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Editor's Eyes 注目の「推し農家」10人が集結!新規就農予備軍と一緒に農業の未来を語りつくすイベント 東京・銀座で開催(前編)

Editor's Eyes 注目の「推し農家」10人が集結!新規就農予備軍と一緒に農業の未来を語りつくすイベント 東京・銀座で開催(前編)

2024年2月17日土曜日。東京・銀座にあるフェニックスプラザでは、農業の魅力発信コンソーシアム(注1)によるトークセッションイベントが開催された。

トークセッションに登壇したのは、コンソーシアムに参画するYUIMEをはじめとする民間企業が注目する若手農業経営者10人。

この日は、アグリイノベーション大学校の卒業生や関東近県の農業大学校に通う生徒らにくわえて、食や農に興味を持っている一般参加者が全部で150人近く集まった。

これから就農を考えている「未来の農家予備軍」を前に、全国から駆けつけた10人の経営者が、就農のハードルや経営の面白さ、農業のこれからについて語り尽くす「未来農業フェスタ」の様子を前後編2回にわけてリポートする!(撮影:中山ノリ、取材:田川公子)

農家予備軍が気になる、就農のきっかけ。どうやったら経営はうまくいく?


「就農と経営」がテーマの第1部のトークセッションに登場したのは次の5人だ。

〜「マイナス」からの出発〜

親や祖父の仕事を引き継ぐ、いわゆる「親元就農」だったのは、栃木県益子市で養鶏場を営む薄羽(うすば)哲哉さん。



経営のノウハウや、既存の施設を引き継ぐことができる親元就農は、新規就農より少しは楽なのでは?と思うものの、先代の父は廃業する予定だった。

「大学院やイギリスのビジネススクールで学び、外資系市場調査会社でマーケティングを担当してきました。その間に、祖父が不当な値段で飼料を買わされ、不必要な支出が重なったことで父は廃業を決めていました」と薄羽さん。親たちがそこまでして築いてきたものを壊してはならないという使命感にくわえて妻の理解があったから、養鶏業を引き継ぐ決意をした。

今では鶏に井戸水を与え、トウモロコシや米、大豆の搾りかす、パプリカ、桑の葉などのブレンド飼料で育て、低コレステロールの卵を無洗で提供するなど、ほかとは違うブランド化を図っている。

〜激務の商社マンから、体にいい食品づくりへ〜

サラリーマンを辞め、6次産業化に参入したのは、3181(さいわい)ファームの龜山(かめやま)剛太郎さんだ。

龜山剛太郎さん
冷凍の玄米おむすびや、豆乳マヨネーズなど、健康志向の食品を扱う。大学卒業後、商社に勤め、月の半分は海外。昼夜を問わないハードな仕事にヘビースモーカー、ついに医師から肝硬変予備軍と宣告された。

身も心もボロボロになって、これからの人生を丸1年考えた。健康を損なって気づく、食の大切、そして農ビジネス。コロナ期、オンラインの「農コミュニティスクール」で勉強し、アグリイノベーション大学に入学して、週末は野菜の栽培実習に励んだ。自分は生産・製造はできないが、商社マンとしての知見を生かして、出口から考えた農に取り組むことならできるのでは、と現在の仕事に取り組むことにした変わり種だ。


〜将来、子どもたちもできる仕事にしたい〜

富山県富山市で、放牧型の養豚「悠牧豚」を生産する川瀬悠さんも、市場調査やその分析、販路拡大の仕事を経て富山に戻り、畜産業に参入した。マーケティングの仕事を通して、農家にこそ、マーケティングが必要なのではないかと感じていたが、直接のきっかけは、三男がハンディキャップをもって生まれたこと。

川瀬悠さん
川瀬悠さん
子どもたちと過ごす時間を増やしたい、将来、ハンディキャップのある人も働けるような仕事をつくりたいと30歳を過ぎて農業にチャレンジ。身近に強力ライバルのいる米やいちごではなく、富山の名水を生かすことができ、単価の高い豚に。それも、豚を放し飼いにするという、ユニークな飼育法で生産した豚で、生ハムもつくっている。

〜じいちゃんの晩白柚〜

祖父がつくっていた、人の頭よりも大きな、世界最大の柑橘、晩白柚(ばんペイゆ)農家を引き継いだのは熊本県、やつしろサイドファームの桑原健太さんだ。

桑原健太さん
桑原健太さん
大学は関東へ。農学部で開発経済を学んだが、農家実習の1週間が、思いのほか楽しかった。卒業するころには、農業に興味が向いており、熊本地震後、実家へ戻った。ただ、まわりの人たちから、「まずは一度社会人になれ」という周囲の強い勧めに従い、銀行員を経ての就農だ。

