コラム

【農家の後継者不足】②事業承継カウントダウン、生前退位に学べ!

農家の事業承継のゴールとは

後継者不足は、どこの農家でも避けられぬ問題。二代目が決まったからといって、「安泰」ではないのです! 農業界初のプロの事業承継士として、JA全農でさまざまなサービスを生み出してきた伊東悠太郎さんは「天皇陛下の生前退位に学べ」と驚きの理論を披露してくれました。期待の連載第2回!

ポイント
・事業承継カウントダウン
・事例は自分で創るもの
・生前退位に学ぶべき

ゴールと期限を設定しよう!

事業承継と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

名義変更? 法人化? ……全員違うものを思い浮かべていると思います。
「経営者から後継者が事業を引き継ぐこと」と定義しても、今度は「じゃあ何をどう引き継いだら事業承継は完了なの?」という疑問が浮かびます。

この連載の第1回でお伝えしたようにあとつぎが決まったからといって、めでたしめでたしにはなりません。先代が築いた取引先との人脈や生産技術、経営者としての信用など、後継者はさまざまな資産を受け継ぐ必要があるのですから…。事業承継は定義が曖昧だからこそ、個々の経営体によって、異なる定義(ゴール)を設定する必要があるのです。

これって世界平和と似ていますね?何をしたら、どうなったら世界平和が実現できるのかはよくわからないし、人によってとらえ方は異なります。

だから、世界平和という曖昧な目標よりは、「障がい者スポーツのイベントでボランティアスタッフをする」「原爆ドームに行き、当時の状況を確認する」など、実現可能なゴールを設定し、それが達成できたら、次のゴールを設定するという繰り返しが良いのではないでしょうか?

事業承継の期限を決める

「事業承継」って、収益や目に見える結果にただちに結びつくわけではなく、相手がいる話なので、面白くもなんともありません。だからこそ、実現可能な小さなゴールをたくさん設定し、クリアし続けることで、モチベーションを維持するのが大切なのです。

もうひとつの課題は、期限がないという点です。相続や確定申告と違って、いつまでにやらなければならないという締め切りがないので、個々の経営体ごとにそれぞれ設定する必要があります。

「2021年8月31日までに原爆ドームに行く」というように、ゴールと期限はセットにして設定すると良いでしょう。また、年齢やライフイベントに合わせて、「子(後継者)が結婚して、25歳に到達する年の1月1日に法人化する」などと決めておくと、より具体的になります

期限を設定するメリットは、カウントダウンができるということです。決められた期限まであと何日かが明確になることで、1日ずつ消耗していきますから、「やらなければ!」という気持ちが日々強まります。

事業承継は十人十色。正解はない

事業承継支援をしていると、「事業承継の事例を教えてください」という質問を必ず受けますが、私はあまり意味がないと感じています。

なぜか? と言うのも、先例を紹介したところで、その経営体にあてはまることはほとんどないからです。

これは「夫婦関係がうまくいく秘訣は何ですか?」という質問によく似ています。たとえば回答者が「毎日“行ってきます”のハグをしてみては?」と助言しても、たいていの場合「いや、それは……」と口ごもることが多いもの。

夫と妻の関係性と同じように、経営者と後継者という関係性がある以上、事業承継と言うのは、100件100通り。完璧な事業承継は存在しないし、正解もなければ、不正解もなく、みんな違っていて良いのです。

何か型にはまったものを目指すということではなく、それぞれの経営体でオリジナルな事業承継を目指すべきなのです。大切なのは「先例を真似る」ではなく、そこから脱却して「自身の事例を創る」という意識です。

天皇陛下の生前退位にヒント

これからお知らせする話には、政治的・宗教的な意図はまったくありませんが、事業承継を考えるうえで、一番わかりやすく、共感をしてもらえるのではないかと思うのは、2019年4月30日の天皇(現・上皇)陛下の生前退位です。

象徴としての天皇の職務を続けることが難しいと、生前退位の意向を示した2016年8月のお言葉より(提供:宮内庁)

象徴としての天皇の職務を続けることが難しいと、生前退位の意向を示した2016年のお言葉(提供:宮内庁)

従来は、天皇陛下が崩御されるタイミングに合わせた代替わりが一般的でした。いつになるかわからない日に向かって準備しなければならない皇太子(現・天皇陛下)の心境はいかばかりだったでしょう?

それが生前退位の表明によって、バトン・パスの日が決まると、必然的にカウントダウンが始まります。特に皇室の場合は、さまざまな儀式が必要になりますので、何をしなければいけないかが明確です。さらに、代替わりに伴う予算審議や法律の制定というように、周囲も準備を進められます。先代が元気な間に、いつバトン・パスするかを対外的に発信することで、大きく物事が進んだのは皆さんも実感されたとおりです。

「昭和から平成へ」と「平成から令和へ」の代替わりに伴って、何が一番異なるかについて考えると、前者は国をあげて喪に服し、国民全体が自粛ムードを経験しましたが、後者は「みんなハッピー」だったのではないでしょうか?

事業承継も同様に、まわりの理解と祝意に包まれたなかで行いたいもの。皆さんもハッピーに事業承継を進めていけるように、これから一緒に考えていきましょう。

伊東悠太郎さん

著者(井関農機提供)

伊東悠太郎(いとう・ゆうたろう)/水稲種子農家、農業界の役に立ちたい代表◎JA全農で事業承継支援を立ち上げて、事業承継ブックを発行。農業界初の事業承継士を取得し、全国で講演や研修を行う。現在は退職し、実家を継ぎ、本業の農業を続けながら、事業承継の啓発、研修、講演、執筆等を行っている。※事業承継ブックはJA全農のホームページでも公開中。現物は最寄りのJAへお問い合わせを。https://www.zennoh.or.jp/tac/business.html

【後継者不足①】連載第1回はこちら→農業経営のプロに聞いた!3つのハードルとは?

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