コラム

【農家が現場でできる経営改善②】「人が辞めない」良いチームを作るために工夫したこと

 「家業から事業へ」をスローガンに業務改善を行い、梨の直販率を99%に上げた栃木県宇都宮市にある阿部梨園。その立役者として注目を受ける佐川友彦さんは、小規模農家では珍しい畑には出ないマネージャーとして、バックオフィスで経営改善を行ってきた。この連載では、佐川さんの体験をもとに、農家のための「現場でできる」経営改善ノウハウを聞いていく。第2回では佐川さん自身が、コミュニケーションの取り方や、人材マネジメントにおいて工夫したことについて聞いた。

第1回 【農家が現場でできる経営改善①】異業種から農家の「右腕」になって一番驚いたこと

ポイント
・信頼関係を築く
・プロジェクトは可視化してスタッフに共有する
・簡易な企画書を作りまめに提案する
・「雇用保険に加入すること」や「給与明細を発行すること」など最低限の労務を整える

まずは地道に信頼関係を築くことから始めた

私が働き始めた頃の阿部梨園のスタッフは、正規従業員が1名、通年のパートスタッフが1名、繁忙期には短期のパートスタッフが15〜25人いました。阿部梨園のインターンを始めたころ、私が事務所で何をしているか、ほかのスタッフには分かりにくかったかもしれません。

しかし、私が今阿部梨園で取り組んでいることや、今後やりたいことを理解してもらうことは後からでもできると思い、まずは人対人の信頼関係を築くことを意識しました。現場スタッフは私が農業に素人であることを前提に、現場の畑作業についてよく教えてくれました。

もちろん、私自身も確認したいことがあれば、現場を観察しに行くようにしていました。私は畑には出ないけれど、事務所兼現場スタッフの休憩室に毎日いたので、スタッフが約2時間おきに戻ってくると、コミュニケーションを取ったり、スタッフ同士の話に聞き耳を立てたりして、少しずつ現場のことを理解していきました。

プロジェクトは可視化してスタッフに共有する

序盤から心がけていたことは私が取り組んでいることを可視化して、スタッフに理解してもらうことです。インターン期間中に100件の経営改善プロジェクトを宣言した際には、結果が出ればその都度チームに共有するようにしていました。

また、代表である阿部が毎日朝礼で私が取り組んでいることをスタッフに伝え、「佐川くんに協力しよう」と呼びかけてくれていたことが大きかったと思います。畑で現場作業をしている時にでも、そんな風に私の話をしてくれていたようです。

雨が降っても、雪が降っても、毎日手を抜かずに畑作業をしているスタッフを見ていたので、私も事務所で中途半端な仕事はできないと気が引き締まりました。現場とバックオフィスでお互いにいい張り合いを持って仕事ができていたと思います。

簡易な企画書を作りまめに提案する

上司である阿部にはしっかり敬意を表すことを意識してきました。あくまでも私が提案する経営改善は梨作りを活かすためです。経営にまつわる判断責任は最終的には阿部が負います。ですから、私は一歩引いて阿部のベストな決断のサポートに徹してきました。

ただし、表面的な問題に注視しているだけでは、あまり関わる意味がありません。できるだけ本質的な部分、ときには触れにくい問題にも、タイミングを見計らって伝えるべきことはきちんと伝えるようにしてきました。思いついた時にはメモ程度ですが、企画書を作ってよく提案していました。

そこには改善案、目的、方法、気づいた経緯、所要時間、必要な経費、期待できる効果などをまとめていました。口頭で伝えるだけでは理解してもらいきれないところがあるので、結果的に企画書はうまく機能したと思います。また、こういう熱意の蓄積が阿部からの信頼獲得に繋がっていったのかもしれません。

ないと困るものから整える

経営改善を始めるにあたって、まず取り組んだことは最低限の労働条件を整えることです。ハーズバーグの二要因理論では動機付け要因と衛生要因という2つのモチベーション理論が提唱されています。「動機付け要因」とはあるとうれしい要素で、「衛生要因」はないと不満になる要素です。

例えば、「清潔である」、「法令遵守している」、「労働負荷が適度に管理されている」などの「労働条件」や「労働環境」はないとまずいものなので衛生要因に当たります。逆に例を挙げると、「給料がいい」や「やりがいがある」などはあるとうれしいものなので「動機付け要因」に当たります。

このように2つに大別した時に、まずは、「衛生要因」の埋め合わせから先に取り組んでいきました。例えば「雇用保険に加入すること」や「給与明細を発行すること」など最低限の労務を整えました。事務所の掃除を始めたこともその一貫でした。衛生要因が解消したら次に従業員のスキル評価をしてスタッフの賃金を調整したり、社会保険に加入したりしました。こうして楽しく働き続けたい職場になるように、一つずつ改善していきました。

佐川友彦さんプロフィール写真
佐川友彦(さがわ・ともひこ)/ファームサイド株式会社代表取締役、阿部梨園マネージャー◎東京大学農学部、同修士卒。外資メーカーDuPont社の研究開発職を経て、2014年9月より阿部梨園に参画。阿部梨園では代表阿部の右腕業を務める。生産に携わらず、農家が苦手とする経営管理、企画、経理会計、人事労務など、経営に関するオフィス機能を担当。さらにブランディングや広報、販売など営業面も担っている。小規模ながらスマート経営と、直売率99%超を達成した。阿部梨園の改善実例300件を公開するクラウドファンディングを実施し、300人以上から約450万円の支援を集めて話題を呼ぶ。その成果はオンラインメディア「阿部梨園の知恵袋|農家の小さな改善実例300」として無料公開されている。その後、ファームサイド株式会社を起業。講演活動や経営コンサルティングで全国各地を周り、農家の経営体質改善を旗振りしている。2020年9月、ダイヤモンド社より『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』を出版。

インタビュー=坊野美絵

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