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【世界の注目農業ニュース】米国「カーボン・ファーミング」/コロナの「冬の温室」/欧州「農業に興味を持つ都会人」

米国では2021年1月20日にジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式が行なわれ、新政権がスタート。ドナルド・トランプ前大統領下の政権から変わることによって、米国の農業に関わる人々にどのような影響が出てくるのだろうか? 長引く新型コロナウイルス感染における世界の農業はどんな状況なのだろうか? 米国ロサンゼルス在住のライター、藤本庸子が解説する世界の農業ニュース。

米国『 “カーボン・ファーミング” が本格化』

米国のトランプ前政権では、2020年11月4日に、地球温暖化対策の国際的な合意「パリ協定」から正式に離脱していたが、バイデン大統領は大統領就任式の初日(2021年1月20日)にさっそく「パリ協定」へ復帰するための文書に署名を行ない、2021年2月19日に復帰することが決定。積極的に地球温暖化対策への取り組みを始めている。

近年の米国の農業業界では、「温室効果ガス」の排出削減を目指す「カーボン・ファーミング(carbon farming)」(炭素農業。農地の土壌の質も向上させる方法)が注目されており、新政権で法制化が期待されている。法制化が実現すれば、農業生産者は温室効果ガスの削減に寄与することで報酬を得られるようになる。

地球温暖化の主な原因とされている「温室効果ガス」は世界中で問題になっており、農業関係者たちにとっても大きな課題だ。

2021年1月22日付けの米国ワシントンポスト紙では「カーボン・ファーミング」についての記事が掲載されていた。

The Washington Post 『Planting crops──and carbon, too』 by Gabriel Popkin, Jan.22, 2021

米国メリーランド州で農家を営むトレイ・ヒル(Trey Hill)さんの話が紹介されている。ヒルさんが収入を得ている主な作物はトウモロコシ、大豆、小麦。ヒルさんの農家は祖父の代から営む。

ヒルさんの祖父は冬には農地を休ませていたが、ヒルさんは違う。「1年中、地面を見ることがない」という。なぜなら、年間を通して、農地の土壌に何かの作物を栽培しており、常に緑色で覆われているからだ。例えば、トウモロコシを収穫した直後に、ライ麦、カブ、クローバーなどの種を植え、栽培する。その方が「土が健康でいられる」と信じている。「作物が大気中の二酸化炭素を吸収して、それを土に閉じ込めておくことによって、土壌は健康でいられるのだ」。

ヒルさんにとって最も重要なことは、自然に優しい農業の方法はもとより、地球温暖化対策となる農業の方法とのこと。

冬にクローバーを栽培し、土壌に二酸化炭素を貯蔵することで地球温暖化対策を試みる「カーボン・ファーミング」は、ヒルさんにとって重要な実験なのだ。土壌が健康になれば、最終的に、トウモロコシ、大豆、小麦など、収入をもたらす作物の収穫量が増えるとも考えている。「土壌の健康は気候変動の解決策にもなるはず」とヒルさんは話す。

バイデン新政権は、新政権スタート100日以内に、地球温暖化対策の一環でクローバーなどの被覆作物を栽培する、ヒルさんのような農家へ報酬を与え、「カーボン銀行(carbon bank)」と名付けたプログラムを設置するという。

日本でも話題になっている「カーボン・ファーミング」。地球温暖化対策の大きなソリューションになるのか? 今後の展開に期待したい。

米国『アメリカの “サラダボウル” が “コロナの温室”へ?』

米国にはさまざまな人種が移住し、さまざまな文化が存在する。さまざまな人種が住むロサンゼルスやニューヨークの大都市では、それぞれの文化が互いに混じり合って独特な文化を形成しているさまを「人種のるつぼ」と呼んできた。しかし、近年では「人種のサラダボウル」と呼ぶ。「混ぜても決して溶け合うことはない」と考え、さまざまな文化が共存するという意味の形容詞だ。そして、米国人の多くがランチに大きなボウルに入ったサラダを好んで食べる習慣の影響もあるのかもしれない。

その「サラダボウル」に入っている葉物野菜の、アメリカで冬のあいだに消費する90%を生産するのがアリゾナ州ユマ郡という。同地域は温暖な気候とコロラド川の灌漑地により、葉物野菜を栽培するのに理想的な場所で、冬に消費するレタスやブロッコリーなどの葉物野菜を生産することで有名となっている。「アメリカのサラダボウル」とニックネームまである。そのユマ郡がコロナ禍で全米で最も非常事態だという記事があるので紹介したい。

