全国各地で「6次産業化」についてセミナーや研修を行ってきた食農夢創の仲野真人さん。これまで、いくつかの事例を見てきましたが、成功のためには「ビジョン(あるべき姿)」を明確にすることがとても重要だといいます。
ポイント
・先進事例も最初は小さい規模から
・ビジョンを明確に
・6次産業化は登山と同じ
これまで4回に分けて、第1回「6次産業化2.0とは何か?」、第2回から4回にかけて「6次産業化の先進紹介」について述べてきました。
私はこれまでに合計100回以上のセミナーや研修を行ってきました。そこで先進事例を紹介すると、「先進事例のような6次産業化を自分でするのは無理」とすぐに諦めてしまう生産者が多いと実感しています。
しかし、事例紹介で私が伝えたいことは大きく2つあります。
ひとつ目は「先進事例も最初から今の規模ではなかった」ということです。
最初から成功している事業者はいません。どの事例も最初は小さい規模から始めています。沿革も含めて「どう成長してきたのか、自分はどの段階にいるのか」を考えて欲しいと思います。
もうひとつは、「先進事例で真似できることはすぐに真似する」ということです。全国でさまざまな6次産業化が取り組まれていて、品目や業態も多様です。その中で自分が取り組みたい6次産業化のモデルがあればそれをまずは真似してみましょう。しかし、そのモデルが自分の地域でも成功するとは限りません。試行錯誤しながら自分の地域に合ったオリジナルモデルに進化させていくことが求められます。
「ビジョン(あるべき姿)」を明確にする
では、6次産業化を成功させるためにはどうすればいいのでしょうか? そこで今回伝えたいことが、「ビジョン(あるべき姿)」の重要性です。第1回でお伝えしたように、6次産業化は「農林漁業者(第1次生産者)が生産だけでなく、加工・流通・販売等を統合的に取り扱うことで事業の付加価値を高める経営形態」で、それは「経営の多角化」です。
当然、これまで生産だけに特化してきた農林漁業者が加工・流通・販売まで取り組むためには乗り越えるべき課題が多く、しかも、その課題は事業モデルによって千差万別です。そのため、6次産業化の第一歩を踏み出すためには「5年後、10年後に自分達がどうありたいか」という「ビジョン(あるべき姿)」を明確することが重要です。
そして、その「ビジョン(あるべき姿)」と現状とのギャップこそが解決すべき課題であり、そのギャップを埋めるためにどういうことをしていくかを「事業計画」として考えていきましょう。
登山をイメージするとわかりやすいかもしれません。
登山をする人は当然、頂上を目指し、登山前に登頂ルートやスケジュールを考えます。しかし、実際に上り始めたら天候や体調不良などトラブルだらけです。その都度、計画を変更しながら登るでしょう。
6次産業化も登山と同じです。頂上(あるべき姿)を目指し、事業計画(登頂ルート・スケジュール)を立て、いざ進みだしたら状況に合わせて計画を修正・変更しながら進めていけばいつかは頂上(あるべき姿)に辿り着けます。逆を言えば、これまで失敗してきた6次産業化の多くは頂上(あるべき姿)が定まっていなかった、また登頂ルートやスケジュール(事業計画)があいまいだったので遭難してしまったと私は考えています。
夢のある食産業をつくろう!
最後に、農林漁業の可能性について触れたいと思います。
農林漁業はこれまで、農林水産物の「生産」に特化することを求められ、2次・3次産業と分断されてきました。しかし、今回の「6次産業化」を他産業との「連携」と捉えてみましょう。
例えば、
・地域の伝統食の継承や農泊といった農山漁村の魅力と観光需要を結びつける「農林漁業×観光」
・高齢化が進む中で機能性食材や介護食等の開発などの「農林漁業×医療」
・農林漁業の現場での障がい者雇用の推進等の「農林漁業×福祉」
・オリンピック・パラリンピックにおいて選手に提供する食材としてGAP認証の取得を推進するなどの「農林漁業×スポーツ」
・小中学校の学校給食における地産地消の推進などの「農業×教育」
・農地に設置した太陽光パネルの下で農作物を栽培するなどの「農林漁業×再生可能エネルギー」
・ドローンによる農薬散布や無人トラクターや自動収穫ロボットといった「農林漁業×IT・Iot・AI(スマート農業)」などのように、農林漁業と他産業とのコラボレーションによってその可能性は無限に広がるのです。
日本は山と海に囲まれ、四季があり、水資源も豊富な世界でも有数の農業大国です。地方にとって第1次産業は地域経済の基幹産業であることは間違いありません。
一方で、人口減少や少子高齢化、また地方では過疎化が進んでいて、その農林漁業が存続の危機に晒されているのも事実です。そんな今だからこそ、「6次産業化」の考え方を改めて認識し直し、農林漁業から、加工・流通・販売まで一体的に行い、さらには他産業ともコラボレーションしていくことによって、夢のある「食産業」へと創造していって欲しいと思っています。