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Editor’s Eyes 選び方しだいで収益倍増 東直斗の「耕うん機こそ経営改善のカギ」

Editor’s Eyes 選び方しだいで収益倍増 東直斗の「耕うん機こそ経営改善のカギ」

2023年〜2024年の冬は、全国的にかなり気温が高く、降雪量も少ない暖冬傾向が続きました。

一時的に冬型の気圧配置が強まった影響で、2月は大雪が降った場所もありますが、早春を告げる梅の花が見ごろを迎えると春の兆しを感じます。

一方、農家がソワソワするのもこの季節。農機具選びのプロ・東さんは、ふだん当たり前のように使っている「耕うん機」も、新しい視点で選べば、作業効率や経営に“幸運”をもたらしてくれると話しています。

この記事のポイント
・選び方次第で幸運を運んでくれるかもしれない耕うん機
・耕うん機とトラクターは何が違うのか?
・農機具の世界は言葉の揺らぎが多いフシギ
・アタッチメント次第でさまざまな用途に
・軽量は選ばない!
・耕うん機の選び方〜①圃場に進入できるか?
・②耕うん幅を元に作業時間を計算する
・作業効率を上げるには?
・シーズン中、耕うん機が登場する機会は?
・農機具選びを通じた利益アップの考え方はシンプル
・自分の農業を自分の力で儲かる体質に鍛える
・ハイスペックな機械を買っても使いこなせなければムダ

選び方次第で幸運を運んでくれるかもしれない耕うん機


梅の生産日本一の和歌山県みなべ町を拠点に、藤原農機で日本初の農機具の宅配レンタル事業を立ち上げたのち、現在は独立して子会社「クリアー」を設立し、中小企業の経営者のサポートを行なっている東 直斗です。

3月に入ると、日が長くなってきたり、卒業・入学シーズンだったりと何かと慌ただしい日々が続きますが、農業の現場では畑作り、植付けや防除などを通じて、春の訪れを感じます。

農機具屋時代はお客さまからの問い合わせや注文が増えるため嬉しい反面、この先やってくる夏の本格的な農繁期を思うと「今年は乗り切れるんだろうか?」と不安を感じることもありました。

そのせいか、いまだに3月の兆しを感じると、「忙しくなる前にアレもしておこう、コレもしておかなければ…」と、ついつい予定を詰め込みすぎてしまう貧乏性なところがあります。

この連載では、これまで農家の必需品である草刈機と動力運搬車について、「利益を増やす」という視点で選ぶという切り口でお届けしてきました。

農機具販売の現場に10年いた私が、日ごろ、面と向かってお客さまには言いにくいことを忖度なしで伝えていますが、今回は選び方次第で幸運を運んでくれる耕うん機(笑)がテーマです!

耕うん機とトラクターは何が違うのか?

これも農機具屋時代のクセで、春になると「耕うん機」を思い浮かべます。農家の相棒である軽トラと同じく、日ごろから当たり前のように使っているので、皆さんはあまり深く考える機会がないかもしれませんね。

トラクターと耕うん機は用途が近いが異なるもの
トラクターと耕うん機は用途が近いが、何が違うのか?
「畑を耕す」という作業だけでみると、用途が近いトラクターを選ぶ人も多いと思いますが、耕うん作業は、農業のさまざまな現場で重要ですから、この工程の効率を改善することで、利益アップの余地がまだあります。

前回、動力運搬車選びの記事でも指摘しましたが、作業効率をアップするだけでは意味がありません。重要なのは省力化によって、できた時間や浮いたコストをどう使うかという点に着目していきましょう。

農機具の世界は言葉の揺らぎが多いフシギ

田んぼや畑を耕す機械を、一般的に「耕うん機」と記しますが、メーカーによっては「耕耘機」とか「耕運機」と表現するケースもあります。

似た作業を行う機械にトラクターがありますが、明確な違いは作業者の操縦方法にあります。

わかりやすく区別すると、自走する機械の後ろを作業者が歩いてついていくのが耕うん機、作業者が機械に乗って操作するのがトラクターになりますが、厳密に言うと、トラクター(tractor)は「牽引する」「引っ張る」を意味するもの。したがって、付属部品であるアタッチメントを取り付けることで、耕うん以外も行えるため、本来は「耕うん機」とは別ジャンルとして扱われます。