米国ニューヨークタイムズ紙の2021年1月22日付けの記事では、「 “アメリカのサラダボウル” が “コロナの冬の温室” と呼ばれてしまっている」と報道。アリゾナ州ユマ郡では、6人に1人がコロナ感染しており、全米で最も感染者が多い地域となっている。

The NY Times 『America’s salad bowl Becomes Fertile Ground for Covid-19』 By Miriam Jordan,Jan 22, 2021  

その原因は、冬に農業労働者の人口が急増する事情。毎年冬になると、同郡の人口は10万人増え、総人口は30万人超になる。同地域の教会では例年に比べて3倍多い葬儀が執り行われているという状況だ。

同地域はカリフォルニア州サンディエゴとアリゾナ州フェニックスという2つの大都市に挟まれた場所だが、病院が1軒しかなく、コロナ重病患者が他の都市へ輸送されている状態となっている。

農業労働者たちの多くは、仕事を逃したくないために病状が悪化するまで医者にかからなかったり、大勢の家族が狭い部屋で過ごしていたり、サンクスギビング(感謝祭)やクリスマスなどのお祝いで大勢の家族で集まったりしたため、新型コロナの犠牲になっているという。

メキシコから毎日何千人もの農業労働者が通勤したり、ゲストワーカー(期間限定の農業労働者)が町のモーテルに滞在している事情も大きな原因。米国に到着したメキシコ人の農業労働者たちに唾液を使った無料のコロナ検査(PCR検査)を行なっているが、若い農業労働者たちは働きたいがために検査を避ける者も目立ち、無症状のコロナ感染者が、農業の作業中に多くの農業労働者たちへ感染を広めてしまっているのが現状ともいう。

アリゾナ州当局の対応にも不備があった。他州やメキシコからやって来る農業労働者による人口増加を考慮していなかった。新型コロナウイルスがデマであると信じている住民とそうでない住民の間で議論が起こり、マスク着用を拒否する住民も多い問題への対応もうまくいっていない。

コロナ禍の今後の同地域の農業労働者たちの動向や、「アメリカのサラダボウル」(レタスをはじめとする葉物野菜)の生産量の変化なども注視したい。

ヨーロッパ『コロナ禍、農業へ興味を持つ都会人たち』

2021年1月22日付けの仏ユーロニュースで紹介された「コロナ禍、なぜ都会人たちは農業に興味を持つようになったのか?」という記事が興味深い。

euro news 『Why are agricultural escapes growing in popularity among urban dwellers?』 By Jenny Southan, Jan.22 2021

コロナ禍のロックダウン中に、都会に住む多くの人々は「どうやって野菜を育てるのか?」と食べ物の成り立ちに興味を持ち始め、ガーデニングを始めたり、自家製パンを作ったりするようになった。

その流れで、旅行の行き先にも変化があるという。都会の人々が自然や農業に興味を持って旅行をするため、「cultivacation(カルバケーション)」(cultivation / カルベーション-栽培)とvacation / バケーション-旅行)という混成語まで生まれている。

新型コロナ感染リスクの少ない、田舎や森林にある農場や牧場や自給自足のホテルなどで過ごし、果物や野菜を収穫したり、ニワトリから卵を直に集めたり、ハーブについて学んだりしたいと希望する人が増えているという。

UKの旅行会社Sornでは、「マスの燻製方法を学ぶ」「食用キノコの選別方法を学ぶ」などの “食道楽の冒険旅行” を企画。米国の旅行予約プラットフォームYonderでは、ブドウ園から釣りロッジまでのアウトドアや農業をテーマにした旅行を企画している。

国連の「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(Sustainable Development Solutions Network: SDSN)」の2020年報告書によると、人々が幸せでいられるのは自然に接していることが大きく影響しているとのこと。UKのスマートフォンアプリMappinessのユーザー2万人以上の幸福感を調べたところ、屋外にいて自然に接している時が最も幸福を感じられるとのこと。

「コロナ禍にアウトドアステイ」と名付けて、農家や農園が民宿を経営するのも手かもしれない。

文=藤本庸子(Yoko Fujimoto)

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