全国各地で日夜、野生動物の被害が農家を悩ませています。
中山間地域に出没するイノシシやシカ、サルのほかに、最近では都市周辺でも、ハクビシンやアライグマなどの被害が珍しくなくなってきました。
背景には、野生動物の生息域と人間の生活圏が接近したことや、耕作放棄地の増大など、さまざまな要素が関係していますが、これからも鳥獣害は増減はあっても、ゼロになることはありません。
果樹の産地として和歌山県を拠点に、全国に向けて農機具のレンタルサービスを展開している藤原農機の東直斗さんは農機具のプロ!
今回は、そんな東さんが注目する鳥獣害対策グッズについてお話を伺いました!
東さんがオススメする優れものの防除グッズ
・販売台数No.1!人気の理由は安さだけじゃない。ニシデン産業のアニマルバスターNSD-5
・ねじりを加えた独自のワイヤーメッシュで軽量化と耐久性。ノブハラ のNEOスクリューメッシュ
・オオカミの尿成分で動物を寄せ付けず!フェンスと併用。ファイトクロームのKEEPOUT
農業は「備えあれば憂いなし」でいい
一般的な農機具屋やメーカーとは異なる視点でユニークな農機具を紹介するこの連載、早くも9回目を迎えました。
2023年は、早い時期からとにかく暑さが厳しく、ハウスや屋外での作業時間が長い皆さんも、熱中症には十分警戒されていることと思います。
私も数年前に農機具の修理をしていて、熱中症で病院のお世話になったことがあるので、それ以来、屋外で作業するときは、水分と塩分の補給に神経質になっています。「過ぎたるは、なお及ばざるがごとし」とは申しますが、農業にまつわることならば、備えすぎるぐらいでちょうど良いのではないでしょうか?
さて「備えあれば憂いなし」の視点から、本格的な収穫シーズンを前に、今回は“獣害対策”がテーマです。
農林水産省の調査(令和3年度「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」)によりますと、過去十年間の害獣による農作物被害(金額)は、ピーク時に比べると減少した地域もありますが、農家にとっては依然として深刻な問題です。
獣害対策については、地方自治体によっては補助金が出ている場合も多いので、すでに電気柵や箱ワナを購入したり、検討中の方もおられるのではないでしょうか?
「被害が多い」ということは、農機具や資材メーカーの出番ですから、電気柵やネット・フェンス・忌避剤など、新しい資材が次々に登場しており、「何を選べばいいのかわからん」と決めあぐねている方も多いでしょう。
そこで今回は、実際によく売れている防獣用品のなかから、特に人気のものをピックアップして、どんな現場で、どういう用途に適しているのか、私なりの視点で解説してまいりましょう。
販売台数No.1!人気の理由は安さだけじゃない。ニシデン産業のアニマルバスター
まずご紹介したいのが、防獣用品を語るときに避けて通れない“電気柵”です。畑のまわりに張り巡らせた専用のロープに電流を流して、侵入しようとした害獣がビリッと感電することで、ビックリして退散するという超便利なアイテムです。
電気柵に使う電流は、通常とは異なっていて、常時流れているわけではなく、通電時間は約1万分の1秒、計測できないくらい瞬間です。電柵ロープに高電圧が瞬間的に溜まる(帯びる)ため、乾燥した冬の季節に、静電気が帯電した物を触わったときに、指先にバチッ!とスパークした感じで放電します。
安全面に配慮して、触れたときにほんの一瞬だけ流れるものなので、動物を殺傷する能力はありませんし、人間が誤って触れてしまった場合でも影響はないのでご安心ください。とはいえ、痛みは十分に感じますので、進んで触りたくはないですが……(笑)。
電流の元となる本体部分は通常なら、プロ仕様で6~7万、家庭菜園用で2~3万くらいするのですが、今回ご紹介するニシデン産業の「アニマルバスター NSD-5」は、プロ向けにもかかわらず2万円前後と手頃なので、人気が高まっています。
農家のなかには、ちょっとした大工仕事や機械工作なら自分でできるよ!という腕に覚えがある人も珍しくありませんが、電気柵を自作しようとして下見に来られた人でさえ、「これだけ機能が充実していて、この値段ならコスパ最高!」と即購入を決めるお客さんも多く、藤原農機での販売台数はNo.1です。
「アニマルバスター NSD-5」は、12Vバッテリー、アルカリ乾電池、ソーラーパネルなど、さまざまな電源が使用できるのも魅力です。夜間だけの稼働にも対応していますし、プロ仕様なので電圧が下がりにくいため、補助金などを活用して複数台の設置がしやすい機種となっています。
