コロナ禍でライフスタイルが激変した2020年は、ネットを通じて生産者と消費者が直接売買できる仕組みが生まれるなど、大きな変化がありました。食品宅配業の先駆者、「オイシックス・ラ・大地」で長年、商品開発や流通に携わってきた阪下利久さんは、コロナ禍に消費者が欲しい食材をいち早くとらえるためには、インターネット上で今何が検索されているかを知ることができる「グーグルの検索機能」をマスターすることが早道だと教えてくれました!
ポイント
・人気の検索ワードとは?
・人気の内食レシピとは?
・消費者目線を持て
「Googleトレンド」でリアルタイムに変化を知ろう
コロナ禍で日本の食シーンは大きな影響を受けています。具体的には、密を避けるために会食を控えるようになりました。
私たちは日頃からこうした変化を肌で感じるとともに、テレビやインターネットのニュースから情報を受信して、経済活動に移しています。最近はスマホの普及が進み、私たちは自ら情報を検索して、経済活動を行うようになりました。とくに「検索急上昇ワード」として、媒体に大きく取り上げられ、かつ皆が無料で活用できるビッグデータ解析ツールが「Google Trends(グーグルトレンド)」 です。
なぜこれが彼らのビジネスになるか?というと、この「検索ワード」自体で広告料を取っているのです。具体的には、例えば栃木県宇都宮市に「サカシタいちご農園」があり、観光需要が減っているため、ネット上に広告を出したいとしましょう。
その時、宇都宮市民が「いちご」と検索した際、有利に自社農場の広告が表示されるためには500円の広告料がかかります、というように、「キーワード」自体を販売しているのです。
コロナ禍で好調な農産物とは?
グーグルトレンドの利用は簡単です。自分のGmailアカウントを作り、この機能にログインして分析するだけ。
例えば2020年のレビューというのがあり、急上昇したキーワードがわかります。「野菜」というキーワードでソート(並べ替え)をかけてみると、山口県で「萩野菜ピクルス」が評判になっていることがトピックとして出てきます。どうも地域の加工品が注目を集めているようです(編集部注:「萩野菜ピクルス」山口県萩市の地元野菜を使ったピクルス)。
健康志向で野菜への関心が上昇
実は、コロナ禍で好調な農産物を見てみると不調というものはほとんど見当たらず、農産物全般は好調でした。
健康志向を反映してか、とくに野菜はニーズが右肩上がりであり、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草の主要3品目は、肉や魚を含めるすべての食材のなかで最も検索数が多い食材に成長しているほどです。つまり大多数の人にとって関心が高く、冷蔵庫になくてはならない食材であるわけです。
野菜を使った「レシピ」検索
消費者が冷蔵庫を野菜で満たした次に、どんな変化が起こったでしょうか?
家庭での食事が増えた結果、関連キーワードとして、レシピの検索数が急増しました。日常化していた外食メニューを自宅でつくるには、といったソリューション(解決方法)が求められています。
今後は、ただ漠然と野菜を売るのではなく、メニューまで提案していくことが一層求められているわけです。オイシックスでは、このニーズに対応して、レシピがついた野菜中心の食材セット「ミールキット」の開発に注力しています。
郊外の「直売所」が人気
さて、次に売り場に目を移してみましょう。三密を避け、価格が安く、滞在時間の短い買い物が好まれたようで、郊外の「直売所」が大人気になっています。その人気は定着しており、既にコンビニより店舗数が多いことから、1兆円市場だと分析する専門家もいます。
消費者側の視点に立ってみれば、直接生産者から購入する意欲が高く、買い物自体に制限はありませんから、少し郊外に足を延ばして、鮮度のよい農産品を手に入れることで、気分転換をはかる効果も期待されます。
直売所の課題は、夏は需要が高まる一方で、冬は逆に落ち込むことですが、前述のブロッコリーに代表される冬野菜が人気なので、これを大きくアピールすることで、山と谷のギャップを小さくすることができるでしょう。
「有機野菜」から「オーガニック」へ
最後に、世界的に人気が高まっている農産品「オーガニック」について話します。日本ではかつて「有機野菜」として認知されてきましたが、世代とニーズが変わって、カタカナで同じものが認知されるようになってきています。
オーガニック農産物の生産は、病害虫の予防や駆除ができないといった問題がありますが、高温多雨の日本の夏であっても、冬になれば気温が低く、病虫害も少なくなります。
食生活の洋食化がこれだけ進むなか、人気食材の品目が偏っていることがむしろ問題でしょう。
解決策としては、珍しい西洋野菜の導入と、それをおいしく、かつ飽きずに家庭で食べることができるレシピ開発の提案が重要だと言えます。
執筆者のプロフィール
阪下 利久(さかした・りきゅう)/オイシックス・ラ・大地株式会社商品本部技術開発部門リーダー◎青山学院大学経済学部卒業後、定期宅配サービスの「らでぃっしゅぼーや㈱」を経て、「オイシックス㈱」で青果開発マネージャー、技術開発担当、海外担当を歴任。有機・特別栽培、JGAPを中心とした農産物流通全般に26年携わる。