インタビュー

3つの農業参入障壁とは?日本最大の課題、人材不足をどう解決するか【前編】

2020年10月14日、幕張メッセで開催された農業WEEKにて、「農業のこれから【日本最大の課題、人手不足をいかに解決するか】」をテーマにトークセッションを開催した。登壇したのは、農林水産省 経営局 就農・女性課 課長の横田美香氏、日本農業新聞 記者 岡部孝典氏に加え、YUIMEの代表取締役の上野耕平の3名。政府として農家の課題解決に取り組む横田氏と、記者の立場から農家と政府をつなぐ役割を担っている岡部氏、そして、人材派遣事業を通じて農業の現場で直に課題を感じている上野。それぞれの視点から、農家が抱えている喫緊の課題と、いかにしてそれらを解決していくべきか、意見交換を行った。

岡部孝典(以下、岡部) 私は日本農業新聞で農政を中心に15年取材してきました。現在は農林水産省への取材チームのキャップをしています。
日本農業新聞では、読者のうち農業者を中心に約1100人を対象に農政モニター調査を定期的に実施しています。この調査でコロナによる影響を農家の方々に聞いてみたところ、65%が「影響がある」と回答されていました。詳しく聞くと、「取引先のレストランが閉店した」「結婚式がなくなって売り上げが減った」といった声がありました。また、人材面についても尋ねてみると「外国人の技能実習生の方が入ってこられない」と言った声がありました。
これらは、農家さんご自身だけでは解決できない問題なので、新型コロナウイルスによる影響の支援策を政府に求めている人が多いのかな、という印象を受けています。

横田美香(以下、横田) 農家の方々が抱えている課題として私がまずとりあげたいのが、人材の確保です。近年、農業を支える人材について、人数の減少と高齢化が急速に進んでいます。数字を見ると、昨年度の国内の農業就業人口は約168万人で、そのうち、60歳以上が7割を占めています。この状況は各国の農業の状況や、他の産業と比べても、非常にアンバランスな状況です。若い人たちにいかにして農業という“食を確保する”非常に大事な産業に就いていただくかが課題になっています。
さらに、地域においては女性の流出も大きな問題です。学校に行く段階で男女共に若者は農村から出て行きますが、帰ってくる割合に男女差があり、男性よりも女性の方が低いという結果が出ています。その理由の一つとして、農業や農村部が女性にとって働きにくい環境であることも考えられます。女性が働きやすい環境を整えることも課題です。

上野耕平(以下、上野) YUIMEが農業事業に参入したのは8年ほど前です。正確に言うと、YUIMEは今年7月に社名変更したばかりで、参入した当時はYUIMEの前身のエイブリッジとして人材派遣を行っていました。エイブリッジでは、はじめはコールセンターやBPO(業務プロセスの外部委託)に対してのテクニカルスタッフの派遣を行なっていたのですが、あるとき、友人から「同じ人材派遣で農業事業に参入しないか」と声をかけてもらいました。その時に紹介して頂いたのが、沖縄県南大東島の大東糖業さんという、サトウキビの農家さんでした。
大東糖業にお話をうかがってみると、農家さんは地域にいるお手伝いをしてくださる方々で収穫期を乗り越えていることがわかりました。農業は季節によって繁閑の差が激しいので通年雇用が難しく、繁忙期となる収穫の時期だけ近所の人や家族に手伝ってもらって人手を増やしていました。しかし、そのお手伝いの方達のほとんどが、75歳から80歳になってしまった。作業に従事できないくらい高齢化が進み、収穫作業をできる人手が不足し、収穫ができないから植え付けを減らす、総じて収穫量を減らす、ということが起きていました。
ただ、南大東島は主たる産業がサトウキビしかなく、サトウキビの収穫がなくなってしまうと島から人がいなくなってしまうわけです。ですので、なんとかしてサトウキビ農家を持続させなくてはいけないと。そこで、うちが全国から人を集めて派遣させていただいたのが始まりでした。
こうした人手不足や、それによる収穫量の減少は今も各地で深刻化していて、こういった課題の解決に取り組んでいかなくてはいけないと感じています。

就農へのハードルとは?

岡部 私も農業の人材不足については、ここ数年特に関心をもって取材しています。収穫作業のアルバイトすら雇えないと急に聞くようになったのは、5年くらい前でしょうか。同時に、その頃からどの産業も人手不足が深刻になっていて、有効求人倍率はバブル期を超えるような数字になっていきました。特に農業は季節によって繁閑があり、収穫の時期が終わると仕事がなくなってしまう。そのうえ肉体労働だから、人が集まらない。それならコンビニのアルバイトの方が条件がいいとなってしまう。産業間で人材の奪い合いが起きているのかな、と感じていました。
そこで横田課長におうかがいします。農業の人材不足というと、担い手の不足と、作業の方の不足があります。横田課長は、それぞれどのようなハードルがあると考えていらっしゃいますか。

日本農業新聞 記者 岡部孝典氏

横田 岡部さんのおっしゃるように、農業に就く方には、経営者になる方と労働力になる方とがあります。経営開始のハードルとしては3つのファクターが考えられます。まず農地の確保です。農業は農地が必要ですが、日本の農地や国土は限られていますし、それぞれの地域の状況も違うので、農地の確保が新規参入に当たっての課題になります。それから、資金です。生産のために、機械や施設への投資が必要です。あとは技術です。技術がないと一定の品質の農産物ができません。この3つすべてを確保することが農業を始めるに当たって必要になります。これらの障壁を下げて多くの方に農業に携わっていただくことが、重要になります。
労働者の確保の面では、農業に対して定着してしまっているマイナスイメージを克服していかなくてはなりません。マイナスイメージとは、賃金の問題、労働時間の問題があるうえに、肉体労働でつらいといったことです。そのため、他産業の景気がいいと農業に人が集まりにくい。まずは、働きやすくなるよう環境を整えていくことが大きな課題だと考えています。

岡部 農水省としては、それらの課題に対してどのような支援策があるのでしょうか。

横田 まず言えるのが、農業人口を獲得するための予算はかなり手厚くしているということです。経営者に対しては農業次世代人材投資事業という、就農前の研修を後押しする資金と就農直後の5年以内の経営確立を支援する資金を交付する支援策があります。これは、新規で農業を始める人は技術を獲得して収入を得られるまで厳しい時期を過ごさないといけないので、技術獲得のための資金と、開業後の最低限の生活の安定を確保するものです。
今後取り組みたいのは、新規参入者に対する地域のサポート体制の強化です。やはり、地域が新しく農業を始める人を応援したり、面倒を見ていき定着してもらう必要があります。
労働力の支援としては、現在40歳前後のいわゆる就職氷河期世代の方の雇用について政府としても力を入れていますが、ひきこもりと言われる方々や障害者の方々も含めて、多様な方が農業ではたらける環境をつくっていきたいと考えています。

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