電気柵の性能を比べる際、気にしたいのは「有効距離」、つまり電流を流す総延長距離です。
同じくらいの値段の家庭菜園用の場合、有効距離200mの製品がほとんどであるのに対して、アニマルバスターNSD-5はプロ向けの他社製品と同様、最大3,000mまで柵線を張ることが可能です。
これは柵線を1段で張った場合の距離になりますので、2段なら1,500mずつ、4段なら750mずつという計算になります。
地域によって、害獣の種類も異なりますから、イノシシなら鼻の高さに合わせて2~3段、シカなら飛び越えられない高さとくぐり抜けられない高さに4段、ハクビシンやアライグマなら低めの位置に複数段2~3段というように、必要に応じて柵線の段数を決めて使います。
野生動物も、柵線の位置や通電状態などを学習しますので、使わない冬の間は電気柵を撤去しておいたり、設置方法や圃場も、シーズンによって変えてみるのも有効です。
害獣対策は「これだけやっておけば100%安心!」という世界ではないのが難しいところで、人間と動物との知恵比べです。対策をしようにも、まず相手を知らなければどうにもなりませんよね。
電気柵の設置にあたっては、漏電遮断器や危険表示板の設置などが法令で義務付けられています。安全のためのガイドラインが公開されていますので、必ず取扱説明書を読んで設置にしてくださいね。
アニマルバスターNSD-5/ニシデン産業
本体外形 高さ35cm×幅21cm×奥行16cm
重量 約2.1kg
入力電源(別売)アルカリ乾電池(1.5V×8個)/鉛蓄電池バッテリー12V/ソーラーパネル
出力電圧(最大)9,000V
出力周期 1.0〜1.2秒
電気柵有効距離 約3,000m(※設置条件により異なる)
出力ランプ・出力音 作動時(約3,500V以上)に点灯し、ピッと音が鳴る
電池確認残量 強・中・弱の3段階 電池レベルが赤色になると、ピッピッピと連続音で電池交換時期を知らせる
電池寿命 約30日(1日12時間使用の場合※使用状況によって異なる)
付属品 危険表示板×3、アース棒3連×1、高圧線×1、本体取付金具×1、電池ケース×1、検電器×1、取扱説明書
※電柵コードや支柱、防獣ネット、高圧線なども同社にて取り扱いあり
▼製品に関するお問い合わせは製造元へ
ニシデン産業株式会社
メーカー公式サイト
▼藤原農機「アグリズ」での購入先
ねじりを加えた独自のワイヤーメッシュで軽量化と耐久性。NEOスクリューメッシュ
次にご紹介したいのが、「NEOスクリューメッシュ®︎」です。藤原農機が運営する農機具レンタルサービスのアグリズでは、「アニマル大柵戦」という商品名で販売していますが(笑)、本来は「ワイヤーメッシュ」と呼ばれる溶接金網です。
皆さんも、建設工事現場でコンクリートを流し込む際に、金網を骨材として強度を高めるようすを見たことがあると思いますが、製造元の株式会社ノブハラでは、本来なら人の目に触れないコンクリート内に仕込むはずのワイヤーメッシュに付加価値をつけました。
金網を田畑の周囲に打ち込んで、侵入防止用のフェンスとして獣害対策に使おうという発想です。
従来のワイヤーメッシュは断面が丸く、そのまま溶接するのに対して、ノブハラ製品は、断面を四角にしてねじりを加えてから溶接する特殊な加工技術が使われています。
ねじりを加えることで、容積が減るので軽量化を実現しつつ、強度が高いので、シカやイノシシがぶつかってきても安心。軽量でサビにくい亜鉛メッキ仕様ですから、女性一人でも設置しやすいのも嬉しいかぎり。
NEOスクリューメッシュ®︎は農業に特化した防獣用金網ですから、注目したいのはその形状です。地面に近い下段側の網目が細かくなっていますので、小動物の侵入防止にも効果的です。
サビ止めの亜鉛メッキ加工が施されている点もスグレもので、野外に設置するものですから、耐久期間を伸ばすためにも、メッキ加工のワイヤーメッシュがオススメです。
もちろん、これ1枚あればすべての害獣の侵入を防げるわけではありません。先ほどの電気柵や防獣ネットなどと組み合わせて使うことで、防獣効果がさらにアップします。
繰り返しになりますが、田畑にやってくる動物の特性をよく理解したうえで、被害現場に適した製品選びと、正しい方法で設置・管理するのが、防獣効果を高めてくれます。
NEOスクリューガードフェンス/株式会社ノブハラ
サイズ(高さ×幅) 標準在庫品 1.2m×2m
別注品 1.5m×2m、2.0m×2m
