インタビュー

【農家の事業承継】知らないと損する 資産を分割させない方法とは?

農家の事業承継に伴うさまざまな課題についてお伝えしてきた連載も、今回が最終回。先代から次の経営者に引き継ぐときに、ネックになるのが農業資産の分割、つまり財産分与の問題です。やり方を間違えると、農業が続けられなくなることも……。でもこの法律を知っていれば避けられるかもしれません!

ポイント
・農業資産を分割しない
・事業承継は先代が生きているうちに早く行う
・承継前に準備すべきこと

資産分割……何が問題か?

事業を継続するには家族経営の農家のような個人事業主の場合、事業用の資産を分割しないことが大事です。一方、農業法人の場合は株式の分割がこれにあたります。

農地の分割

農地の分割で農業の継続が難しくなることも…。(編集部制作)

なぜ分割しないことが大事なの?

農家にとっての事業用資産、つまり農地、建物、農業用機械や車両・運搬具などは、今後も農業を続けるうえで必須の財産ですから、それを分けることで差し障りが生じます。

法人の株式については、株数が議決権となりますから、過半数を保有していない場合、ひとりでは決める権利がないことになります。そして、株式を3分の2以上保有していれば、重要な事項に適用される特別決議もひとりで決められますから、安心です。

わかっていてもできない。なぜ?

ここまで説明してきましたが、現実には、ほとんどの人が分割は避けるべきだと知っています。それにもかかわらず、どうして起こるのでしょうか?その理由のひとつには「遺留分」の存在があります。

「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人(①配偶者、②子、①と②がいない場合には父母・祖父母 *兄弟姉妹は除く)の取り分であり、原則として法定相続分の半分が「遺留分」にあたります。

これらの遺留分は、被相続人(先代経営者)の意思にかかわらず、相続人全員が確保できるため、ほかの相続人が過大な財産を取得し、自分の取り分が遺留分よりも少なくなった場合には、「遺留分侵害額」に相当する金額の支払いを請求することができます。

農地を分割する羽目になったら農業が継続できなくなる

支払えなければ、農地を分割するか、資産を売却するか。

つまり、推定相続人(もしも、今相続が起こったとしたら相続人になる予定の人)が複数いる場合、後継者に事業用資産を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額に相当する金額の支払いを求められることがあります。

その結果、後継者は資産を処分せざるを得なくなり、それが分散してしまうことで、農業を継続できなくなるおそれがあるのです。

分割を避けるための法律

前回の連載でも触れた「経営承継円滑化法」という法律は、農家を含めた中小企業の承継に伴う遺産分割の問題についてもカバーしています。

経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例制度を活用すると、後継者と先代経営者の推定相続人全員(=遺留分を主張できる人)の合意のうえで、先代経営者から後継者に生前贈与された事業用資産の価額について、遺留分を算定するための財産の価額から除外(除外合意)できます。

遺留分算定の除外を受けることで、事業資産の分割が避けられる

遺留分算定の除外を受けることで、事業資産の分割が避けられる

遺留分の算定から除外を受けるためには、適用要件を満たしたうえで、「推定相続人全員の合意」を得て、「経済産業大臣の確認」及び「家庭裁判所の許可」を受けることが必要です。

個人事業者の場合、先代経営者と後継者は、それぞれ次の要件を満たす必要があります。

①先代経営者:合意又は贈与の時点までに3年以上事業を営んでいたこと。
承継する事業に係る「事業用資産」を全て贈与したこと。
②後継者:合意時点において個人事業者であること。先代経営者からの贈与などにより「事業用資産」を取得したこと。

事業承継は先代が生きているうちに早めに行うのがベスト

これまでの連載でも何度か触れてきましたが後継者が次の経営者にふさわしい能力を持つまで育成し、成長するには時間がかかります。

さらに、事業用資産や株式などの経営資源の譲渡については、専門家と一緒に時間をかけて検討する必要があると思います。

重要なのは、先代経営者が生きているうちに家族会議などで合意を得るとともに、後継者とふたりで事業承継計画を立てて、その計画にもとづいて進めていくことです。

経営の「見える化」と経営体の「磨き上げ」

近い将来に承継を考えている場合、先代経営者は後継者に経営状況を伝える必要があります。

そのためには、事業の仕組みはもちろん、今後も維持・成長させていくために、次の3つの「見える化」を行う必要があると思います。

①「事業」の見える化〜あなたの農家としての強みはどの部分にあるのか? などの分析です。
②「資産」の見える化〜あなたの個人資産を含め、事業をすすめるうえでの資産はどんなものがあり、状況はどうなっているのか? などを明らかにします。
③「財務」の見える化〜収入と支出の流れや、借入金の返済額、会計処理は適切かどうか? を明らかにします。

また、経営体の側では、後継者にとって魅力的な状況になるよう「磨き上げ」る必要があります。これは、将来にわたって事業を発展させるための計画を指すこともありますし、古くからのつながりや手法を見直して、未来に向けて改善することもあたります。

ここで挙げた「見える化」と「磨き上げ」は、事業承継まで待つ必要はありません。今すぐに準備しておきましょう!

事業承継のポイントをいくつかお伝えしました。とにかく一番大事なのは、先代が生きているうちに、なるべく早くから、事業承継計画を立てて、計画的に進めていくことです!

高田裕司

高田裕司(たかだ・ゆうじ)/特定非営利活動法人「日本プロ農業総合支援機構」上席コンサルタント◎農協観光で農協(JA)の旅行事業の開業支援などに携わったのち、2006年から働く方々へカウンセリングやコーチング、経営コンサルタント業務を開始し、これまでに800人以上の相談を受ける。2008年から現職で、農家を対象にした事業承継や働き方改革、人材育成などの支援や計画プランの策定、農畜産物販売の支援事業などを担当する。

【農家の事業承継】これまでの連載
第1回 農業経営のプロに聞いた!3つのハードルとは?
第2回 事業承継カウントダウン、生前退位に学べ!
第3回 事業承継の計画づくり 誰がやる?
第4回 事業承継はリレーのバトンパス
第5回 子供に「継いでくれ」と言えない バトンパスを誰に渡す?
第6回 あとつぎ探しは恋活・婚活と同じ
第7回 婚活の次は何する?相談できる関係をつくろう!
第8回 農業がこの先100年続くために何をする?
第9回 税金いくらかかる? 相続税・贈与税を軽くする方法

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