インタビュー

【農家の後継者不足】農業がこの先 100年続くために何をする?

富山県で水稲種子農家を営む伊東悠太郎さんは、突然、家業を継がなければならなくなった苦い経験から、後継者が農業経営者の自覚を持つためには、早くから計画をたてて準備を進めることがいかに重要かを考えるようになりました。「あとを継いでくれ」と頼むのではなく、子供たちが自発的に「農業をやりたい」と思うようになれば、農業の未来は変わります!そのために何ができるでしょうか?

ポイント
・未来に続く農業
・有形・無形を引き継ぐ意味
・いつでもあとを継げる状態に

100年続く事業がどれほど尊いか?

世の中に数多(あまた)ある企業のうち、創業から30年間続く企業は半分以下、100年続く企業はわずか2%と言われています。続くことが必ずしも良いかどうかはわかりませんが、社会が変革していくなかで、⻑く続けるということは並大抵のことではありません。

そう考えると脈々と受け継がれてきている農業という営みを、さらに次世代へつないでいくこと自体に価値があるのではないか? と思います。

年数が⻑くなればなるほど続けることの難易度が高くなっていくわけですが、だからこそこれまでになく事業承継が重要になってきているのだろうと思います。

あなたの農業経営は魅力的か?

日ごろから、「農業は儲からない」「土日も夜もなければ休みもない」「農業政策が悪いんだ」などとネガティブな言葉を発してはいませんか?

気づかぬうちにそんな言葉を口に出してしまう気持ちはよくわかりますが、それでは後継者の確保・育成は難しいのではないでしょうか? そんなことを言い続けている経営者のもとで、あとを継ぎたいと思う人がいるでしょうか?

また、圧倒的多数の人が、儲かる農業=魅力的な農業だと言います。もちろん正しいと思いますが、本当にそれだけでしょうか?

廃業届

黒字経営なのに廃業する理由は?

金銭面以外の部分で説明できることはないでしょうか? 中小企業界では、黑字経営なのに廃業したり、解散する企業が増加しています。

一定の利益を出していても、あとを継がないのはなぜでしょうか?なぜこの地で農業をするのか、なぜその作物を育てるのかなど、金銭的な理由以外に何が原因なのかに着目して考える必要があるのだと思います。

目に見えないものを承継する意味とは?

金銭面(収入)以外に、後継者に示せる魅力は何があるでしょうか?

例えば、経営理念やミッション、ビジョンもあるでしょうし、家訓・社訓や家系図・沿革も良いかもしれません。

目に見えるものの事業承継は比較的簡単ですが、目に見えないものの事業承継は厄介です。目に見えないので、それがないと、どうなのかというイメージが湧きにくいからです。経営理念がないと困るかと言われれば、困りません。ミッション、ビジョンがないと困るかと言われれば困りません。

しかし、あって困ることもないと思いますし、むしろそれを見た後継者の心に刺さるものがあるかもしれません。

ちなみに、私がサラリーマンを辞めて就農することを決断した一番の理由は、亡くなった祖父が生前にまとめてくれた家系図を父親が見せてくれたことでした。我が家は地元のお寺が焼失し、初代伊東仁太郎(生年月日不明)と妻・しよ(1822(文政5)年生まれ)までしか、さかのぼれませんでしたが、私は少なくとも七代目伊東仁太郎にあたることがわかりました。

お金ではなく、家系が続いてきていること自体に意味を感じてしまったのです。

筆者が「農家を継ごう」と決断するきっかけとなった家系図

筆者が「農家を継ごう」と決断するきっかけとなった家系図

ノウハウは誰もが共有できるように

農業界には、他の産業界では当たり前にやられていることが当たり前ではない場面がとても多いなぁと実感しています。

例えば、「あれ、これ、それ」で説明される作業指示や、「見て覚えろ」で済まされる人材育成、親世代の頭のなかだけで完結されてしまっているノウハウ、文字や図になっておらず、 話し言葉だけで教える「口伝(くでん)」の技など、例を挙げればキリがありませんが、こういったことを誰でも共有できる状態にしておくことが大事だと思います。

YUIMEでも連載されている阿部梨園の知恵袋のように、小さな経営改善を積む重ねていくのも、事業承継のタイミングが最適だと思います。

また、私がサラリーマン時代に開発に携わったJA全農営農管理システム「Z−GIS(Zen-noh Geographic Information System)」もおすすめです。地図上の圃場と Excelソフトが合体しただけというシンプルな作りで、作付計画や圃場ごとの作業内容・収穫量などが管理できます。効率的に営農できるシステムなので、世代交代の際のツールとして、多くの農家に利用されています。

営農

筆者が開発に携わったZ-GIS画面の一部。充実した機能が好評だ(提供:JA全農種総合対策部スマート農業推進課)

あした経営者がいなくなってもまわせる状態に

私が就農したのは、親の病気が原因で突然のことだったため、準備期間が無く、本当に苦しい思いをしました。

小さな頃から農業を手伝いながら育ってきたので、あとを継いだ当初は、ひとりでもある程度はできると思っていましたが、全然そんなことはありませんでした。

だからこそ、親(経営者)がいなくなっても、営農できる状態を整えておくこと、そのための準備(計画)をたてることの重要性を痛感しています。

経営者がいなくなったときに、後継者や親族、従業員だけで農業経営がスムーズにできる状態かどうか確認し、できていないことをしっかりと整備していくことが重要です。それが経営者としての最後の仕事といっても過言ではありません。

お米と子供の手

農業が魅力的なら、子供たちが自発的にやりたいという日が来る

後継者が自発的に継ぎたくなる職業に

私も水稲種子農家で、父親からバトンパスをされた身ですが、次に「バトンを誰に渡すか?」 と問われれば、迷いなく「息子」と答えたいです。

ただし、「継げ」と命令するものではなく、息子の方から自発的に「継ぎたい」と言ってくれるようにしたいと思っています。

なぜならば、息子が自分で継ぎたいと思えるような農業でなければ、近隣の農家に引き継ぐ集落営農であろうが、農業法人であろうが、新規の就農者だろうが、血縁以外の方々に継いでもらえるものではないと思うからです。

逆説的に言えば、息子の方から「継ぎたい」と言ってくれる農業であれば、「継ぐに足る事業」なのではないかと思っています。

伊東悠太郎

伊東悠太郎(いとう・ゆうたろう)/水稲種子農家、農業界の役に立ちたい代表◎JA全農で事業承継支援を立ち上げて、事業承継ブックを発行。農業界初の事業承継士を取得し、全国で講演や研修を行う。現在は退職し、実家を継ぎ、本業の農業を続けながら、事業承継の啓発、研修、講演、執筆等を行っている。※事業承継ブックはJA全農のホームページでも内容を公開。現物は最寄りのJAへお問い合わせ下さい。

【農家の後継者不足】これまでの連載
第1回 農業経営のプロに聞いた!3つのハードルとは?
第2回 事業承継カウントダウン、生前退位に学べ! 
第3回 事業継承の計画づくり 誰がやる?
第4回 事業承継はリレーのバトンパス 
第5回 子供に「継いでくれ」とは言えない バトンを誰に渡す?
第6回 あとつぎ探しは恋活・婚活と同じ
第7回 婚活の次は何をする?相談できる関係をつくろう!

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