〜プロ野球投手からいちご農家へ〜

異業種からの転身で異色だったのは、中日ドラゴンズの投手から、神奈川県横浜市でいちご農園を開園にこぎつけたばかりの三ツ間卓也さんだ。

三ツ間卓也さん
三ツ間卓也さん
白球を、赤いいちごに持ち替えるきっかけになったのは、コロナ禍のステイホーム期間にあった。球場に行けない期間、自宅のベランダで始めたいちご栽培が、癒しでもあり、やりがいにもなった。息子が喜んで食べてくれたことが、セカンドキャリアを考えるうえでの後押しになった。

消費者のニーズを知ることが経営の成長につながる


祖父と父の養鶏場を引き継いだ薄羽さんだが、課題は販路を拡大することだった。「あと20~30年先には、地元の人口は2〜3割減るんです。それに気づいて、コロナになる前から産直ECに入っていったおかげで、コロナを乗り切ることができました。アンテナを高くして第ニ、第三の産直ECに変わるものを見つけることが必要です」。

「初期投資を最小にした」と語るのは、新規参入組、3181ファームの龜山剛太郎さん。「私は生産もしない、製造もしない。でもニーズを把握することはできる。健康志向の人やビーガンの人に向けて、あったらいいな、という商品を提案する。

買い上げた生産品に付加価値をつけて売る、製造者のところからのドロップイン、ドロップシップで直接送ってもらう。在庫ももちません」。冷凍おにぎり「玄米deむすび」は、全国に発送。一昨年はロサンゼルスでも販売した。コンパクトに始めた事業だが、渋谷の事務所に加え、最近ついに静岡県小山市に移住し、ニ拠点生活を始めるという。

土地をいかに取得するか?就農の最初のハードル


「メモしてください!!」と、声を大にするのは、いちご農園を始めたばかりの三ツ間さんだ。

プロ野球選手というブランドも通用しなかったのが、土地取得だった。野球選手としての自分を応援してくれる人たちが足を運びやすいように、いちご農園は横浜、と決めていた。

シーズンを逃すと、農園を開くのが1年遅れてしまう。家族の中でひとり横浜に先に引っ越し、グーグルマップで航空写真を見ては、ここは?という土地の持ち主を探して直接会いに行く。だが、プロ野球選手だったというと、土地の値段をふっかけてくる。あと1ヵ月遅かったらシーズンに間に合わない、というぎりぎりのときに土地の取得につながったのは、SNSのダイレクトメール。「いちご農園を開きたいんです」と発信していた三ツ間さんに連絡がきたのだという。

放牧豚の川瀬さんも、土地取得には苦労した。「そこはマーケティング畑の出身なので、調査をしては、電話をかけて聞きに行くっていうことを繰り返していました。思い立ったら電話、です」。

放牧を始めてからは、防疫の点から、あまり大勢の人の訪問を受けることには控えめだ。「生産は目立たないように。でも販売は目立つように」。単に値段の高いもの、ではなく、値段に応じた品質を考える。「事業の天井を決めて、規模のバランスを考えた、身の丈にあった経営を目指しています」。

第一部の終わりに、5人の推し農家から未来の農家予備軍の後輩へのメッセージを聞く。

異業種から就農する人には「前職で得たことを、生かしてほしい」「外からの視線は大切」という声が相次いだ。

「既存の農家の間に入るのに難しさもあるが、キャリアはきっと生きるはず」と薄羽さんが言えば、3181ファームの龜山さんは、「すべてのことをひとりでやることはできないので、自分が得手とすることはなんなのか、を見つめて、まず第一歩を踏みだしてほしい」という。

「キャリアとか年齢とか、立ち位置に関係なく、生産者だからこそのご縁を大事に、つながってほしい。農業をやってると心細い瞬間が必ずあります。そんなとき、相談できたり、愚痴をいえるようになると乗り越えられることもあります」と悠牧豚の川瀬さん。つい先日の震災で、石川県や富山県は被害を受けたが、復旧しているところもあるので、足を運んでほしい、という言葉も付け加えていた。

若い世代の桑原さんや三ツ間さんは、SNSを利用して、自分たちの目指していることを知ってもらい、応援につなげている。桑原さんは、クラウドファンディングを利用してキッチンカーを購入。晩白柚ほか、柑橘くだもののコールドジュースを販売する。「あと、ぼくは消防団に入りました(笑)」という。

世代の違う人たちとのコミュニケーションも、地域に根ざす「農」という仕事には必要なことなのだ。(→後編に続く)



注1)農業の魅力発信コンソーシアム
 少子高齢化によって深刻な担い手不足が進む農業界において、農業の生産基盤維持を目指して、これまで農業に縁がなかった人を含めて農業にチャレンジしていく人を増やすために、農業の現場で実際に活躍している農業者の姿を広く伝えることを通じて、他の職業にはない農業の魅力を伝えることを目的として設立されたプロジェクト。

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