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Editor's Eyes 植物の大敵「うどんこ病」、菌に寄生するカビで感染防止 近畿大が発見!世界初

Editor's Eyes 植物の大敵「うどんこ病」、菌に寄生するカビで感染防止 近畿大が発見!世界初

野菜や果物、草花や樹木に至るまで、さまざまな植物で発生する「うどんこ病」。

この病気が発生すると、葉や茎の表面にうどんの粉をふりかけたような白い斑点が現れ、そのままにしておくと白い部分が急速に広がって、開花しなくなったり、糖度が低下したり、果実が肥大しないなど収穫に影響します。

家庭菜園や街路樹など、身近なところで頻発する病気なので、園芸用から農業用まで、さまざまな殺菌剤が発売されていますが、近年、農薬が効きにくい耐性菌も報告されており、環境に負荷をかけない新しい防除法の開発が急がれています。

園芸農家の大敵・うどんこ病を、自然界に存在するカビを利用して防除する方法を近畿大学の研究グループが見つけました!(画像はうどんこ病が発生したメロンの葉/野々村照雄・近畿大学教授提供)

この記事のポイント
・うどんこ病はほとんどの植物の大敵
・メロンうどんこ病に注目
・うどんこ病菌に寄生するカビを使う
・菌寄生菌をスプレー(噴霧)したうどんこ病菌はどうなるか?

うどんこ病はほとんどの植物の大敵

うどんこ病は、1万種以上の植物で発生すると言われていますが、その正体はカビの一種である「うどんこ病菌」です。

一言でうどんこ病と言っても感染する植物によって、さまざまな種類の菌が存在しますが、いずれも発生する時期は4〜11月、つまり植物の生育期にあたります。

先ほど、カビの一種と言いましたが、うどんこ病は湿度にあまり左右されず、比較的乾燥した環境でも発生するのが特徴です。そのため、冷涼で乾燥気味の場所でも油断は大敵です。

メロンうどんこ病に注目

メロンうどんこ病菌に寄生したカビ(左)とうどんこ病菌の分生子柄(ぶんせいしへい)(子孫胞子を作る構造体)に形成された菌寄生菌の分生子殻(ぶんせいしかく)(菌寄生菌の子孫胞子を作る構造体)(右)/野々村照雄・近畿大学教授提供
左:メロンうどんこ病菌に寄生したカビ。右:うどんこ病菌の分生子柄(子孫胞子を作る構造体)に形成された菌寄生菌の分生子殻(菌寄生菌の子孫胞子を作る構造体)/野々村照雄・近畿大学教授提供
近畿大学農学研究科・アグリ技術革新研究所の野々村照雄教授らのグループは、メロンうどんこ病菌に着目。

メロンうどんこ病菌は、メロンと同じウリ科植物であるキュウリやカボチャなどにも感染します。メロンの場合、温室やハウス内でうどんこ病が蔓延すると甚大な被害をこうむります。

施設栽培と露地栽培のどちらでも発生するメロンうどんこ病は、生育後期の比較的湿度が低い時期に発生しやすい傾向があります。

研究グループはまず、高解像能デジタル顕微鏡を使って、メロンの葉にうどんこ病菌の胞子1個(単一胞子)を接種しました。すると、胞子から菌糸が伸びて、同心円状の菌叢(コロニー)ができます。

これがうどんこ病の特徴である白い斑点で、上の写真で言うと、菌糸が密集して全体に白っぽく見える部分です。実際の農業現場では白い斑点を見つけ次第、化学農薬を散布したり、酢や重曹をスプレーするなどの対策を講じなければ手遅れになります。

