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Editor’s Eyes 全国で高齢化する集落営農組織。第三者承継を成功させるカギは「最初にゴールを決めること」福井・グリーンファーム角屋─後編

Editor’s Eyes  全国で高齢化する集落営農組織。第三者承継を成功させるカギは「最初にゴールを決めること」福井・グリーンファーム角屋─後編

農家の高齢化は何も今に始まった問題ではありません。

あとつぎがいない農家の問題を解決するために、地縁的につながりがある集落単位で農業生産を共同で行おうと生まれたのが集落営農組織です。

耕作者が見つからないまま、荒れ果てていく農地の増加を食い止めようと、集落営農組織を作ることで農地の集約・集積を推し進め、機械や施設を共同で使うことで、生産コストを下げて地域の農業基盤を維持しようというのが狙いです。

全国に集落営農が広がったのは2007年〜2008年ごろですが、それから20年近く経った今、集落営農の構成メンバーの高齢化で組織自体を維持していくのが難しい局面に立たされています。

福井県の集落営農組織「グリーンファーム角屋」では2023年、隣の石川県からの移住者に経営権を引き継ぐ、第三者承継を行いました。

前編に続く後編では、これから増える集落営農の承継をどうやって成功に導くのか、農業界の事業承継士、伊東悠太郎さんがお話を伺います。

この記事のポイント
・全国に先駆けて始めた集落営農、高齢化も早かった
・法人従業員ののれん分けによる第三者承継
・最初にゴールの時期を決めておく
・担い手不足とは、農業経営者のこと
・「人・農地プラン」の行き詰まり


全国に先駆けて始めた集落営農、高齢化も早かった


石川県の農業法人で長年働いていた齋藤貴さんは2023年、福井県あわら市の「グリーンファーム角屋」の代表取締役に就任しました。

前回の記事では、齋藤さんがグリーンファーム角屋に雇用されて、経営権を継承するまでの流れや、全国の集落営農組織が直面している課題について伺いました。

ここで少しおさらいすると、集落営農が全国に広がったのは2007~08年ごろだとされていますが、グリーンファーム角屋の場合、全国に先駆けて1999年には集落営農として法人化していました。

そのため、構成メンバーである農家の高齢化も早く、設立後15年くらいから、農作業だけでなく、草取りや水の管理ができない農家も多く、組織維持の限界に達していました。

だからこそ、県外から移住してきた齋藤さんに反対する農家もおらず、雇用から7年後に経営権がスムーズに移譲されました。もちろんそこには、前経営者の坪田清孝会長と一緒に、地域社会に溶け込むためのさまざまな努力があったわけですが…。

法人従業員ののれん分けによる第三者承継


伊東悠太郎:ここで、ちょっと視点を変えますが、第三者への事業承継と言うことであれば、農業法人に雇用されている従業員への「のれん分けによる第三者承継」がもっと着目されるべきなんじゃないかと思っています。

雇用就農の場合、あくまでも従業員として就職しているわけですが、一定の経験を積んだのち、「独立して自分で経営してみたい」という人も出てくるのではないでしょうか? 私が考えているのは、そういった形で働く従業員が、後継者不在の経営体をバトンパスするイメージです。

飲食店でたとえたら、お店の設備や道具、お得意さんごと、居抜きで引き継いでいく…、それは特に後継者がいない集落営農組織がぴったりなのではないかと思っているのですが、そのモデルケースであるお二人はどのようにお考えですか?

坪田清孝:のれん分けを可能にするには、農地がたくさんなければ成り立たちません。福井県の場合は、耕作放棄地はあるけれど、のれん分けできる余剰農地は多くないのです。

齊藤貴:既存の集落営農組織には、人材育成の仕組みを持っているところが少ないと思うんです。多くの集落営農組織が、単に農地の維持管理を目的にしているだけで、成長して経営を伸ばそうという発想がないし、若い世代を、ただの労働者、オペレーター(※高齢化などの理由で、自分で管理できなくなった農機具の操作などの作業の一部、または全部を請け負う農家のこと)としてしか見ていない組織が多いのではないかと思います。

坪田:私もそう思います。齋藤さんのように、独立したいという人を受け入れる体制を作るのが一番良いでしょうね。

新規就農希望者も大事なのですが、農業経験が全くない人をゼロから育てるのはかなりハードルが高い。オペレーターとしては経験を積めば何とかなりますが、経営は勉強しないとできるものではありません。齋藤さんも社長になるまで7年かかりました。組織に加わって1~2年ですぐにバトンパスと言う話にはならないと思います。

伊東:従業員として雇用就農した人の場合、農作業、オペレーターの経験があるので即戦力にもなりますし、事業継承するうえでメリットになると思います。そうなると、現経営者と次の経営者が並走するのに、7年間は少し長い印象を受けます。もっと早く経営権を引き継いでも良さそうな気がしますが。

坪田:前編でも述べましたが、地域のなかで齊藤さんの認知度をあげるためには、やはりそれくらいの時間がかかりますし、経営権を移譲するには、齋藤さんの認知度と信頼度を高める必要があった。代表としての信頼度が求められるのです。

齊藤:私も最初の1~2年はそういうものだと思っていたので、特に焦りはなく、郷に入っては郷に従え、とばかりに角屋のやり方を学びました。その期間が過ぎたら、坪田さんとは共同経営者のような形で経営にも関わるようになったし、かなりやりたいようにやらせてもらっていたので、不満はなかったです。

グリーンファーム角屋
後列右から2人目が坪田さん、左から2人目のバンザイをしている男性が齋藤さん/グリーンファーム角屋提供

最初にゴールの時期を決めておく


伊東:私が心配するのは、前と次の経営者の並走期間が長くなればなるほど、決め手がなくなる恐れがあるのでは、と思うんです。社長交代の決め手はなんだったんでしょうか?

