インタビュー

【農地を守れ!農家ハンター②】デコポン畑が一夜で消えた!サイバーハンター誕生

熊本県の中央部に位置する宇城(うき)市。

鳥獣被害による農業への損害は、毎年150億円を超える。猪にデコポンを食い尽くされた熊本県のベテラン農家が「もう農業を辞める」と肩を落とす姿を見て、若手グループが立ち上がった! 全国に広がる農家ハンターの今を、フォトライター・高木あゆみさんが追う連載第2回。(熊本県の中央部に位置する宇城(うき)市。有明海に面した港町と、山里が合併してできた。熊本市内や空港へのアクセスも良く、温暖な気候で農作物の栽培が盛んだ)

ポイント
・農家と狩猟を両立させるには?
・罠を置いて終わりではない
・命を無駄にするな

宇城市の柑橘農園で収穫作業中

宇城市の柑橘農園で収穫作業中(写真:高木あゆみ)

離農……明日は我が身だ

「もう農業はやめようて、思うとたい」

2016年2月、熊本県宇城市で、長年柑橘類を育ててきたベテランのおばちゃんが離農を決意しました。収穫直前のデコポンを一晩で猪に食い尽くされたことで、畑に行くのがすっかり怖くなったのです。

危機感を募らせたのが、八代海に浮かぶ戸馳島(とばせじま)で洋ラン農家を営む宮川将人さん。同級生の稲葉達也さんを訪ねたときに、彼の母親から涙ながらに被害を訴えられました。宮川さんが住む三角(みすみ)地区では2000年ごろまで猪の生息は確認されていませんでしたが、わずか10年余りで、たびたび目撃されるようになりました。本腰を入れて駆除を始めましたが、ハンターが少ないため、被害は年々増える一方です。

農家も手をこまねいているわけではありません。網やテープで侵入を阻止したり、爆竹を鳴らしたりと試行錯誤の末、最後には電流を流す電気柵や、箱型の罠を設置するなどレベルアップしていきました。それでも猪の方が「うわて」となれば、万策尽きて、離農を選ぶ農家も少なくありません。

宮川さんは若手の農家仲間と話し合いを重ねました。今は自分の農地に被害がなくとも時間の問題です。人や車との接触事故も心配です。猪に荒らされて人が減り、管理の行き届かない土地が増えた結果、もっと鳥獣の居場所が増加する悪循環によって、やがて地域が衰退。「農地を守らなければ…」「地域に根付いた農家こそ、この問題に一番に向き合うべきだ」という結論に達しました。「くまもと☆農家ハンター」が誕生した瞬間です。

農家ハンター設立時の初顔合わせのようす

農家ハンター設立時の初顔合わせのようす

地域を守るリーダーになる!

2016年4月10日、農家ハンターの初顔合わせが行われ、県内各地から25人が集まりました。目的は鳥獣害対策ですが、もうひとつ大きなミッションを掲げています。それは消防団のように「地域を守るリーダーになる」ということでした。猪退治がゴールではなく、その先の地域活性化、地域創生を見据えた気持ちを込めて、ロゴマークに☆を入れているのです。

この初顔合わせから数日後、熊本を2度にわたる大地震が襲いました。農家ハンターのメンバーは、農産物を避難所に届けながら、「命にどう向き合うか」について深く考えるようになりました。農地を荒らす「害獣」が相手だとしても、命を奪うのは人間側の身勝手な都合です。宮川さんは今も後輩の若手メンバーに対して「命に対して謙虚であれ」と根気強く伝えています。2021年現在、農家ハンターのメンバーは130人、そのうち35人が狩猟免許を取得し、担当エリアで活動を続けています。

農家と狩猟の両立に何が必要か?

日々忙しい農作業を続けながら獣害対策に取り組むうえで課題となるのは、箱縄を見回る負担をどう軽減させるかという点です。代表の宮川さんが住む三角地区では、1人で10基以上の箱罠を仕掛けている人も多く、ひとつひとつを見て回るだけで数時間を要します。そこで、イマドキのハンターの強みを生かし、箱罠とインターネットをつなぐ通信技術(ICT)を取り入れました。

具体的には、猪が箱罠にかかった瞬間、自動的にスマートフォンに通知してくれるシステムです。遠隔操作で映像を受信することも可能です。当初は箱罠にかかった野生動物すべてにセンサーが反応することもありましたが、今では「楽天技術研究所」の協力を得て、猪だけを判別するシステムが開発されています。まさに「サイバー×農家ハンター」です。

猪が箱罠に入った瞬間

猪が箱罠に入った瞬間(自動撮影画像)

罠を置けば捕まるわけではない!

