コラム

【農家が現場でできる経営改善①】他業種から農家の「右腕」になって一番驚いたこと

「家業から事業へ」をスローガンに業務改善を行い、梨の直販率を99%に上げた栃木県宇都宮市にある阿部梨園。その立役者として注目を受ける佐川友彦さんは、小規模農家では珍しい畑には出ないマネージャーとして、バックオフィスで経営改善を行ってきた。この連載では、佐川さんの体験をもとに、主に人材活用や組織マネジメントを中心に、農家のための「現場でできる」経営改善ノウハウを聞いていく。

(写真上は阿部梨園の仲間たちと。上段左端が佐川さん。上段中央が阿部英生さん)

東大卒業後、大手外資系化学メーカーに就職するも挫折

初めまして。阿部梨園マネージャーの佐川友彦です。私が阿部梨園に入社するまでには少し紆余曲折がありました。もともと、私は環境保全に関心が高く、東京大学卒業後は大手外資系化学メーカーに就職し、太陽光パネルの研究をしていました。

早いうちにプロジェクトマネージャーを任され、仕事にはとてもやりがいを感じていたのですが、思うように成果を出せず、プロジェクトは失敗。プライドにぐっさりと傷が入り、気づいたころには鬱になっていました。初めての大きな挫折でした。

結局、就職4年で退職することになり、その後しばらく養生したり、働き方を見直したりしていくなかで「やりがい」よりも「無理なく働ける環境」を優先することに行き着きました。心機一転、仕事を探していると「阿部梨園」のインターンを紹介され、リハビリくらいの気持ちで参加してみることにしました。

阿部は当時、危機感を抱いていた

阿部梨園代表の阿部英生は、26歳の時に3代目として事業継承しました。理想の梨作りを求めて戦力増強しようと、私が阿部梨園のメンバーに加わる1、2年前に、初めて正規雇用を始めたそうです。

最初の社員はすごく熱心に梨の仕事をしてくれていたようですが、結婚を理由に退職されてしまいました。そんな経験から、美味しい梨作りを事業として続けていくためには、ただ自分がやってほしいことをやってもらうだけではいけないと気づいたそうです。経営や雇用について真剣に向き合う意識になったと聞いています。

一番驚いたことは経営を数値化できていなかったこと

インターン中は、梨の選果や梱包などの現場体験をしつつ、阿部梨園の経営について教えてもらうことにしました。まず「事業計画や財務諸表、生産や販売に関するデータなどを見せてほしい」と阿部に頼みました。そこで出されたデータを見て大きな衝撃を受けました。経営に関してまともに記録を残していなかったのです。例えば、梨の生産量の実数値がありませんでした。

阿部に聞いてみると「例年50トンくらいの収穫高で、今年は豊作だったから60トンぐらいかな」と実に曖昧な返事でした。そんなざっくりとしたデータでは事業計画を立てられません。同じように直売所での商品ごとの売上数も記録に残っておらず、1日の総額しか分からない状態でした。これでは、商品の値段設定など適正かどうかも判断できません。

次に、今までに蓄積したデータがないのであれば、阿部に経営について直接ヒアリングしてみることにしました。しかし、うまく言語化してもらえず、これも思うようにいきませんでした。

80%程度だった梨の直販率が99%を達成

ほかにも問題は山積み。本腰入れて、インターン期間に100件の業務改善を目指すことにしました。惜しくも、インターン期間中には73件までしか到達できませんでしたが、その後、阿部梨園に就職してからも改善を続け、最終的には500件に到達しました。一つ一つの改善はものすごく革新的なわけではなく、基本的なことですが、地道な経営改善を重ねていったことが功を奏し、私が関わる前は80%程度だった梨の直販率が99%を達成しました。

インターン後に交渉して決まった私の月給は、20万円です。小さな農家が私のような経営マネジメント専門のスタッフを雇うことは、なかなか難しいかもしれません。しかし、農作業と並行しながらも、小さな利益を上げることやコスト削減することで、経営を好転させる阿部梨園が試してきた方法を転用できるのではないかと思っています。

次回からは、実際に私が阿部梨園で取り組み、効果があった組織マネジメントの方法について紹介します。

佐川友彦(さがわ・ともひこ)/ファームサイド株式会社代表取締役、阿部梨園マネージャー◎東京大学農学部、同修士卒。外資メーカーDuPont社の研究開発職を経て、2014年9月より阿部梨園に参画。阿部梨園では代表阿部の右腕業を務める。生産に携わらず、農家が苦手とする経営管理、企画、経理会計、人事労務など、経営に関するオフィス機能を担当。さらにブランディングや広報、販売など営業面も担っている。小規模ながらスマート経営と、直売率99%超を達成した。阿部梨園の改善実例300件を公開するクラウドファンディングを実施し、300人以上から約450万円の支援を集めて話題を呼ぶ。その成果はオンラインメディア「阿部梨園の知恵袋|農家の小さな改善実例300」として無料公開されている。その後、ファームサイド株式会社を起業。講演活動や経営コンサルティングで全国各地を周り、農家の経営体質改善を旗振りしている。2020年9月、ダイヤモンド社より『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』を出版。

インタビュー=坊野美絵

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