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Editor’s Eyes 使用済みコピー用紙でシイタケ栽培?環境負荷が低い画期的な栽培方法を開発!日本工業大学

Editor’s Eyes 使用済みコピー用紙でシイタケ栽培?環境負荷が低い画期的な栽培方法を開発!日本工業大学

日本人は世界でも類をみないキノコ好きの民族です。

北海道から東北地方にかけての縄文時代の遺跡からは、キノコの形そっくりの土製品が発見されていますし、日本書紀には天皇に献上されたという記録も残るほど。

現在、日常的に食卓に上がるキノコは、ほとんどがおがくずに米や麦などを混ぜたブロック状の塊に、種菌を植えつけて栄養分を与える菌床栽培で作られたものです。
天候に左右されない室内で、安定した収穫量を確保できるとして広く普及していますが、収穫後に大量に発生する使用済みの菌床をどう処理するかが今、問題になっています。

日本工業大学の平栗健史教授は、現在使われている菌床に代わるものとして、処理が簡単な「紙」を使った栽培方法を実証しました!

この記事のポイント
・日常的にキノコが食べられるようになったのは…
・菌床栽培は大量の産業廃棄物が出る
・菌床そのものの素材に着目

日常的にキノコが食べられるようになったのは…

スーパーなどの量販店で年間を通じて安定して購入できる生シイタケは、9割以上が菌床栽培で作られたものです。ほかにも、エノキ、ブナシメジ、マイタケなどが作られています。

今では当たり前の技術ですが、菌床栽培が登場するまでは、伐採して乾燥させた原木に、あらかじめ菌を培養した木片(種コマ)を打ち込む原木栽培が主流でした。しかし、これは収穫まで時間もかかれば、栽培効率が悪いというデメリットがあります。

そこで、安定した収穫量を確保するために生まれたのが菌床栽培ですが、最初から現在の形になったわけではありません。

高度経済成長期の1970年代、不足する木材(原木)の代わりに袋を使った培地でシイタケを工業的に生産する方法が注目を集めました。

その後、キノコ(子実体)がたくさん発生する品種の開発によって、1975年以降、多くのメーカーが市場に参入するようになり、平成に入ると全国各地に大きな産地が生まれました。

つまり、私たちが今のように日常的にキノコを安価で食べられるようになったのは、せいぜいここ半世紀ほどの話なのです。

かつては原木栽培が主流だったが、高度経済成長期以降、菌床栽培技術が確立
かつては原木栽培が主流だったが、高度経済成長期以降、菌床栽培技術が確立した

菌床栽培は大量の産業廃棄物が出る

いつでも安価にシイタケを食べられるようになった一方、菌床栽培にも問題があります。

菌床には、コナラやクヌギなどの広葉樹を粉砕したおがくずに、米ヌカやフスマ(小麦の外皮や胚芽)、トウモロコシヌカなどの栄養分を混ぜて、水分を加えてミキサーで練って、ブロック状に固めたものを使います。

収穫後の菌床は、散水や保温などを行って20日間ほど休養させた後、再利用が可能ですが、数回使った後は廃棄します。しかし、廃菌床は収穫できるキノコのに比べて2〜3倍の重さになります。環境省などの試算によると、1年間に全国で排出される廃菌床は30万トン以上に上ります。

使用済みの廃菌床
大量に排出される使用済みの廃菌床/日本工業大学企画室
廃菌床は産業廃棄物ですから、処理には費用がかかります。焼却すれば二酸化炭素が発生しますし、埋め立て用の土地には限りがあります。何より、悪臭などの環境問題が大きいのです。

農水省やさまざまな研究機関では、使用済みの菌床を破砕して堆肥化したり、土壌改良剤として活用したり、畜産動物の寝床に敷く敷料などと言った再利用を目指して技術開発を進めていますが、処理が厄介な菌床そのものの素材に目をつけたのが、今回ご紹介する研究です。

菌床そのものの素材に着目

日本工業大学の平栗健史教授は、5GやWi-Fiなどの無線通信ネットワーク技術を研究している専門家ですが、その一方で大のシイタケ好きとして知られています。好きが高じて、シイタケの豊作と雷の衝撃波との因果関係を突き止めるというユニークな研究を発表しているほど。

平栗先生は、木材に含まれる植物繊維「セルロース」に着目しました。シイタケをはじめとする菌類は、木材の植物繊維を分解して、それを栄養源として成長します。つまりセルロースを含む素材であれば栽培用の土台(培地)になるのです。

私たちの身の回りで、セルロースを含む最も身近な素材はパルプ(紙)です。紙は長期保存が可能なうえ、水分も吸収しやすく、使った後の処分も簡単です。

そこで、和紙と新聞紙と使用済みのコピー用紙を用意し、シュレッダーで裁断したチップに水を含ませて固めて、3種類の菌床培地を作り、シイタケ菌を植え付けました。

上から実験で使った紙の培地に発生したシイタケ/日本工業大学・平栗健史教授
上から実験で使った紙の培地に発生したシイタケ/日本工業大学・平栗健史教授
その結果、いずれのタイプでもシイタケの子実体が発生し、紙を使った培地が可能であることが裏付けられました。

ただし、コピー用紙に比べると、和紙の方がシイタケの菌糸の成長に適していることがわかりました。

平栗先生はこの理由に対して、「空気を多く含む和紙の方が、シイタケの菌糸の成長に適しているのかもしれない。一方でコピー用紙に使われているインクのにじみ防止剤などの化学薬品が菌糸の成長を妨げている可能性がある」と指摘。

そのうえで、今回の研究成果から、紙から生成したセルロースの粉と、栄養分のフスマをスポンジに直接染み込ませた「スポンジ培地」に転用することを発案。

スポンジ培地であれば、紙のようにブロック状に固める必要もなく、収穫後に再度栄養を含ませれば再利用が可能です。また、スポンジ培地を直線状に並べれば、植物工場のように栽培できるため、将来的にはロボットなどを使って自動収穫作業も実現できるとして、注目される技術です。

▼取材協力

日本工業大学 基幹工学部 電気電子通信工学科/平栗健史教授









日本工業大学 基幹工学部 電気電子通信工学科/平栗健史教授

参照
「使用済コピー用紙でシイタケ栽培!これまでにない培地原料で、画期的な栽培方法を実証」

・長野県『技術情報No.136』「菌床シイタケ栽培の歴史と基礎技術」

環境省「廃菌床のバイオマス燃料化技術開発による廃棄物の資源化および地産地消のモデル」

・新技術説明会「きのこ廃菌床の新たな使い道」鳥取大学農学部生命環境農学科 大﨑久美子 

・徳島県立農林水産総合技術センター森林林業研究所「シイタケ廃菌床の堆肥化技術」

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