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2021.07.19

6次産業化のプロに聞く!危機的状況にある日本茶を救う「スマート農業」

6次産業化のプロに聞く!危機的状況にある日本茶を救う「スマート農業」

日本文化の代名詞でもある、「お茶」の生産が今、危機に立たされています──。化学農薬だけに頼らない新しい農法や新しい技術を使ったスマート農法で、そのピンチをチャンスに変えたお茶農家が、鹿児島県志布志(しぶし)市にある鹿児島堀口製茶です。現在、欧米を含む世界10カ国以上に製品を輸出しています。6次産業化の成功事例を、食農夢創の仲野真人さんが解説します。

ポイント
・日本伝統のお茶の生産が危機に
・「健康」を軸に新しい顧客層の開発
・新しい技術と農法で付加価値を



衰退の危機にあるお茶の生産



日本の伝統文化と言って何を思い浮かべますか?

書道や茶道、能・狂言、歌舞伎、全国各地の祭りなど……。その世界に誇れる日本の伝統文化を支えてきた「茶」が時代の変化や潮流に巻き込まれて衰退の危機に瀕しています。

そもそも日本におけるお茶の起源は平安初期の805年頃に最長や空海ら遣唐使によって伝えられたと言われており、「日本後記」には815年に「嵯峨天皇に大僧都(だいそうず)永忠が近江の梵釈寺において茶を煎じて奉った」と記されています。

その後、鎌倉時代に茶道が拡がり、安土桃山時代に千利休によって確立されて以降、現代にいたるまで日本人にとって「茶」の文化は「いつも身近にあるもの」として長く親しまれています。

しかし、その「茶」が日本人のライフスタイルの変化とともに窮地に立たされているのです。ペットボトルでお茶が手軽に述べるようになった一方で、自宅にて急須でお茶を飲む文化が薄れてきたことで、これまで茶農家を支えていた「一番茶」を含めたお茶の相場が年々下がり続け、2017年には国内消費量を国内生産量が下回ったことによって価格の下落に拍車がかかりました。

新しい顧客層の開拓



さらに、今回の新型コロナウイルスの感染拡大によってさらに需要が落ち込み、2020年の茶相場は史上最低価格を更新しています。

そのなかで、地域の茶農家を支えるべく奮闘しているのが鹿児島県志布志市にある鹿児島堀口製茶有限会社です。

この会社は、契約農家を含めて約300ヘクタールと日本最大規模の茶畑を管理しており、有機JAS認証やASIAGAP認証、そしてお茶ではまだ珍しいレインフォレスト・アライアンス認証(=違法伐採や農地への転用などによる森林破壊を食い止めるための認証制度)など、幅広い認証に対応しています。

それに合わせて、国内最大規模の煎茶工場と、茶葉をひくための碾茶(てんちゃ)工場を持っており、2016年には、食品安全規格であるFSSC22000を荒茶・碾茶、仕上げ加工で一貫取得しています。余談ですが、緑茶と抹茶を作る工程は異なることから、緑茶を作るためには「煎茶工場」、抹茶を作るためには「碾茶工場」と、それぞれ別々に必要なのですが、このこと自体も一般的にはあまり知られていません。

また、1989年の法人化の際には、販売業務を担当する株式会社和香園を設立し、鹿児島県内の直営店の運営や「お茶×健康」をコンセプトにした「TEAET」ブランドを立ち上げて、新しい顧客層の開拓にも取り組んでいます。

お茶×健康をコンセプトにした「TEAET]ブランド
お茶×健康をコンセプトにした「TEAET]ブランド

さらに、蔵をリニューアルした創作茶膳レストラン「茶音の蔵」では、季節ごとにお茶を使用した創作料理を提供することで「お茶を食べる文化」も発信しており、まさに生産(1次)から加工(2次)、販売(3次)までを一気通貫で行う6次産業化を実践しています。

本店に併設されている創作茶膳レストラン「茶音の蔵」では、茶を使った創作料理が楽しめる
本店に併設されている創作茶膳レストラン「茶音の蔵」では、茶を使った創作料理が楽しめる

新しい農法と技術で付加価値に



注目したいのが、日本最大の茶畑を管理し、当社のビジネスモデルの根幹でもある「茶」の生産を支えている「スマート農業」による茶の生産基盤です。

同社は化学農薬だけに頼らないIPM農法(Integrated Pest Management=経済性を考慮しつつ、病害虫・雑草の発生を抑える農法)に「スマート農業」を組み合わせた「スマートIPM農法」を実践することによって、作業の効率化を図るとともに、品質の安定化も可能としています。

特にユニークなのが、冒頭で紹介している、病害虫や雑草と戦う5台のマシン「茶畑戦隊茶レンジャー」です。

例えば、1号機の「ハリケーンキング」は、台風の後に茶葉に取り付いた害虫が吹き飛ばされていたことをヒントに開発されました。水圧の高い水と強風で病害虫を蹴散らすことで、農薬使用を最小限に抑えるのが目的です。

また、3号機の「スチームバスター」は雑草をボイラーで発生させた270~300度の蒸気にさらすことによって翌日には完全に枯らすことができ、年間約6,000時間に及んでいた除草作業を大幅に削減するとともに除草剤を散布せずに済んでいます。

ほかにも、吸引力で害虫や異物を吸い込む2号機「サイクロン」や、米ぬか噴射で害虫を一掃する4号機「ブランジェット」、重労働のバロン巻き作業を楽にしてくれる「ブラックシャドウ」など、戦隊モノを彷彿とさせる頼もしい農機が揃っています。

残留農薬をクリアし「お茶」を世界へ



このような「スマートIPM農法」による次世代型農業を実践することで、堀口製茶は最大の課題である残留農薬量をクリアして、欧米を含む世界10ヵ国以上にお茶を輸出しており、その販路は国内外に拡がっています。

実際、日本食ブームを背景に緑茶の輸出額は2010年の約42億円から2019年の約146億円と10年間で約3.5倍に伸びています。

また農林水産物・食品の輸出は日本政府にとっても重要なテーマで、2030年に輸出額5兆円を目標として掲げていることから、まさに「茶の輸出」は国内の消費減少を補うだけでなく、日本食における伝統文化の代名詞としても期待されているのです。

堀口製茶は自社で茶の生産および煎茶・碾茶の加工を行うだけでなく、創作茶膳レストラン「茶音の蔵」にて「お茶を食べる文化」の普及にも取り組んでおり、「お茶の6次産業化」を強みとして国内のみならず世界へ羽ばたいていくことを期待しています。


仲野真人

仲野真人(なかの・まさと)◎2005年立教大学経済学部卒業後、野村證券入社。2011年野村アグリプランニング&アドバイザリーに出向、6次産業化分野を中心に地産地消や農林水産物・食品の輸出に携わり、全国の事例を調査。2019年退社し、食農夢創を創業、代表取締役に就任。「農林漁業」を「夢」のある「食産業」へ「創造する」をビジョンに全国各地で調査・研修・イベント、コンサルティング業務を行う。

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