食品の宅配サービスに携わってきたオイシックス・ラ・大地の阪下利久さんは、食卓をめぐる社会状況が変化の波にさらされている今こそ、生産者は消費者のニーズを的確にとらえる必要があると話しています。そのために何をするべきか?ヒントは、消費者がインターネットで何を検索しているのか?ホットなキーワードを探ることです!東日本大震災で被災した東北の水産加工業者の成功例をもとに教えます!
ポイント
・東北の漁業は、震災からどう復活したか?
・サバ水煮缶のブームには仕掛け人がいた!
・魚嫌い?NO!販売方法に工夫を
水産品の検索ワード活用法とは?
これまで2回にわたって、「グーグルトレンド(Google Trends)」の使い方についてお話してきました。
グーグルは「検索ワード」そのもので得た広告収益によって運営されています。そこで、ユーザーは無料で最新の市場動向を知ることができることから、活用しない手はないのです。
これは、外食需要の多い水産物であっても同じです。10年前の東日本大震災による危機的な状況から立ち直った成功事例をご紹介しましょう。
東日本大震災復興から始まった漁業支援
2011年3月、東日本大震災が発生して壊滅的な被害を受けた三陸の水産関係者は途方に暮れていました。
しかし若い漁業関係者やスタッフを中心に、何とかして復興して三陸の水産業を未来につなげていきたいという熱い想いで一致していました。こうして仲間が集い、「東の食の会」および「フィッシャーマンジャパン」という組織が出来上がり、復興活動に邁進していきました。
ターニングポイントになったのは、サバ缶詰工場の再興です。今でこそサバの水煮はヘルシーな食材として大変人気が高く、スーパーで品切れになるほどですが、当時はさほど人気はありませんでした。しかも日本で好まれる「焼き魚」に合うのは、脂がのっていて美味しいノルウェー産であり、国内で水揚げされる脂身の少ないサバは市場を失う一方でした。
サバの水煮缶に人気が集まる前
それどころか当時は、成長すると将来的には貴重な資源となる小さなサバの方がニーズが高く、水揚げされると冷凍されて、東南アジアに建設された缶詰工場に冷凍船まるごと安い価格で引き取られているような有様でした。
財務省の貿易統計によると、日本の水産物輸出額のうち、サバ類はホタテ、真珠に次いで3番目に多く(2017年は219億円)、いまだに主要な農林水産輸出品なのですが、あまり知られていない事実です。
日本では、魚と言えば刺身用のマグロなのですが、高級品はごく一部である前に、膨大な国内需要がありますから、輸出するほどの余力はないのです(前述の2017年貿易統計によると、「マグロ・カジキ類」の輸出総額は111億円と、サバの約半分)。
「Çavaサヴァ缶」が大ヒット
そこで、脂ののりが劣る三陸のサバに付加価値を付けて売っていく方法を考えることになりました。その結果、「ツナ缶」を模した商品を作ろう、というアイディアが生まれ、国産のオリーブオイルを使った「オイル漬け」を試作してみたところ、「風味が良い」と試食会でも大変好評を得ました。
しかし消費者に手に取ってもらうには、パッケージや商品名も重要です。優れた商品はたくさんありますが、埋もれてしまえば、はいあがれません。
さらに検討を重ねた末に、パッケージが特徴的な「サヴァ缶」が誕生、瞬く間にヒット商品になっていきました。ちなみに「Çava?」は、フランス語で「元気ですか?」という意味で、被災地から全国へ向けて声をあげるイメージを合わせ持っています。
ピンチをチャンスに変えるための行動ですが、時代に合わせて需要と供給をマッチさせることが成功のカギだったわけです。
コロナ禍でも水産品のニーズは高いが課題も
結論からいうと、水産品はニーズが上昇しており、個別の品目は好調です。ただし主要な養殖魚である「鮭」と「ぶり」は季節によって変動があるため、加工品にして1年を通じて需要に対応していく必要があるでしょう。「焼き魚」として加工するか、「サヴァ缶」のように新たな「メニュー提案」で活路を開くとよさそうです。
とくに「焼き魚」は、家庭で食べる場合、キッチンやリビングにニオイがつくのを嫌ったり、油汚れを掃除するのが嫌なだけで、食べたくないわけではないのです。焼いておけば、冷凍もしやすくなりますから、こういった商品は今後もニーズが高まる一方でしょう。
プロフィール
阪下 利久(さかした・りきゅう)/オイシックス・ラ・大地株式会社商品本部技術開発部門リーダー◎青山学院大学経済学部卒業後、定期宅配サービスの「らでぃっしゅぼーや㈱」を経て、「オイシックス㈱」で青果開発マネージャー、技術開発担当、海外担当を歴任。有機・特別栽培、JGAPを中心とした農産物流通全般に26年携わる。