ハイテク機器をスマートに使いこなしているように思われますが、当初は試行錯誤の連続でした。餌の補充や確認、バッテリー切れがないか? 機械は正常に作動しているかどうか? を定期的に見回る必要があります。また、猪が好むような見通しの悪い場所は、電波が入りにくいなど、問題にぶつかるたびにひとつひとつ解決していきました。

猪が罠に入ったかどうかは、スマートフォンで確認

猪が罠に入ったかどうかは、スマートフォンで確認

箱罠は、餌を置いておきさえすれば、猪が自然に入ってくるものではなく、その生態を熟知する必要があります。猪はとても繊細なので、自然環境のちょっとした変化も見逃しません。罠を置くために木々を伐採した場所に、少しでも不自然さを感じれば、2度と近寄らなくなることも珍しくありません。実際、始めてから半年間は1頭も捕獲できませんでした。

筆者が取材した場所のうち、周囲に歩き回った足跡はあるのに、1度も捕獲できない箱罠がありました。そこで、猟友会のハンターに同行してもらったところ、「猪はあちらの方向からやってくるから、罠はこちら向きにして置きなさい」と、猪の行動を見越した改善点を伝授してくれたのです。

猪の生態や行動を熟知したうえで箱罠を設置する

猪の生態や行動を熟知したうえで箱罠を設置する

狩猟の素人ばかりで結成された農家ハンターは、プロの猟友会や野生動物の研究者の協力を得て、確実に技術を身につけ、経験を積みました。その結果、2020年には捕獲数が1000頭にまで増え、農作物の被害も減少しました!この、農家が立ち上がって共に学び、地域を守り、捕獲するステージ(段階)を「農家ハンター1.0」と呼んでいます。

これまで順調に進んできたように見えますが、サイバーハントにはお金がかかります。あくまでも有志の活動ですから、箱罠や発信機を購入するための資金をどう集めるか? そこでインターネットのクラウドファンディングを通じて、活動に賛同してくれる人を全国から募りました。

クラウドファンディングでは、思いやストーリーも伝えられるため、共感してくれた人の期待が投資につながり、同時にファンも獲得できます。くまもと農家☆ハンターは、これまでにクラウドファンディングを5回行って、全国各地の638人から、総額970万円の支援を集めました。成功した秘訣は、支援者の期待を超えるほどのジビエや、メンバーが育てた農産物を返礼品として贈ったことにありました。

大変なのは、捕まえたあと

捕獲の次は、罠にかかった猪にとどめを刺す作業が待っています。活動を始めた当初は、槍しかなく、1頭を処理するのに1時間半もかかりました。猪の生命力・蘇生力は強いのです。今は電気ショッカーを使って、昏倒させて動きを封じたうえ、命を奪います。罠猟のなかでも最も難しく、事故が起こる危険性が高い作業です。

箱罠に捕まった猪

箱罠に捕まった猪

現場のリーダーである稲葉さんは、活動開始から5年を迎える今も、「猪の命を奪うことに慣れることはない」と言います。親子連れが相手だと、そのつらさはなおさらです。ウリ坊は人間に向かって無邪気に近寄ってくることもあります。かわいいからと言って、ここで逃がしてしまうと、1年後には成獣となり、人里に現れるおそれがあるため、必ず処理しなければなりません。獣害問題は、誰かがやらなければ深刻化する一方ですが、大義だけでは割り切れない苦しみを常に感じています。

当初、殺処分した猪はすべて土に埋めていました。というのも、三角地区には猪肉を食べる文化がなく、活用する技術も場所もなかったため、それしかできなかったのです。しかし、宮川さんたちはずっと「我々、人間の都合で命を奪った猪を、ただ埋めるだけなんて」と、もどかしさを感じていました。

そこで命への感謝を込めて、肉の解体処理ができる「ジビエファーム」を作ることを決めました。しかも行政に頼らず、民間の力で……。いよいよ農家ハンターは第二段階に進化します。次回は起業して、ジビエ施設を建設し、無駄を排した「農家ハンター2.0」のお話です。どうぞお楽しみに!

プロフィール
高木あゆみ(たかき・あゆみ)/はちどりphoto代表、フォトグラファー。◎小学6年生からインスタントカメラやコンパクトカメラで撮影を始める。18〜30歳まで熊本でフェアトレードの活動に参加。2006年にはベトナムへ留学し、首都ハノイを拠点として地方の農村取材や農家との交流。2014年にはフリーランスになり、以後はドキュメンタリーフォトグラファーとして、欧州や中東14カ国29都市を取材したり、農家や職人取材に力を入れる。

【農地を守れ!農家ハンター①】連載第1回はこちら→被害額 年158億円!迫る離農の危機

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