坪田:それは最初の段階から、承継時期(ゴール)をいつにするという計画で合意していたので、特に問題にならなかったですね。株式会社に移行し一元化を図ったのち執行役員を4年経験し、あとは経営者の交代で済むように準備を進めてきました。

齊藤:私も、そういう計画があったからこそ、安心して参画することができました。ゴールが見えているというのは精神的に大きな意味がありました。いつ経営権を譲ってもらえるかわからない環境でやっていたらしんどかったでしょうね。

伊東:やはり、ゴールまでの計画を作るのが大事ですね。これは一般化できそうというか、ほかの集落営農でもぜひ実践してほしいと思います。

担い手不足とは、農業経営者のこと


伊東:集落単位で農業生産を共同で取り組む集落営農は、2000年以降、15〜20年前に全国に広がり始め、やがて法人化しようという話に変わって、現在に至ります。

ここまで頑張って地域農業を守ってきたのに、構成するメンバーは設立時と変わらず、ただ年齢を重ねるだけで、後ろを振り向けば誰もついてきていない…。さて困ったという経営体が各地で相次いでいるにも関わらず、積極的に解決しようという動きはなかなか見えません。現状をどのようにお考えですか?

坪田:そういった組織には、「自分たちはまだやれる」という感覚があるんでしょうね(笑)。危機感がない。うちは1999年と早くから組織を立ち上げたから、その分、危機に早く気づきました。いや、本当は設立時からいつかこうなるとわかっていたんです。

高齢農家のなかには「自分たちはまだ営農できる」と思っているけれど、そんなのは時間の問題で、5年後、10年後には確実に立ち行かなくなるわけです。だからこそ、早く限界を感じることが大事なんです。

今、農業界で問題になっている「担い手不足」とは、単純な労働力不足ととらえているケースが多いのですが、それは間違っている。担い手とは「経営者」を指すべきなんです。いかに経営者候補の担い手を確保するかということに尽きるんです。

伊東:前編でも触れましたが、担い手がいないから、個々の集落営農同士を合併して、広域化すれば解決すると考える意見もありますね。

坪田:メガファーム構想は、どんどん農業に対する意識や、集落同士の絆が希薄になっていくでしょうね。それに合併したからと言って、後継者が確保できるわけでもないですから、そこは十分に理解しないといけないでしょうね。

「人・農地プラン」の行き詰まり


伊東:経営者世代でもそういったビジョンを描く人が必要ですね。

坪田:地域のリーダーの考え方が重要です。私の場合は、行政経験が長く、農業界の構造や仕組み、制度をよく知っていたのが一番大きかったと思います。経営が安定してうまくいっている集落営農組織は、JAや行政経験のある人がリーダーになっているケースが多いですね。

伊東:農水省は2012年、地域農業が直面するさまざまな問題について、その地域・集落で中心的な役割を果たす農業者(経営体)が中心となって話し合いで決めていき、農地の集約化を進めていく「人・農地プラン」を発表しました。高齢化や人口減少の問題は今後ますます深刻化するとして、施策を見直して現在は、「地域計画」に改称されました。

坪田:これまでの「人・農地プラン」もなかなかうまくいきませんでした。人と農地はそう簡単にはつながりませんからね。それは担い手が誰なのかがはっきりしないから仕方ない部分もあります。やはり経営者世代が、自分たちの限界を知り、その上で誰に農地を託していくのか、経営を託していくのかという話をしないと議論が進まないでしょうね。

伊東:「人・農地プラン」から「地域計画」に変わっても、看板を付け替えただけのように見えます。私が先日、事業承継の講演に行った地域では、「10年後、皆さんの農地を誰が耕すんでしょうか?」と質問したところ、70代の農家は、「10年後は80代になっているな!ワッハッハ」で終わってしまい、地域農業の危機なんて微塵も感じていないように思えました。

坪田さんがおっしゃるように、60代以上の現役世代の意識が変わってくれなければ、農業に新しい血は入っていきません。農村社会では、言いたいこと言えと言われても、後継者世代からは言いにくいですからね。

坪田:それと同時に、親世代の間でも「農業は儲からないから、子供に継がせたくない」と考える人が多いんです。私たちも「農業人フェア」に参加したことがありますが、やってくる若者は農業関連企業に就職したいだけで、実際に農業をやりたいと言うわけではありません。

福井県でも、就農希望者を支援する研修施設を運営していますが、卒業生のうち、まともに成功する若者は2〜3割にとどまります。「稼げる農業」「儲かる農業」を実現するための経営者を育てなければ、農業は活性化しないでしょう。

この記事の執筆

伊東悠太郎
富山県の水稲種子農家として生まれ、2009年にJA全農に入会。『事業承継ブック』の発行や、営農管理システム「Z-GIS」の開発などに携わる。2018年に退職し、実家を継いで就農。YUIMEでは専門家としてさまざまな農家の悩み相談にアドバイスを送るほか、農家の事業承継に関する連載を担当。近著『農家の事業承継ノート』、『今日からはじめる農家の事業承継(2万人の跡継ぎと考えた成功メソッド)』(いずれも竹本彰吾氏との共著/家の光協会)

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