作業者が機械の後をついていくのが耕うん機
作業者が機械の後をついていくのが耕うん機
同じように使われる農機具に、「管理機」という呼ばれるものもご存知だと思います。これも農家以外の人には「何を管理するの?」と思われる機械です。

管理機は、トラクターと同じく、アタッチメントを取り付けることで、さまざまな作業ができるという意味で使われますが、不思議なことに、管理機は耕うん機と同じジャンルに扱われるケースが多く、たんに「管理機」と言うと、小型の耕うん機を指すことが多いのです。

農機メーカーや農機具店に就職したばかりの新入社員には、この不思議に戸惑う人も多いのですが、農機具の世界にはこういった言葉の揺らぎが非常に多いのです。

それも長年働くうちに疑問に感じなくなるのですが、就職・転職などの機会が増えるこの時期は、新入社員から問われる場面も多いのではないでしょうか? とはいえ、その疑問を深く考えても、あまり意味はないと思いますので、この連載では「耕うん機」に統一していきます。

アタッチメント次第でさまざまな用途に

さて耕うん機には、持ち運びできる1~2馬力(kW)から、3~8馬力程度の歩行タイプ、さらに100馬力以上の大型トラクターまで、呼び方も種類もさまざまですが、前述したとおり、主な用途は「田んぼや畑を耕すこと」。

培土機などのアタッチメントを取り付けることで畝立てができたり、水田なら代かきに使ったりと、いろいろなオプションはありますが、機能としては非常にシンプルな農機具のひとつです。

畝立ての様子
畝立ての様子
動力は、小型であればガソリンエンジン式のものが多く、最近は電動タイプも少しずつ見かけるようになってきましたが、大型タイプになると、ディーゼルエンジン式が一般的に普及しています。

軽量は選ばない!


耕うん機の場合、ロータリー部分にある爪を土に食い込ませて畑を耕す構造なので、本体重量が軽すぎると土に跳ね返されてしまいます。

したがって、市場ではディーゼルエンジンのようにパワーを生み出しやすい機種が好まれる傾向にあります。

また構造上、重心が後ろにかかりやすいため、バランスを取るために前方にウエイト(重り)をつける場合もあります。そのため耕うん機は、農機具のなかでは珍しく、重量の軽さが選択条件にはなりません。

耕うん機の選び方〜①圃場に進入できるか?

肝心の選び方ですが、第一のポイントは「畑に進入可能なサイズかどうか」が目安となります。

道幅が十分にある大きな道路に面した広い畑ならば、大型トラクターでも問題ありませんが、山間部や小さな農園の場合、車体が大きすぎると畑への進入がままなりません。言い換えると「農園に入れるギリギリのサイズ」を選ぶ必要があります。

②耕うん幅を元に作業時間を計算する

広さの問題は、畑を耕すときの耕うん幅にもあてはまります。

畑に侵入できる上限ギリギリの機種に搭載可能なロータリー幅が、畑を耕すときの最大耕うん幅になります。

耕うん幅をもとに作業時間を計算してみる
耕うん幅をもとに作業時間を計算してみる
例えば、Aの畑で使える最大の機種Bに600mmのロータリーを搭載できるなら、1往復あたり1,200mmの作業ができるという計算になります。

耕うん幅を元に、1カ所の畑を耕し終えるのに何往復必要かと計算してみてください。トータルの作業時間がわかります。単純なかけ算、わり算なので、電卓を叩けばすぐにわかります。

作業効率を上げるには?


前回の動力運搬車と同様、ロータリー幅を広げることで往復する回数を減らすことができます。

もしくは一往復にかける速度を上げることで、トータルの作業時間を短縮することも可能でしょう。

作業時間の短縮は短くするという考え方がここでも有効です。ただ、動力運搬車と違って注意したいのは、ほとんどの生産者にとって、耕うん機はシーズン中にそうそう何度も登場する機械ではないという点です。もしかすると、耕うん機だけでなく、ほとんどの農機具がそうかもしれませんが…。

シーズン中、耕うん機が登場する機会は?


機械に投資して通常3日かかる作業が1日で終わるようになったとしても、年に1回しか使わないなら、単純に365日のうち2日分の時間を確保しただけになりますよね?