うどんこ病菌に寄生するカビを使う

うどんこ病菌を感染させたメロンの葉。コロニー形成後、5日(A)、10日(B)、15日(C)が過ぎた時点で菌寄生菌を培養した胞子液を噴霧させた。D〜Eのデジタル顕微鏡写真には、うどんこ病菌の胞子を放出する鎖状の分生子柄がとらえられている。右の写真で茶褐色に見えるのは菌寄生菌。若いうちは淡い黄色(Py1)だが、成長すると色が濃くなる(Py2)。(出典:Agronomy 2023, 13(5), 1204)
メロンうどんこ病菌の胞子をメロンの葉に接種してから、5日目(A)、10日目(B)、15日目(C)に形成されたコロニーの写真。D〜Fは、A、B、Cのコロニーをデジタル顕微鏡で観察したうどんこ病菌の分生子柄。G~Iは、それぞれのコロニーに菌寄生菌の胞子液を噴霧し、その後、メロンうどんこ病菌のコロニー内に形成された菌寄生菌の分生子殻の写真。Py1は未成熟(淡い黄色)、Py2は成熟(濃く茶色)した分生子殻を示す。(出典:Agronomy 2023, 13(5), 1204)

研究グループは、うどんこ病菌のコロニー内に形成された、菌寄生菌の子孫胞子を作る源となる「分生子殻(ぶんせいしかく)」をごく小さなガラス針を使って回収し、胞子液を作製した後、メロンうどんこ病菌のコロニーにスプレーで噴霧して、接種しました。

その結果、5日目と10日目のコロニー内に形成された菌寄生菌の胞子液を噴霧接種した場合では、それぞれ接種から約4日目と約8日目に子孫胞子の放出が停止しました。

一方、15日目のコロニーに菌寄生菌の胞子液を噴霧接種した場合では、一時的に子孫胞子の放出数が減ったものの、その後、再び増加に転じ、24日目まで放出が止まることはありませんでした。

菌寄生菌をスプレー(噴霧)したうどんこ病菌はどうなるか?

うどんこ病菌には寿命があるので、最終的に子孫胞子の放出はなくなります。そこで、コロニー内に残っている正常な分生子柄(子孫胞子を作る構造体)の数を計測しました。

菌寄生菌を処理したメロンうどんこ病菌の単一菌叢から静電気胞子回収装置で回収された子孫胞子数の測定と推移/野々村照雄・近畿大学教授提供
菌寄生菌を処理したメロンうどんこ病菌のコロニーから回収された子孫胞子数の数と推移/野々村照雄・近畿大学教授提供

その結果、菌寄生菌を噴霧しなかった5日目のコロニーでは、うどんこ病菌の胞子を接種してから寿命が終わるまで、11万8,484個の子孫胞子が放出されていたのに対して、5日目のコロニーに菌寄生菌の胞子液を噴霧接種した場合では、288個しか子孫胞子の放出が見られませんでした。

また10日目のコロニーに菌寄生菌の胞子液を噴霧接種した場合では、962個にとどまりました。一方、15日目のコロニーに胞子液を噴霧接種した場合では、生涯の胞子放出数は7万2,734個にのぼったことから、うどんこ病菌に寄生する菌を、早い段階に噴霧接種することで、うどんこ病菌の胞子放出を抑えられることがわかりました。

さらに、子孫胞子の連続回収の結果から、メロンうどんこ病菌は、光があたらない夜間には、胞子の放出をほとんど行わないことも確認されています。

野々村教授は、「防除戦略を講じるためにも、病気を引き起こす原因となるうどんこ病菌自体の特性や特徴を明らかにする必要があります」として、今回のメロンうどんこ病の防除方法は、同じウリ科のキュウリやカボチャに感染するうどんこ病菌にも適用できると話しています。

現在は微生物の胞子を大量に得るための培養法などの研究を進めながら、大手農薬メーカーと連携して、2〜3年後を目途に、微生物を使った生物防除資材の実用化を目指して研究開発を進めています。

また、トマトやイチゴ、オオムギやアカクローバーのうどんこ病菌にも、同じ菌寄生菌の寄生が確認されていることから、メロン以外の作物のうどんこ病についても、さらに防除効果を研究していきたいと話しています。

この研究は、スイスの農業経営専門誌『Agronomy』電子版に掲載されました。

取材協力:近畿大学 農学部農業生産科学科 野々村照雄教授

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