抗性は?
2018年から2021年までの4年間にわたって試験圃場で苗付けして病害虫への抵抗性を調べた結果、サツマイモネコブセンチュウとつる割病、立枯病に対する抵抗性はいずれも「やや強」く、黒腐病は「中」〜「やや強い」ことがわかりました。一方、九州の基腐病発生圃場で2022年に行った抵抗性の試験では、「やや弱い」ことがわかったので、防除対策の徹底が必要です。
優れた貯蔵性〜新緑の時期まで美味しい!
また、新品種「ひめあずま」と、ベニアズマ、べにはるか、高系14号の4品種を2時間蒸し煮して、味や糖度などを比較した結果、べにはるかと比べて糖度は劣るものの、香りや味、硬さはベニアズマに近く、芋ようかんや大学いもへの加工に適していることがわかりました。
特筆すべきは「貯蔵のしやすさ」で、冬の間に無加温の保管庫に保存して90日間経過した後に、腐敗したイモの割合を調べたところ、ベニアズマの腐敗イモ率が85%以上と、貯蔵性が悪かったのに対し、ひめあずまは腐敗率が10%以下と、貯蔵性に優れています。
研究を担当した農研機構中日本農業研究センターの田口和憲さん(温暖地野菜研究領域)は「ベニアズマのホクホクした風味や食感を残しながらも、なめらかで美しい楕円形の形からひめあずまと名付けました。日本産のサツマイモは近年、海外でも高い評価を受けていて、輸出が急拡大しているので、加工品も含めて輸出力強化に貢献できると期待されます」と話しています。
農研機構では今後、民間の種苗会社と種苗許諾契約を結び、3月末までに種イモ配布を予定しています。
●品種に関する問い合わせ 農研機構