今年7月、東京・吉祥寺で「URBAN FARM TO TABLE in 吉祥寺PARCO」が開催されました。
人気 YouTuberのmai(マイ)さんと、東京・三鷹で農園を営む鴨志田純さんを迎え、料理教室とトークセッションを実施。
参加者たちにとって、都市農業や地産地消について考えるきっかけとなったイベントをレポートします。(取材&文:沼田実季)
URBAN FARM TO TABLE メニュー
・ウェルカムスープの夏野菜のガスパチョサラダ
・発酵トマト・発酵たまねぎ
・焼きナスのフムス
・しそタブレ
・ヨーグルトソース
・甘長唐辛子の発酵トマトソースあえ
・緑のファラエル(豆のコロッケ)
2023年7月17日、東京・吉祥寺パルコにて「都市の農」をテーマにした新しい食と農の体験イベント「URBAN FARM TO TABLE in 吉祥寺PARCO」が開催されました。
これは「農業の魅力発信コンソーシアム」プロジェクトの一環として行われたもので、都市生活者に農業をより身近に感じていただくきっかけづくりが目的。
ゲストに、登録者数95万人超の人気YouTubeチャンネル「一人前食堂」を主宰するmaiさんと、東京・三鷹市にある鴨志田農園の6代目で、今回のプロジェクトのロールモデル農家でもある鴨志田 純さんを迎え、野菜を使った料理のワークショップとお二人のトークショーを行いました。
イベントは午前と午後の2回。maiさんのファンや吉祥寺パルコの常連客など、食に対する意識の高い方がそれぞれ30名ほど、合計約60名が参加し、各回とも3時間にわたる密度の濃い時間となりました。
近くの農園で採れた野菜をその場で料理。生産者と消費者が触れ合う
まずは、maiさんのお料理教室からスタート。
この日教えていただいたレシピは、「ウェルカムスープ、夏野菜のガスパチョサラダ」、「焼きナスのフムス」、「しそタブレ」、「緑のファラフェル」と「ヨーグルトソース」、「甘長唐辛子の発酵トマトソース和え」、そして調味料として大活躍するという「発酵トマト」と「発酵玉ねぎ」の全8種類。料理の一部には鴨志田農園の野菜を使いました。
観客の方たちも少しずつ調理に参加し、maiさんとのおしゃべりを楽しみながら、野菜を切ったりソースを混ぜたり。途中、鴨志田さんの奥さまの佑衣さんが農園で採れた甘長唐辛子を調理するなど、会場が一体となって「食」に向き合う流れとなり、いっきに親近感がわいた様子。
採れたての野菜を前にみんなでキッチンに立って料理をし、一緒に大きなテーブルを囲む。そんな素敵な「Farm to Table」体験を、参加者と共にmaiさん自身も楽しんでいました。「普段は料理も撮影も一人でやっているので、賑やかなのが嬉しいです」。
maiさんも、このプロジェクトをきっかけに、これまで以上に都市における地産地消を意識するようになったと言います。イベントの前には鴨志田農園を訪ね、若者で賑わう吉祥寺からそれほど遠くない場所でもたくさんの野菜が育てられていることに驚いたのだそう。
農業は日常からかけ離れたものではなく、すぐ隣にあるもの。それが分かれば、日々の食事で食べる野菜たちを見る目も変わるはずです。「もっと身近な農業に目を向けてみようと思いました」というmaiさんの言葉に、多くの参加者がうなずいていました。
ふだんから『かかりつけ農家』を見つけることの意味
トークショーでは、maiさんと鴨志田さんが都市農業について、それぞれの思いや意見を交わしました。
代々続く農家に生まれ、教員を経て2014年に農園を継いだ鴨志田さん。今は野菜を育てながら堆肥づくりも手がけます。
農園の野菜を購入した家庭から残渣を集め、それを堆肥にするなど、一次産業と消費者のつながりを循環型農業に昇華する取り組みにも着手していると言います。
「僕はいつも『かかりつけ農家』を見つけてください、と皆さんに伝えています」と、鴨志田さん。
「多くの方は自分の街に『かかりつけ医』を持っていると思います。それと同じ。ふだんからコミュニケーションをとっていれば、例えば災害などの有事の際にも相談しやすいし、こちらも支援しやすい。そういう関係を日常の中で意識することが大切だと思っています」。
かつては地域のつながりが濃く助け合いは当然のことでしたが、昨今はそれが希薄になりがち。同じ地域に暮らす者としてお互いを知り、少しずつでも支え合うことが地域の活性化につながります。
「農家は一次産業に従事するだけではなく、地域に根差して人との関わりを育むような役割も担っていくべきだと思っています」。
「新たに農業に参入するのは想像以上に難しいこともあります。自然が相手なので、災害が起こったら収穫ができなくなることもある。リスクが大きいわけです。だから、農業だけではなく他の収入源も念頭においた方がいい。自分の中に多様性を持ち、いくつかの柱を持つことも一つの方法です」。
最近では、高校生や大学を卒業したばかりの若い世代が話を聞きに来ることもあるそうです。「最近の若者は環境意識が高くてびっくりします。そういう人たちが10年くらいたって消費人口になったら、消費行動にもいろいろと変化があるかもしれませんね」。
口に入るものが、どう作られたか理解できるので、自分でも栽培に挑戦して
イベントの終盤、maiさんが「いかに自然の恵みをいただくかが最近の自分のテーマ。何年か後にはもしかしたら移住するかもしれないけれど、今は都市にいる。ここでもなるべく自然の恵みである食材を取り入れて暮らしの豊かさを味わいつつ、自分の場所、地域を見つけたい」と自身の気持ちを話すと、鴨志田さんは「ぜひ自分で食べ物を作ってみてほしい。小さなプランターにトマトを植えるだけでもいい。それをきっかけにして、自分の口に入るものがどうやってできているのかがわかるし、いろんな発見もある。そして何より、おいしい! それがいちばんです」と結びました。
都市農業にはさまざまなポテンシャルがあるーー。
そのことを、参加者にも主催者・関係者にも伝えられるイベントとなりました。
URBAN FARM TO TABLE in 吉祥寺PARCOの出演者について
1人前食堂maiさん
2019年YouTube「1人前食堂」を開設。普段から自分が食べるものを自分で決めて作るという何気ない日常を動画にして綴る。日々、食と暮らしと健康の良い関係性を模索し、映像や言葉を通じてさまざまな提案を行っている。
鴨志田農園 鴨志田純さん
三鷹市に代々続く野菜農家の6代目。家庭から出る生ごみや落ち葉などの有機廃棄物を、微生物の力で堆肥化させるコンポストの普及を進めるコンポストアドバイザーとして、ネパールや全国各地で活躍。