インタビュー

【農家の経営改善】「若い人材」に引き継ぐ努力を!

阿部梨園代表阿部英生さん(左)と佐川友彦さん(右)

「家業から事業へ」をスローガンに業務改善を行い、梨の直販率を99%に上げた栃木県宇都宮市にある阿部梨園。その立役者として注目を受ける佐川友彦さんは、小規模農家では珍しい畑には出ないマネージャーとして、バックオフィスで経営改善を行ってきました。この連載では、佐川さんの体験をもとに、主に人材活用や組織マネジメントを中心に、農家のための「現場でできる」経営改善ノウハウを聞いていきます。これまで4回にわたってノウハウを共有していただきましたが、最終回では今後の農業界の課題について伺いました。

ポイント
・合理的な経営管理なしに制度やツールは活かせない
・家族以外の人材を雇い客観的な視点を取り入れる
・従業員のキャリアプランを真剣に考え提示する

合理的な経営管理なしに制度やツールは活かせない

私は今、農業界には合理的な考え方や経営管理が一番必要だと思います。今までは、そういうことは一次産業では難しいと言われてきましたが、そこをなんとか覆したいのです。
今後、国の制度がもっと便利になったり、スマート農業などツールが発達したりしても、個々の農家の経営管理ができていなければ、制度やツールが活きて利益に繋がることはないと思っています。

そのために今、私が一番力を入れていることは「教育」です。

最近は日本各地の農業経営塾などで登壇することが増え、経営の基礎理論や経営戦略について農家さんにレクチャーしています。ビジネス書を1冊や2冊読んだくらいではなく、きちんと体系的に理屈を納得した上で実行できるように教育していきたいと思っています。

具体的に経営計画を立てて、アクションに移していくための知的なフレームワークはしっかり作りたいです。そういうものは他業界にはすでにあり、ビジネス書や、経営学部の教科書、インターネットにたくさん情報が出ていますが、農業のフォーマットに合うものはまだありません。

クラウドファンディングによって、経営改善例を共有するオンラインメディア「阿部梨園の知恵袋」を開設

家族以外の人材を雇い客観的な視点を取り入れる

講義をしていくなかで日本各地の農家さんの相談に乗ることも増えました。なかでも「事業承継」について悩んでいる声を多く聞きます。親子で意見が合わないなど、家族の問題はなかなか理屈では解決できません。

少人数の農業の現場は剥き出しのエゴや人間的な感情が非常に大きな割合を占めます。制度やルールを用いた会社的なアプローチではなかなか解決できないと感じています。

もしも家族だけで経営しているなら、今すぐニーズがなかったとしても少し無理をしてでも、外部雇用を進めるべきだと思います。自分たちに合ったやり方に変えていくためには、外の声を聞いて世の中に合わせた経営スタイルに移っていくことが必要だと思います。

とはいえ、外部の人材と一緒に仕事をしたり、自分たちに合う進め方を見つけたりするには、慣れるまでに時間が必要です。
家族だけだったら変えるまでもないことは多いと思うんですけれど、家族ではない外から雇用した従業員のために必要なことは、たくさんあるんですよね。数年かけてようやく最低限の経験値がたまるくらいかと思います。そうすると、なるべく早く人材確保をした方がいいでしょう。

外部からの目線を加えると、家族だけのやりとりや意見が少し客観視され、ニュートラルな経営に近づくのではないかと思います。

従業員のキャリアプランを真剣に考え提示する

農業をこの先ずっと続けていくには、若い人材に引き継いでもらうことが必要です。従業員に続けてもらいたいなら、しっかり給与を支払ってあげることと、従業員の将来を本人以上に真剣に考えてあげることが大切だと思います。

従業員は仕事を続けていくなかで、どういうスキルを身につけたらいいか、どういうキャリアがあるか、どれくらい給料を得て、どんな生活をしていくか、イメージがないと思うんですよ。どうしても限定的な情報で判断せざるを得ないので。少なくとも業務上の将来設計は経営者側が提示するべきだと思います。

提示するときには、経営者は従業員一人一人の将来のことを真剣に考えることができれば、従業員にも伝わり感謝やロイヤリティに繋がり、日々の業務やマネジメントもスムーズになるのではないかと思います。

阿部梨園のスタッフたち

国や自治体に働きかけて制度から見直す

今後は農林水産省や自治体に農業現場の内部の状況をもっと伝え、きちんと農業にまつわる制度を整備するとか、予算がつくような事業の実効性を高められるよう現場から働きかけていきたいと考えています。各所で動いてくださっている農家さんがいるので、その声が通りやすくなるようにいろいろ生意気を言う役もやっていければと思っています。

【農家が現場でできる経営改善】
①他業種から農家の「右腕」になって一番驚いたこと
②「人が辞めない」良いチームを作るために工夫したこと
③「ビジョンを言葉にすること」が農家に必須な理由
④目指せ!直販率倍増。ホームページに載せる情報とは?

 

佐川友彦さんプロフィール写真

佐川友彦(さがわ・ともひこ)/ファームサイド株式会社代表取締役、阿部梨園マネージャー◎東京大学農学部、同修士卒。外資メーカーDuPont社の研究開発職を経て、2014年9月より阿部梨園に参画。阿部梨園では代表阿部の右腕業を務める。生産に携わらず、農家が苦手とする経営管理、企画、経理会計、人事労務など、経営に関するオフィス機能を担当。さらにブランディングや広報、販売など営業面も担っている。小規模ながらスマート経営と、直売率99%超を達成した。その後、ファームサイド株式会社を起業。講演活動や経営コンサルティングで全国各地を周り、農家の経営体質改善を旗振りしている。2020年9月、ダイヤモンド社より『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』を出版。

インタビュー=坊野美絵

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