こう考えたら、その2日分に数十万円も投資するのはもったいない気がします。ですから、耕うん機の購入を検討する場合、ほかに費用対効果が大きい機械や設備がないかどうか、まず考えてみてから、購入に踏み切った方が利益につながるのではないでしょうか?

これを言うと「農機具屋がそれ言っちゃうの?」と驚かれるかもしれません。

藤原農機ではレンタルサービスも利用できる/筆者提供
藤原農機ではレンタルサービスも利用できる/筆者提供
でも、保管やメンテナンスにかかるスペース代やコスト、手間を考えた場合、もしかしたら農機具をレンタルした方がお得になるケースもありますので、大型機械に投資する前に、まずは作業そのものの見直しをしてほしいところです。

作業の見直しといっても、特別なことではありません。

例えば、一往復の時間を短くするためには、あらかじめ耕うん作業の障害となるような、圃場内の石ころ除去したり、土壌を柔らかくして耕しやすい環境を整えることが大切です。こういった準備をしておくことで、生育状況にも良い影響があります。

農機具選びを通じた利益アップの考え方はシンプル

「農機具を賢く選んで利益アップ」というテーマの連載ですが、わたし個人は「儲かる農業」「稼げる農業」という言葉があまり好きではありません…。

なぜかというと、「儲かる」は目的ではなく手段ですし、「儲ける」ならまだわかりますが、「儲かる」というキーワードには、「自らの力で農業経営を改善しよう」という前向きなパワーを感じないような気がするからです。

脱線しましたが、農機具をうまく使って利益をアップさせる、即ち「自分の農業を自分の力で儲かる体質にする」ための考え方は非常にシンプルです。

自分の農業を自分の力で儲かる体質に鍛える

ひとつめが、「作業工程を広くシンプルに考えること」。

耕うん機がいいか、トラクターがいいか、で悩むのではなく、準備から栽培〜収穫までのシーズンの流れを広い視点でとらえてみてください。

栽培から収穫までの流れを俯瞰で考える
栽培から収穫までの流れを俯瞰で考える
そのなかで、「耕うん機」を使う作業が何日分あるのかを考えてみましょう。

10日分の耕うん作業を1日に短縮したいのか、2日分を1日でやるのかによって、シーズン全体の流れに及ぼす影響が変わってきます。

その差に応じて、妥当なコスト(お金・時間など)を投入すると、農業経営の投資バランスが良くなって経営改善につながりやすくなります。

ハイスペックな機械を買っても使いこなせなければムダ


ふたつめが「機械の性能を最大限発揮できる環境を整える」です。

先ほどの耕す前に「石をどける」「土壌を改良して柔らかくする」というように、大きな農機具を購入しても、その能力が最大限発揮できなければ意味がありません。

極端な話、100の能力を持つ農機具でも、60%しか使えないのなら残りの40%は無駄になります。

だとしたら思考方法を変えて、能力が30しかなくても、その機能を2倍発揮させた方が費用対効果は高くなります。

かけたコストに対してどれだけの利益(お金・時間など)が得られるかという視点で分析すると、まだまだ無駄なコストをかけている経営者が多いように思います。

最後に重要なポイントがあります。「決めたことを最後までやりきる」です。

根性論みたいに聞こえますが、どれだけ素晴らしい考え方や方法を学んでも、それを実践しなければ意味がありません。

周囲から学ぶことも大切ですが、ほかの人の畑や成功事例ばかりを見て、行動には移さない経営者は非常に多いもの。これは農業ばかりに限りません。

日ごろ農業法人の経営者に接しながら、せっかく学んだことを経営に生かさないのはもったいないなぁ、と残念な気持ちになる場面は多々あります。

この記事が、これから耕うん作業に取りかかる皆さんにとって、コストバランスの考え方に少しでも役立てば嬉しいです。


この記事の執筆
東 直斗
東 直斗

ITエンジニアとして5年のキャリアを積んだ後、和歌山県の農機具専門会社「藤原農機」で10年にわたって、農機具の修理・販売から、国内最大級の農機具ECサイト「アグリズ」を運営し、農機具の宅配レンタルサービスを立ち上げる。2023年10月、藤原農機の100%子会社「クリアー」を設立し、農業をはじめとする小規模事業者の支援を開始

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