網目のサイズ 高さ8cm/18cm×幅21cm/22cm
※ワイヤーの直径は複数種類あるので、設置現場に応じて多種多様に作成できる
製品価格については販売店や特約店にお問い合わせください。(※鉄製品は原材料価格や為替の影響で変動します。)
▼製品に関する問い合わせは製造元へ
株式会社ノブハラ ℡0869-62-2340 営業時間 平日9:00〜18:00
メーカー公式サイト
▼藤原農機「アグリズ」での購入先
オオカミの尿成分で動物を寄せ付けず!フェンスと併用。ファイトクロームのKEEPOUT
最後にご紹介したいのが、株式会社ファイトクロームの忌避剤「KEEP OUT(キープアウト)」です。鳥や動物が本能的に嫌う匂いであるオオカミの尿の成分を分離・抽出して、濃縮した資材を畑に設置するものです。従来の製品が、畑に侵入しようとする害獣を物理的にシャットアウトするコンセプトであるのに対して、キープアウトは、動物を畑に近寄らせないようにするための資材です。
アメリカではもともと、クマやシカ、イノシシなどの天敵であるオオカミの尿100%で作られた忌避剤を使って、人間と野生動物の生活圏を棲み分けしており、製品の一部が日本にも紹介されています。
人体や自然環境への影響はありませんし、動物を傷つけるおそれがないため、国内でも果樹園などの獣害対策に広く使われてきましたが、天然の尿ゆえに、オオカミの健康状態や個体差によって効果が安定しなかったり、持続性に問題があると指摘されていました。
そこで、龍谷大学農学部の植野洋志名誉教授が尿成分を分析し、有効成分を取り出して濃縮する技術を開発。扱いやすいようにプラスチック製のスティックにした製品が生まれました。
設置方法はいたって簡単で、スティックをパキッと手で曲げると、内側のガラス製アンプルが割れて、スティック内部に溶液が満たされますので、あとは結束バンドで付けたい場所に吊るすだけです。1箱10本入りを5~10m間隔で設置すると、1反(10a)あたり15~25本、1町(1ha)あたり40~80本程度を必要とします。
設置の仕方によっては、ほ乳類だけではなく、農業用倉庫などに巣を作ろうとする鳥類にも効果があるといいます。
動物の足跡が残っている場所や、侵入経路などに設置することで、より効果が期待されます。同社が北海道や東北、愛知や島根県、九州各地で行った試験では7割以上の農家が効果を実感しています。
もちろん、雨の日などは一時的に効果が弱まる場合もありますし、これだけで100%安心ということはありません。メーカー側も、電気柵や防獣・防鳥ネットのほか、前述したワイヤーメッシュなどと併用することをすすめています。
また、気になる点としては、アンプルを割ってから3~6カ月間は効果が持続しますが、プラスチック製のため、畑からゴミを回収する必要がありますので、その点はお忘れなく。
KEEP OUT/ファイトクローム
ガラスアンプル入りスティックタイプ1箱10本
有効成分 オオカミの尿中の成分(高濃度ブレンド)
有効期間:使用開始時から約3〜6カ月
設置目安:5〜10m間隔で圃場に設置
※龍谷大学の特許(特開2020-03308)により製造
▼製品に関する問い合わせについては製造販売元へ
株式会社ファイトクローム
購入は、同社オンラインショップで10本入り1箱4,400円(送料・手数料・消費税込み)か、最寄りのJA農協・肥料販売店にて。
メーカー公式
オンラインショップ
▼農機「アグリズ」での購入ページ
いろいろな防獣資材をご紹介してきましたが、共通しているのは「害獣の特性をよく知ること」「1種類だけではなく複数で対策を重ねること」の2点です。
これは実は獣害対策に限った話ではなく、農機具を選ぶときも同じです。この認識が不足したまま、「有名メーカーだから良いだろう」「値段が高い(安い)から」というような理由で、“とりあえず”機械や資材を選んでしまって、せっかくの機能を使いこなせなかったり、中途半端だったりと、根本的な問題解決になっていないケースも多く見受けられます。
獣害対策は、あくまで”対策”であって“対処療法”です。
あまりにも獣害が多いようなら、地域の団体に相談して駆除や捕獲などを検討してみることも大事です。
獣害対策に正解はありませんから、ひとりで悩まず、資材の専門店や、近隣の農家に相談したり、WEBやSNSなどを使って、専門家のアドバイスを求めるのも参考になります。
そのうえで、自分の圃場に合った作戦をいろいろ考えてみて、これからの収穫シーズンに備えてみてくださいね!